第23話 嬉しいけど恥ずかしくはない

 五月は全員で西門に泊まる。元々半分は西門の人間だし。まったく屋敷にいる暇がない。

 三十一日にはいないといけないので、先に奥の野営地に行く。

 性欲処理はいくらでもしてもらえる吾に比べて、瑳弥殿は遥かに辛いと思われるが、これも修行だと頑張っておられるそうだ。どう頑張るんだか、判らないが。

 細目だが巧知木の枝が三本見つかったので、女中頭に小杖を造って渡した。

 三位以上でないと持っていない物だったので、やっと吾の真の家臣になれたと非常に感激される。

 巧知木本体は見つかっていない。川流れの流木で手に入れるのが普通で、かなり奥に生えていると推測されている。


 十日後に茨回廊に入って、鋼銀が幾つ出たかなぞ気にせず、ただぼこぼこ穴を開けて行く。

 遅くなるといけないので、三十日に西門に戻った。

 三十一日の夜、瑳弥殿の隣の部屋に待機と言う名で軟禁される。見張りは守護将閣下。

 夜半過ぎ、扉を開けた女中が深々と頭を下げた。


「無事に、授かられました」


 瑳弥殿の部屋に入ると、全裸待機していた瑳弥殿が飛び付いて来る。後は若い二人で、と守護将閣下もお義母上も出て行かれた。


 カラスの断末魔の悲鳴で目が覚める。近付いて来るカラスを家人がぶち殺していたそうだ。その方が五月蝿いに決まっているだろうに。

 朝になって、漸く瑳弥殿の授かりの術技を聞いた。それどころじゃなかったからね。

 授かったのは戦闘系全体に効果のある武道。武技、武術、武芸、武道の順で効果範囲が広く基礎能力への影響が強い。

 西門の者は将来は近衛軍司令だと騒ぐ。


 本当に近衛軍司令になれる可能性があるので、瑳弥殿は正室ではなく対等な伴侶になった。

 女が高位や別の家の当主の場合、正室とは別の交際相手に使われる呼び名だ。 

 一緒に住んでも姓は変えない。

 近衛軍司令が、制度上は夫の下の立場の正室ではまずい。

 後は六月末まで奥の野営地でパワーレベリングしてもらう。姑付き。

 他の家人は茨回廊前なのに、祥泉と佳楊は奥まで付いて来た。出でよ、金製精力の腕輪四つ揃い!

 

 近衛軍に合流して出撃する兄上達を見送ってから、吾が屋敷に帰り、翌日近衛軍に出仕、溜まっていた確定をする。

 今回の雨季討伐の結果次第だが、吾が魔都に行く時の護衛は、国軍選抜千人以上で魔都内で野営が可能だそうだ。

 出てくる魔物の強さとリポップする間隔が判っているので、東の魔都なら制圧さえ可能らしい。

 始まりの町で銀の武器持ってスライムや野良犬狩ってるようなものか。

 もう、パーティ組んで小隊規模の指揮の話なんか吹っ飛んでしまった。


 父上の屋敷にお土産を届けに行くと、姉上が瑳弥殿が妹なのを確認してくる。

 流石に呼び捨てにはしないで、瑳弥殿と呼んでいる。

 この幼女を見ると、なぜか安心する。

 転生前の個人情報はもう記憶にないんだが、こんな妹か、娘がいたのかも知れない。

 帰ってきていた姉さまに加工費を払って、巧知木の小杖を造ってもらい、父上にお渡しした。

 三位になる父上の戦略物資になると思う。

 巧知木の首飾りは、数が揃えば平の女中のお仕着せにするつもり。


 雨季に入ったので、王都の外には行けないが、出来る事はある。下町の道具屋巡りだ。

 王都の戦力が手薄になっているので、祥泉と佳楊は留守番させる。

 吾と瑳弥殿、茉莉花の三人で行けなくもないが、西門が付けてくれた護衛五人と、まず南町に向かった。十人乗りの車も西門が出してくれた。


「一緒のお出かけ。初めてですね」


 中町にもあまり出たことがなかった瑳弥殿が大はしゃぎする。可愛いので撫ぜてしまうが、怒らないどころか喜ぶ。事案ではない。


 昼前に中央大通りの横の道具屋に入る。持っている物は瑳弥殿に装備させたが、雨季前なので近衛軍で出た物は貰っていない。

 相性を見ながら、持ち帰り物のアクセ買いをする。確定して渡すと、瑳弥殿は全肯定してくれる。

 護衛にも買ってやる。何かが報われたらしい。吾の護衛になるのには、熾烈な競争があったようだ。

 小物で合う物を全部買ってから、店主に未鑑定の、中物、大物がないか聞いた。

 なぜか諦めた顔で、二の腕輪や、小冠を出して来る。


「むしろ、大きい物の方が売れ残りやすくないか」

「仰る通りです」


 額冠も出て来た。

 金物屋が未確定の大物を持ち込むので、高官や諸侯も吾が確定した物を買うようになり、確定品は安くしないと売れなくなった。

 額冠の中に菱形を三つ繋げた物があった。瑳弥殿に合っていたので、買って確定する。


【猛者の額冠】


「あれ、違った」

「どうなさいました?」

「攻撃力、防御力、耐久性が上がる強者の額冠と同じ形なのですが、攻撃力、敏捷性、回復力が上がる猛者の額冠でした」


 瑳弥殿のおでこにぺたっと付ける。


「似合いますか?」

「とてもお似合いです。猛者ですね」

「嬉しい」


 人前でいちゃいちゃする。店主イラついてるだろうな。

 護衛の相性も見て、二人に小冠が当たった。

 今日は初日だし、市場大通りに行くと何があるか判らないから、当たらなかった者もがっかりしない。

 手を付けてしまった手金庫もあったので、買い取る。その場で開けるような悪趣味な真似はしない。

 昼餉の後スコールが降ってくる前にもう一軒覗き、護衛に菱形二つの攻撃力、敏捷性が上がる猛き小冠が当たった。

 姫様の護衛に相応しい物を頂戴したと喜んだが、火属性の人だ。


 翌日午前中寄った二軒で護衛の小冠が揃い、瑳弥殿は強者の額冠も出て、良い運をお持ちだと西門勢に尊敬されまくる。

 好い気になって昼餉後の店の小冠四つと菱形三連の額冠二つを買ったら、一つは風属性の猛者の額冠だった。補給隊に頼んで兄上に届けてもらうか。

 もう一つは地属性の知力、判断力、統率力が上がる知将の額冠。知り合いで該当者は軍指令閣下の秘書官の人かな。

 南町の道具屋は儲かっているので、規模的には中町の道具屋と変わらないのだけど、王城まで売りに来ない。金物屋ほど勘に自信がないのかもしれないけど。

 定期的に拾いに来る必要はありそうだ。


 南門に近づくと討伐人の姿が増える。逆侵攻目当てで雨季に入る直前に外国から都入りして来るのだそうだ。

 万が一都に魔獣が入り込んだ場合の戦力になるので、歓迎される。防衛戦に参加されても統率が取れないので邪魔なだけ。

 命懸けで真っ当に稼ぐ者達なので、治安にはプラスになる。

 こちらを見てこそこそ話をしている者もいる。


「なんだありゃ。豪勢過ぎやしねえか」

「西門の尉官衛士、将官の親族、近衛の上佐格軍属、近寄らない方がよさそうだぞ」

「軍属の上佐って、何すりゃなれるんだ?」

「一人は只の従者か? 尉官より良い装備してるぜ」

 

 外国のマントの刺繍の意味を判るだけの知識もあるようだ。


 翌日から市場大通りを発掘した。

 流石に銀製品は少ないが、売れ残っている金製品が目立つ。

 試そうと思っている事があるので、指輪は全部買う。

 吾が手を付けた手金庫を買うのが知られていて、一日目で三つ買った。

 道具屋は五金で買って百金で売れるのだから、博打でもない。

 吾が買わなければ、外れを抱えておかないで済む。


 三日目で瑳弥殿と護衛の装備が粗方整った。

 護衛は鋼銀の武器を貸し出されていたが、売っている持ち帰り物の良品を個人用に買い与えた。

 雨季討伐を当てにして仕入れものの、吾のせいで軍が買わずに売れ残ったそうだ。

 個人的に相性の良い素材を練成した方が、未確定値段でもなんだか判らない物を買うより良い。

 資金に余裕があるので、鋼銀同等の物は買っておく。


 十日目に近衛府に問い合わせたら、戻らなくても大丈夫だと言われた。

 持ち帰り物はほぼ事前に買ってしまったし、魔都どころか周辺に掘りに行ける者もいない。

 防衛線はかつてない余裕があるそうだ。兄上と東門が心配になるが。

 手金庫が幾つも手に入って、どんどん資金が増えるので、お土産として見栄えの良い額冠と小冠も目に付いた物はみんな買ってしまった。

 確定して店番させるよりも、薄利多売路線にした店が増えた。


 

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