第22話 十二歳過ぎていれば児童労働に該当しない

 真北の魔窟までは、動力車で行ける道が付いていた。魔窟の前は木の柵で覆われ、ファンタジーな森の中の村になっていた。

 吾が家の家人はここで下ろす。宮廷錬成師も交代で泊まってレベリングしているそうだ。

 歩かせるとかえって危ないので、姉さまは湖まで背負子で背負われて行く。文官の子供のパワーレベリングではよくある事。

 湖の入り口もやはり村と化している。入ると継嗣殿がお出迎えしてくれた。


「よく来てくれた、調達師頭殿!」

「わざわざのお出迎え、恐れ入ります。魔窟は兎も角、ここは費用対効果が合うんでしょうか」

「貴殿が発掘してくれた武器のお陰で、この辺りの魔獣など恐るるに足りぬ。肉と鎧の材料でしかない。兵の訓練にも最適であり、六月まではこのまま保てる。この辺りを減らしておけば雨季が相当楽になる。皆、貴殿には感謝している」


 雨季後の逆侵攻でまたここに仮説基地を造るそうな。儲かって笑いが止まらないらしい。

 魔窟で出た銀でレベリングしている錬成師に二指物の伸気剣を造らせ、下士官に持たせている。去年なら尉官の装備だ。

 尉官は銀より良い魔物素材か上物の銀製、佐官は鋼銀同等の魔物素材か鋼銀製の武器を所持している。


 夕餉前に前回行かなかった東側を少し覗いたら、吾の二の腕より太い二腕強の枝が埋まっていた。

【香紫檀の枝】焦げ茶色なんだが。埋まってたからか。

 持って帰って姉さまに見せると香木だと言う。削って粉にして、匂いのしない専用の紙の上で火を点ける。

 精神疲労を緩和する効果があり、文官に好まれている。見た目が似ているだけで紫檀とは別の木。

 一本を粗、中、上、極上に分けられるので、効力の同じ部分を再編成して整形する職人の仕事が必要。


「手間は、如何程差し上げればよいのでしょう」

「お金より、中品を半分もらえないかしら。この匂いを毎日嗅いでいると、孕み易くなるの。薬とは違うけど、間違いのない事なの」

「それでしたら、どうぞ。後はよろしいですか」

「粗を職人養成所に上げると、粉にして匂い袋を作るわね。貧しい子の小遣い稼ぎに良いかな」


 長さは全て一指、切り口の一辺が中は五爪、上は四爪、極上は三爪くらいの拍子木状になって帰ってきた。

 形に収まらなかった端材みたいのも、姉さまに上げた。

 並べて見ると、良い物の方が色が薄い。

 上と極上は父上のお土産にすれば、贈答用に最適だそうな。半分上げよう。

 上と極上の四分の一ずつを、継嗣殿に儀礼として差し上げたのだが、香紫檀が複数見つかり、上と極上の四分の一を貰えるなら、それだけで今回の野営の費用が出る、と喜ばれた。

 全量四分の一上げるつもりはなかったが、しょば代か。野営代は出しても損はない。一人じゃ来る事も出来ない場所だし。


 風向きや地形を考慮して、香紫檀本体のある場所を探した。

 本体があれば、枝を切って香木になるまで埋めておける。

 戦闘力のある奥地慣れした採集人を連れているので、何か良い物が採れているようだ。

 茉莉花にもやらせているが薬の材料や香辛料ばかりで、普通の食用は少ない。

 吾も魔物素材と香紫檀を見つけているので、本体の捜査はあったらいいなのおまけ。

 帰ると茉莉花が困り顔で聞いて来た。


「今日一日で、お屋敷で使う十年分くらいの香辛料が採れました。明日はどうしましょう」

「父上のところに持って行ってもいいし、軍ならいくらでもいるんじゃないか。明日も集めてくれ」

「はい」


 三日で止めさせた。他の採集人に聞くと茉莉花は香辛料を見付けるのが異様に上手いらしい。

 三月いっぱい探したが、香紫檀本体は見つからなかった。

 本体の位置が判らなくとも、雨季になれば魔物が暴れて枝が折れ、風雨に乗って南下した後埋もれて、半年後の三月以降には香木化しているはずなので、恒久財源になる。

 墓荒らしの術技がないと見付けられないが、少なくとも吾の血筋に授かる者が現れるだろうと期待されている。


 姉さまと彪玉はここで錬成していれば能力の上がりが大きいので、居させてもらう。

 吾は東門との約束があるので帰った。

 最早本家とか父上の屋敷と呼ぶべき家に行って、今回のお土産の目玉、香紫檀を出した。

 どんな匂いか嗅ぎたいと姉上が言い出し、上物は十歳未満にはきつく感じるらしく、中物を試した。

 玉露は子供の飲むもんじゃない、みたな?

 ご正室が嗜みの一つだと、銀の小さなおろし金で粉にして、専用紙に乗せて火を点けると、穏やかな香りが広がった。


「この、使ってしまった物は譲ってもらえぬか」


 父上に頼まれた。姉さまも言っていたが、毎日上物は贅沢と言うより無駄遣いらしい。


「姉さまから、どのような物かは伺っています。では、こちらもどうぞ」


 頼んだのは父上だが、使用する三人に中物を一つずつ渡す。


「何時もながらの心遣い、感謝に耐えません」


 ご正室が二つ仕舞いながら言われたのだが、よくある事が起きた。


「こちらにはないのか」

「姉上の分です」


 父上の膝の上で憤慨している六歳児に差し出すと、父上が十二になるまで預かっておくと言われて収納された。

 どれだけの物がお二人の収納に入っていることやら。


 翌日近衛府に出仕して、理力物の確定をしたら、二の腕輪の四つ揃い一組、三つ揃いは二組出来た。

 指輪と板型腕輪一つずつ余り。

 少ないように思ってしまうが、受け取りに来た宮内卿は感動していた。

 近衛府とは言え、宮内卿が受け取りに来るのも凄いが。

 いや、これ無属性理力物多いんじゃないのか? 千あっても半分ハズレで、属性は七つ。付加は百以上あると言われているから、五百なら一つあれば良い方。今回指輪だけでも五つ出た。

 今のところ、どれがいくつ出ているか、数えている余裕はない。

 統計が出たからって、数が変わるもんでもなし。

 

 何時でも行けると東門に連絡したら、翌朝迎えが来た。初めての場所なので、家人は連れて行かず護衛大隊と情人三人で行く。

 東門守護将閣下は、兄上を二腕越えに拡大した人だった。並べて親子だと言われたら何の違和感もない。杜撰な性格じゃない事を祈る。

 歓迎会は肌の露出が多い若い女が数人いたが、部屋着はいなかった。


 森には小型の車なら通れる道が付けられ、魔窟前は一軒家タイプが並ぶ野営地になっていた。

 何も出て来なかったらどうするんだろう。

 東の魔窟は小山に開いた、見た目は広い自然洞窟で、魔獣がいなければ地球の鍾乳洞と変わらない。

 山陰の魔窟と言う適当な名前が付けられていた。

 中は、広い道が枝分かれしながら緩やかに下って行く、三角州のような構造だった。

 奥に行くほど道幅が広がり、魔獣が増える。

 天井が高いせいか、でかいカラスがいる。地面はトカゲとヘビ。


 中央最奥まであと三分の一の辺りで反応があり、穴を開けて掘ってもらったら、鋼銀と同じサイズの金塊だった。深さも同じ一腕。

 東門勢は盛り上がるが、ここの構造はかなり掘るのに手間がかかる。隣の道に行くのにはかなり戻らないといけない。壁や天井にはない。

 最奥まで行って発掘人に一つ収納させて探らせたが、判らなかった。

 とりあえず掘れるだけ掘って隣の道に行ったが、半分くらい戻らないといけなかった。

 半分吾が貰う案件なのだけど、報告を受けた東門守護将閣下は大興奮だった。


 翌日、東の端から掘って行く。ほとんど移動時間に費やされる。

 五日やったら飽きたので、外回りをした。

 北東方向に行くと、大河に棲んでいる大蛇や、少しドラゴンぽいワニの死骸が見つかった。

 雨季でここまで来て戻れなくて、野垂れ死にするようだ。

 雨季に防衛線まで来てしまうのを討つのは、かなり危険な魔獣だった。

 サギ型の長く鋭い嘴の鳥の死骸もあった。嘴は鋼銀同等の水属性の伸気槍になる。

 帰るまでに瑳弥殿の分も入れて、三人分確保出来た。


 珍しい木はなかったが、鋼銀同等の水属性の魔物素材があったのは、吾としても収穫だった。

 結局四月いっぱい働いてしまった。それでも掘れたのは三分の一強。

 茉莉花の生まれた村は東門の東南東、大河の近くにあるのだが、車で二日掛かる。

 行くかと聞いたが、行って何があるというものもないので、行きたいとは思わないそうだ。

 西町の良い女の道具屋も、息子が二人いるが、どちらも討伐人になって全く帰ってこないと言っていた。

 庶民や中級民の一度家を出た子供はこんなもの。


 東門もこのまま野営地付近の討伐を六月末まで続けるそうだ。

 今年の雨季は去年以上に楽になりそうで、皆、雨季が楽しみになっていると、守護将閣下はおっしゃった。

 迂闊な性格でない事を祈るばかりだ。

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