第21話 そろそろ魔都の検証でも

 近衛府に出仕すると、二日後に国王陛下の御前で確定をするように言われた。


「高官諸侯に直接そなたの実力を見せておく意味もあるのだが、なにより陛下がご覧になりたいのだ。外国からも買い入れて、かなりの量があるようなのだが」

 「それは、大丈夫だと思います。只の銀を選る手間と、収納する時間、確定した物の選別に時間が掛かるだけです」

「それならよい。一つずつ鑑定するのに比べれば、そなたのは金製でも時間が掛かる内に入らん」

 

 日付を間違わないように、近衛府から迎えが来る手筈がすでに整えられていた。


 謁見の間で居並ぶ高官の前にぎっしりと並べられた銀製品を、まず付加価値のあるものだけ収納してただの銀とそれ以外に分け、明らかに有用な物を先に全部出し、その後それ程でもない物から無属性理力物を選び出し、三つ揃い十一組、八つ揃い四組が出来た。

 陛下に足許まで寄るように招かれた。


「見事である。これなるは、末代までわが国に優秀な人材を産み出す、前代未聞の貢献である。汝を五位の中、近衛軍調達師頭とする。三つ揃いは六位以下へ下賜とし、合わさざる物は持ち帰り、自由にせよ。以後も同様である」


 以前からお覚えは目出度かったのだが、陛下のご機嫌が怖いほど麗しい。

 八つ揃いを自分が貰えると思っているらしい高官諸侯からも、やけに好意的な視線を感じた。


 王族や上位貴族で独占しないで欲しいという願いは叶えて貰った。

 バラは持ち帰って良い事になったが、八つ揃いが一つ足りないでバラ扱いもないので、二の腕輪、腕輪各四つ揃いで一組になった。

 一家に八つ揃いがあるより、ニ家に四つ揃いに分けて渡した方が人材確保には良いらしい。

 確定は溜まり具合を見て行うので、そんなにバラは出ないと思う。


 流石に小屋敷はおかしいので、まともな屋敷を買った。官位からすると父上の屋敷より中町寄りでないといけないのだが、近衛府に出仕しやすい、王城に近い元四位の家の屋敷を世話された。

 継嗣が地位を保てなくて、売りに出された物件だった。実力主義なのでよくある事だそうだ。

 瑳弥殿に付いて来る予定だった女中に入ってもらって、トップを女中頭にした。祥泉は秘書、佳楊は会計責任者の食料庫番にする。

 吾の勢いから、佳楊は一族内の立場が父親より上になったそうだ。 


 これからの予定としては、北の湖の調査、四月に東の魔窟調査、五月は茨回廊、六月はもう討伐準備なので、弱い魔獣を狩って戦闘訓練。

 やる事はあるのだが、なんだが人生双六で上がってしまった感じ。

 そう思っているのは吾だけで、周りはすこぶる元気だ。

 護衛対象が五位になったので、兄上達は全員一格上がった。兄上が大尉残りは中尉。階級相当の実力はちゃんとある。

 装備込みだけど、兄上は大概の少佐とやっても負けないと軍司令閣下がおっしゃっていた。


 家人達は吾に会うまでは養成所を卒業したら、六位の貴族の女中見習いになれたら有難かったのだけど、今や五位の主人が生家を出た時から仕えている上女中。近衛将校の情人付き。

 祥泉と佳楊に至っては殿様の情人。将来は側室になれる可能性が高い。

 故郷を捨てる覚悟で出て来た茉莉花は、情人のトップで、今のところ唯一どこにでも付いて来られる。

 最初は捨てられたくなくて無理をしている雰囲気があったが、この頃はでかくなっても子犬のつもりで甘えてくる犬みたいになっている。

 でかくはなっていないが。


 父上の家もみんな幸せそうだ。家人は自腹では買えなかった金装備を下賜され、事ある毎に褒美を貰える。

 大臣級じゃないと持っていなかった巧知木の小杖のお陰で、父上の仕事も順調らしい。

 雨季の討伐が去年同様に順調だったら、吾を産み育てた(産ませ育てた?)功により三位の下中務大輔に昇進が内定している。

 日本の役職だと副大臣みたいだが、兵隊の位で言えば三位は下でも中将。

 その父上から、今姉さまの許に通って来ている男を見定めて欲しいと依頼があった。

 魔都について妙な疑問を持っているそうで、吾とも係わりがあるように思えるのだそうだ。


 男の名は彪玉ヒョウギョク。姓のない王宮錬成師で、十九歳。九位の下。平民がこの年で自力で得た官位としては高く、それだけの実力はあるそうだ。

 姉さまの部屋で、父上、兄上と一緒に会った。

 会うと、挨拶ももどかしく質問してきた。


「若殿様は魔都がすべて高所にあるのを、どうお考えでしょうか」

「昔は高くなかった。海が下がったのだ」

「なんだ、それは」


 彪玉より先に、父上に聞かれた。


「世界全体が寒くなり寒冷地の大地を覆う氷が増えれば、海の水が減ります。後は、海の底に大きな谷が出来るとか」

「なぜ、その様な知識がある」

「前世、異世界で一生を終えた記憶があります。確認のしようもない話を子供がしても、気が触れたとしか思われないでしょうから、お話ししませんでした」

「そうか。妙に利発な子だとは思っていたが。今までにない術技を授かったのも、影響があるのか」

「はっきりとは判りませんが、あるように思えます」


 意外にあっさり受け入れられてしまった。普通じゃないのは確かだし。

 彪玉が前のめりで寄って来る。


「それで、なぜ世界が寒くなるのです」

「ゆっくりだと太陽の変動とか大気の組成が変わるとかなんだが、高価な装備品などが残っている状態から首都から逃げる暇がなかったと考えると、火山の大噴火か、巨大隕石の落下かな」

「火山は判りますが、何が落ちてくるんですか」

「世界の造り滓みたいな岩が天に浮いていて、たまに落ちてくる。流れ星がそれ。その凄く大きいのが落ちると、舞い上がった埃が何年か太陽の光を遮って、地上が寒くなる。前の世界では何度かそれでほとんどの生き物が死ぬような事が起きた。この世界ではそこまで酷くなくても、寒くなると魔物が南下するから、人間だけ滅びかけるなんて事があったんじゃないかと思っている」

「そんな事、何度も起きるのですか」

「そう度々起きるものではない。前世で最後に起きたのは六千五百万年前だ」

「はい? 千? 万年?」

「世界が出来てから四十五億年とか五十億年とか言われていた。生き残った小さいネズミみたいのから人間らしくなったのが十万年前くらい。それが本当だと言われだしたのが二百年くらい前。地球の話はしてもしょうがないと思う。この世界では、まず南の海に大きな流れ星が落ちて港を全滅させ、その後寒くなってどこにも逃げられないような状態で今の魔都辺りの大都市に篭城して滅んだんじゃないだろうか」


 みんな黙ってしまった。

 それ程外れていない仮説だと思う。理力の八つ揃いや三つ揃いは、持っているような身分は逃げ出さず、大都市と港の間にいた庶民が生き残り、文明を再生して、話だけは知っていた。

 今では無属性や霊属性、心属性の装備は造れないが、魔都では造れたので出土する。

 造り方を知っていたのも高位の錬成師だったので失伝した。

 造れたのなら、三つ揃いはそれ程高価な物ではないと思うので、疑問は残る。

 災害そのものの伝説すら残っていないのは、恐ろしすぎる記憶なので意図的に忘れたのかもしれない。


「魔都に行けば、何かあるとは思っている。だが、焦る気もない。早くとも十五を過ぎてからだ」

「その時は、手前もお供をさせて頂けるでしょうか」

「自分を守れるのであれば」

「出来うる限りの努力を致します」


 この男は連れて行くべきだと感じる。北の湖の野営に加えてもらえないか、北門に頼んでみよう。

 その話をすると、姉さまも行くと言う。基礎能力が上がるし、珍しい素材も手に入るはずなので。

 職人の基礎能力は高いほど良いのだが、野営でのパワーレベリングをしないのは、採集人より戦闘力がないから。護衛の負担になる。

 北門に相談したら、連れて歩くのではなく野営地に居るだけなら大丈夫だと言われた。

 すでに簡易な砦レベルの物を造って、採集基地になっているそうだ。


 北門から迎えが来た時に一緒に行けるように、姉さまと彪玉も吾の屋敷に泊まる。出る時に姉上が半べそで「ずるいぞ」と言ったが。

 他所にお泊りと言うだけで、何か良い事のように思う年頃のようである。

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