第20話 拾った石が金に変わるような
暫くはもらい泣きする女達を見ていたが、頃合いを見計らって三つ揃いを回収した。
「基本属性は」
「水です」
金の指輪を差し出す。
「では、これを。水の理力だ。霊属性の物は治癒師に全部渡している」
「いいんですか、そんな良い物」
「見ての通り、なぜか、指輪はかなり出るんだ」
両手の指を見せた。
それから部屋に戻ったのだが、三人掛かりとは卑怯なり。持ってて良かった精力の腕輪。
女郎屋の朝は遅い。部屋で朝餉を食べた後、降りて行くと兄上達が待っていた。
すでに聞いてはいると思うが事の顛末を話し、今日の予定を決める。
朝は道具屋を一軒見て、昼餉の後に市場へ行き、この店に戻って来る事になった。
部屋と敵娼を確保する為に女将に古金一枚払ったが、吾の敵娼は十二歳になった紅雀一人にしてもらった。
道具屋でまた、板と針金の銀の無属性理力物が見付かる。西門守護将閣下用が揃ってしまった。
そして、いよいよ南門前市場大通りである。
王都の外壁から道一つ離れて、広い通りの両側に三階建ての結構大きな店がぎっしり並んでいる。それが中央道路を挟んで東西に伸びている。
明治の銀座の絵だか写真だかが、こんな感じじゃなかったか。
「これ、どこまであるんでしょう」
「東西とも二里(一里は千腕)と言われている」
「端から見て行く以外にどうにもならないですが、翌日商品が入れ替わったり追加されたりしたら、永遠に終わらないんじゃないでしょうか」
「一軒ずつ見ないで、術技の探索は使えないのか」
「兄上、賢い」
「今日のそなたが、おかしい」
東側から見て行くことにして、入り口で探索をした。
やってみたら、墓荒らしはいいけど、死体暴きが使えない。普通に売っている魔物素材が全部反応してしまう。
魔物素材は買う必要がないので、お宝だけ探す。持ち帰り物の金と銀のハズレじゃないのは全部購入。
各属性の能力上昇効果のある護衛中隊が装備可能な物は、その場で渡して戦闘力を強化する。
茉莉花は現時点では限界まで装備している。
片側四分の一で薬筒が二本、二級と三級。銀の理力の二の腕輪火属性と地属性。銀の理力の腕輪水属性。金の霊力の指輪霊属性が見付かった。
金の指輪だけで仕事済んだ感じ。
反対側に渡って、手金庫があったので購入。
「そなた、昨夜手で開けて見せたとか」
「ええ、やりました」
「夕餉の前に見せてくれぬか」
「はい」
一枚欲しいと。吾が見つけた手金庫は泡銭扱いなので、配布せざるを得ない。
中央通りに戻るまでに銀の無属性理力の腕輪、板型と針金型が見つかって、お義母上の分も揃いつつある。
銀製無属性で好感度を上げる「好ましい指輪」が二つ見つかったのだけど、捨てたい。姉上をこれ以上可愛くしたくない。
店に帰って女将に見せる。
「これはそち等がしていると客受けが良くない物か」
「いえ、化粧と同じですよ。紅雀に下さるんですか」
「良ければやるが、二つある」
「二つあるなら一つは家に持って帰れ」
兄上が横から口を出してきた。
「姉上には銀物はお似合いになりません」
「甘葛だ。少しでも男からの見てくれを良くしてやらねば」
「姉さまは実力に男が寄って来るでしょう」
「中程度の男ならな。しかし、出来得る限り上の男の子を産ませてやりたいではないか。あれは他家に行ける者ではない」
装備で底上げするまでは姉さまは男恐怖症だった。この頃は「身の喜び」を知って、優しい男を通わせたいと言っているそうだ。
実家住みで男から種を貰って、一族の強化役になる「高級子を産む道具」になる当主の血族も普通にいる。
その手の半分箱入り娘は、自分で男を選ぶと得てして屑に引っ掛かり易い。
「今回出た物はすべて吾の一存で処分出来ます。もっと良い好感の物が出たら、こちらは紅雀の母にやろうと思います」
「まあ、それでもよいが」
好感度物は同じ物を複数装備しても効果は重複しないが、効果の低いものでも隊長格が装備していると指揮がし易く、兵の士気も上がるので全て軍に渡していた。
男が装備すると女受けも良くなるので、一つは欲しいアイテムである。
兄上は好感度の底上げは要らないだろうと言う事で、軍からは支給されていない。
銀物を姉さまに持たせて、後から金物が出たら貰おうと言う魂胆だと思われる。
兄上は薄らがっかりして黙ったのだけど、警護中隊の一人が手金庫を買ったのを思い出して、開け芸をさせられた。
当然見物人に古金一枚配布。見せる方がご祝儀払うのが旦那芸。
夕餉はそれぞれの部屋で摂った。紅雀がやらしいおどりを踊った。藍玉は精力の腕輪を装備した。
翌日も市場漁りは順調だった。開始から三軒目の店に手金庫があり、資金の現地調達が出来た。
一軒、一階が持ち帰り物の銀装備だけの店があった。差別化としては正解か。
しかし、選択眼がある訳ではないようで、半分はただの銀だった。
五百もある薬筒の内三級以上は二つだけ。二級と三級。
残りの銀製品を見渡して、店主に言う。
「半分買いたいが、一つずつ料金を払うか」
「それでしたら、お好みの物をお取り下さい。こちらにお渡し下さればまとめて勘定致します」
ただの銀以外は全部買う。弱い付加がある程度に感じる中に無属性の理力物があるが、大人買いが出来なければ見つけられない程度。
しかもそれを確定するとなると、金銭的にも鑑定師の能力的にも無理だろう。
銀物屋の持ち込みの中になかったのは、たいした付加のない物を見分ける勘があるからだ。
「店主、これだけの物をどうやって集めたか、教えてくれるか」
「はい、ただ持ち帰りものの銀全ての買い取りを申しておりますだけです」
「それは、損はしないのか」
「身内に練成師が複数おりまして、銀を買うより安いのです。しばらく売れ残った物から潰しております」
よく言われる重量の値段は国の買い取り価格で、個人の職人は小売価格で材料を買わないといけない。
銀物の買い取り価格は小売値より安いが、潰して小売価格で売っても手間が掛かるから儲からない。
自分で使えるなら損はしないのか。
店にあった指輪と首飾り、腕輪、二の腕輪を全て買い取り、三つ揃いが三組、八つ揃いが一組出来た。
西門に二人分揃ったのを連絡し、近衛軍には銀物屋が意識的に無属性理力物を弾いている可能性があるので、あそこの指輪、首飾り、腕輪、二の腕輪は全量買い取り出来ないか打診した。
西門から守護将閣下とお義母上が受け取りに来られ、抱き合って喜んでいた。姉妹だから問題はない。
お二人は他人任せに出来ないのは判るんだけど、なぜか近衛軍司令閣下もお出でになる。話だけなら遠話で済むのに。
「銀物全量買い取りは、国が行う事となった。全店に提出させる」
「それでは庶民が手に入れる機会がなくなってしまうので、売りは任意とし、三つ揃いを出来るだけ下賜して頂けないか、陛下に伺っても良いのでしょうか」
「我から進言しておこう。広く庶民の力を上げる事も国益である」
元々お土産にしようと思っていた、板型地属性の金の精力の腕輪を差し上げた。
西門お二人は用が済むと帰られたが、話をしていて遅くなったからと、軍司令閣下は吾と同じ店に泊まって行かれた。
この町の娼婦は、どんなに偉い人でも客として来たなら平気だった。
強引な事をすると優良商人が国外に逃げてしまう恐れもあるので、強制買い取りはなしになった。
今市場にある物はほっておくと潰されてしまう可能性が高いので、南町を一通り見て帰る。
東側の残りで三つ揃いが二組。その余りと西側全体で八つ揃いが二組、三つ揃いが四組出来た。
金物の合いそうなのをお土産に家に帰る。
「土産と言う額のものではないな」
「あちらで手金庫が見つかりましたので、むしろ儲かっております」
幾つあったとは言わない。
「そうか、済まぬな」
もう一人済まない人がいる。
「三つ揃いが幾つか出来たと聞きました。八つ揃いは当主の持つ物ですが、三つ揃いでも自分の物として持っていると子を産める女としては嬉しいのですよ」
ご正室、橙枇杷殿、母さまに上げる。二十歳になっていない女には持たせる物ではないそうで、姉さまには二十歳の誕生日に上げる約束をした。
とりあえず金製好感の指輪を上げる。
当然、六歳になったばかりの姉上が騒ぐ。
父上に困り顔で見られて、銀製板型健康アームレット「息災の二の腕輪」をお渡しする。
「銀物ではこれが、一番大きいのですが」
父上が小さい肘の上に当てると、嵌って幅が広がった。
「そうなるんですか」
「ああ、だが片方に二つは付けられない」
姉上が父上に抱きつく。
「父上ありがとうございました」
「いや、これは藍玉に礼を言わねばならぬぞ」
幼女が顔だけこちらに向ける。首柔らか過ぎ。鳥か。
「……藍玉、うれしくおもうぞ」
「姉上に喜んで頂けて幸いです」
生まれて初めて姉上にお礼を言われた。何か起きねば良いが。
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