十話 親玉

 奇声をあげながら絶え間なく攻撃を仕掛ける煤の魔物。ひらりひらりと避け槍で着実に倒しまくるシルフィは数をこなすごとに動きが良くなっていく。ウィルマの訓練以外、魔物と戦う経験は乏しかったが今、おびただしい数の魔法と戦い訓練以上の経験を積んでいるシルフィは自然とレベルアップしていた。


 そして煤の魔物は雑魚なのか大抵一発や数発で倒すことができシルフィは爽快感を覚え楽々と倒しまくる。魔法が使えなくても打撃攻撃で難なく倒し、辺りにはシルフィが倒した煤の魔物が消え去っていく黒い煙が立ち上る。


「楽しい!」


 自分よりも長い槍を軽々とぶん回し軽快に魔物を倒す様はまるで鬼人のようにも見える。魔物を薙ぎ払いすぐさま距離を詰め突き刺し倒したシルフィ。無数にいた煤の魔物が少なくなってきた気もした。それでも見渡せば煤の魔物だらけ。


「次はだれ?」


 シルフィは槍を構え様子を窺うと煤の魔物達がまた一塊になる。大きな大きな塊になると間髪入れず塊のまま突撃をしかけた魔物は高速でシルフィに襲う。シルフィは大きな塊となった魔物に一瞬怯んだが「やれる!」と声を出し気合を入れる。槍を握りしめ向かってくる魔物にシルフィも突撃した。ぶつかり合う槍と魔物。数で耐久力をあげた魔物だがシルフィの規格外の怪力に負け、塊がばらけ次々と消え去っていく。


 とどめをさすかのようにシルフィは目の前に散らばる魔物に突きの嵐を繰り出した。絶命していく魔物。突きが止めばそこら中にいた煤の魔物達はいなくなっていた。


「やった、倒した!」


 ウィルマの訓練以外で魔物を初めて倒し喜ぶ。


 突然シルフィの背後にある斜面に何かが落ちてきた。鈍い衝撃音と風圧でシルフィは驚き目を瞑る。砂煙が舞い上がり落ちてきた正体が分からないが離れていても分かる姉の魔力を近くに感じ弾かれるように顔を向けた。


 抉れた斜面からゆっくりと体を起こすウィルマ。体の至る所には傷や出血が目立ちが目立ち、立ち上がるのさえ辛いのか肩で呼吸をしている。見たこともない姉の姿に呆然と立ち尽くすシルフィは。ふと視界が陰り見上げれば今まさにその巨大な拳で殴りかかろうとしている巨人の魔物がシルフィの視界に入った。

 

(あ………)


 音もなく真上から攻撃を仕掛ける巨人の魔物に頭と体全てが停止した。あと数メートルの所でウィルマが力を振り絞り、魔物の拳を双剣で風のごとく移動し斬撃を与え妹への直撃を避けることができた。拳が無くなった腕はシルフィに当たらず空を切るだけ。しかし拳を斬り付けた事には成功するが、突き出す魔物の腕の力に耐えきれずウィルマは再び地面に叩きつけられた。


 何が起きたのか分からないほど目まぐるしく起こる出来事にシルフィは何が何だか分からなかった。気が付けば拳が無くなっている魔物と地面に倒れているウィルマ。上手く頭が働かず倒れているウィルマの元へ向かう。

 

「ウィル姉ちゃん」


 シルフィはウィルマを抱え震える声で呼ぶ。意識が戻ったのかウィルマは目を覚ますと視線がシルフィと交わる。


「怪我してないか?」


「!?」


「魔物倒したんだろ、っ!」


 ウィルマは激しくせき込み始め口元からは血だまりが吐き出される。全身痛々しい傷と出血。そしていつの間にか激しく消耗しているウィルマの魔力。


 シルフィが戦っていた間、ウィルマは少しでも近づけさせないようにしていたが、すでにウィルマよりも遥かに強くなった巨人の魔物はウィルマを悉く痛めつけた。双剣や魔法で応戦したとはいえ限界を迎えてしまった。シルフィは見たこともない姉の様子に言葉を詰まらせているとウィルマの手が自身の頬に置かれる。


「良く頑張ったな」


  絶体絶命の状況でもいつものように気にかけ優しく声をかける姉にシルフィは心が締め付けられる。いろんな感情が渦巻き堰を切ったようにあふれ出し涙が伝った。


「なに泣いてるの」


 ウィルマは一瞬驚いた顔をしたが苦笑を浮かべシルフィをあやすように頭を撫でる。


雑魚を倒して喜んでいた自分が情けない。巨人の魔物には近づくことだけでも恐怖や畏怖を感じ動けなく、ウィルマに最後まで守られていた。


 あまりにも情けなくて無力だと痛感する。守ってばかりは嫌だと言ったのに、大好きな姉が身を挺してボロボロになるまで守っていたなんて。自分が魔法が使えていたら、もっと力があったらこの巨人の魔物を倒すことができたのだろうか。言葉に詰まって声が出ないシルフィはただ涙を落とす。


「…アレしか無いみたいだな」

「え?」


 ウィルマは小さく呟くとシルフィに抱えられながらゆっくり立ち上がる。全身痛みが激しく走り顔をしかめるが目の前の巨人の魔物と対峙する。戦いながらも弱点を見つけ果敢に攻撃をしたが幾度も防御されたり、避けられ全く歯が立たない。更にはウィルマの能力を遥かに上回るほどパワーアップしたりと凶暴化した。


 諦めかけていたけれどにかけるしかないと腹を括った。



 ウィルマは身に着けていた水晶を一つ握り壊す。その瞬間、ウィルマから激しい風が吹き荒れ煌々と輝き出す。そして無くなりつつあった魔力が甦り更に膨張していく。膨れ上がっていく膨大な魔力にシルフィは圧倒されるが、ウィルマの身体が少しずつ氷に覆われ氷化していくのに気が付く。


「ウィル姉ちゃん、何をしっ」


 ウィルマの異変に気が付きシルフィは慌てて叫ぶが吹き荒れる吹雪にかき消される。止めようと近づこうとするが一歩も動けない。ウィルマの氷化はどんどん進行をする。巨人の魔物もこの吹き荒れる吹雪に動きが封じられている。


「やめて!やめてウィル姉ちゃん!」


 嫌な予感が胸を騒がせる。シルフィは目いっぱい叫ぶが届かない。巨大な魔方陣が巨人の魔物の足元に浮かぶ。一気に魔力は膨らんだ途端、親玉とウィルマの周囲だけ結界が張られシルフィは完全に近づけなくなる。


 そして辺りは真っ白な世界へと変わった。



『アブソリュート・コア』

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Destiny of the War 瑞玉 @florasolitheen

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