九話 親玉

 巨人の魔物と大量の煤の魔物。武器を構え身構えるシルフィとウィルマ。格段に強くなった魔物に未だ驚きを隠せない。なぜ突然強く、禍々しい気が強くなったのか。そしてシルフィを狙うのか。背後にいるシルフィは槍を魔物達に向け警戒している。


「シルフィ、あたしが囮になるから全力で逃げろ」


「でもウィル姉ちゃん一人じゃ無理だよこんな数!」


 シルフィは威嚇するように槍を地面に叩きつけたりしながら反論する。確かに強くなった巨人の魔物と大量の煤の魔物ではウィルマ一人は厳しい。それは自分でも分かっているウィルマ。けれどもシルフィを戦わせるわけにはいかない。危険な目に遭わせたくないと。


 部隊は町や村の魔物達と戦っていてここには来れないだろう。自分しかシルフィを守れない。だが正直妹を守り切れるか不安だ。悩みに悩んでいるウィルマに覚悟してシルフィは口を開く。


「ウィル姉ちゃん、私も戦う」


「っ、馬鹿なことを言うな。死ぬかもしれないんだぞ?」


「守られてばかりは嫌だ!」


 ウィルマは血相を変えて止めるが何度も首を横に振る。その時真横にいた魔物が飛びかかる。ウィルマは「危ない」と双剣で守ろうとしたが、シルフィは長い槍で魔物を突き刺し倒した。それを合図に魔物達は二人に攻撃を仕掛け始める。ウィルマは素早く切り刻み、シルフィは魔物を避けながらも何とか倒していく。槍を振り回し持ち前の馬鹿力で魔物の動きを止めやっつけていく。


「私だって戦えるよ」


 表情は強張りながらも笑顔を見せ大丈夫だというようにシルフィは言う。ウィルマは一連の戦いを見て不安が残るが言い出したら聞かない妹にため息を吐いた。


「無理するなよ。やばいと思ったら逃げろ」

「うん!」


 するとウィルマはシルフィに氷の空気を纏わせる。透明な気が纏ったシルフィは不思議そうな顔をした。何かに包まれている感覚にウィルマは説明した。


「防御力上昇の魔法をかけた。魔法も打撃も半分以下のダメージで済む」


「ありがとう!」


「お前は煤の魔物を倒せ。巨人の魔物は私がやる。危なくなったらサポートするから」


「オッケー、任せて!」


 本当に大丈夫だろうか。シルフィの軽い返事にウィルマはますます心配だが妹を信じるしかない。


ウィルマは巨人の魔物に斬りかかるとシルフィから離れさせるように誘導する。どうにか距離をとるために、ウィルマは魔法も繰り出し魔物を遠のかせる。煤の魔物と対峙するシルフィは槍を握り相手の出方を窺う。シルフィ自身、魔法は使えないため物理のみの戦い。一つの隙が命取りだ。

 

 煤の魔物は突撃するとシルフィは素早く避ける。何匹も突撃し始めるとシルフィは槍で防ぐ。魔物との押し合いが始まったがシルフィは「おりゃあ!」と勢いをつけ魔物達を薙ぎ払った。


 すぐさまシルフィは地を蹴り槍を握ると突き刺し倒していく。また槍を突き刺しては魔物は黒い煙を放ち消えていく。槍を叩きつけ地面に押しつぶしたりと槍をぶんぶん振り回し着実に魔物を倒していく。当初は恐怖で動けなかったのに今では落ち着いて魔物と戦えるくらい冷静になれている。


自分が狙われていると分かっていながらも守られてばかりで、後ろに隠れているだけではいけないと自分を奮い立たせていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る