八話 親玉

 ウィルマは果敢に攻撃をし最後の一撃を食らわせようとした時、突然巨人の魔物は咆哮を上げる。その衝撃でウィルマは吹っ飛ばされるが体制を立て直し着陸した。咆哮はシルフィにまで大きく届き思わず耳を塞ぐ。体中にビリビリと響く咆哮を上げた魔物は禍々しい気配を纏わせ始めた。真っ赤な目が更に淀み不気味に光った。

 

「何が起きた?」


 比べ物にならないほどの邪悪な気配にウィルマは動揺する。片腕を無くした魔物は再び人型から球体になると、また人型へと姿を変える。さっきの巨大よりは小さくなったがそれでも相当大きいが異様な雰囲気に警戒を解かない。ウィルマは先手必勝のように攻撃をしかける。双剣を向け突撃するがフッと魔物は消え空を切る。


「っ!?」

 

 今までとは比べ物にならない速さに驚く。後方から魔物の気配を感じとるとウィルマは空中へ飛び上がる。下を見ればやはり後ろにいたのかこちらを見上げる魔物と目が合った。魔物も後を追うように高くジャンプすると一瞬でウィルマの目の前までやって来た。


 瞬間移動でもしたかのように移動した魔物は腕を振り上げればウィルマめがけて殴る。ウィルマは魔力壁を張るがとてつもない力に弾き飛ばされ地面に叩きつけられた。魔力壁を張っているウィルマでも衝撃は伝わり暫し動けなかったが、次の魔物の攻撃がやってくる。地面から降り立った魔物はまた腕を振り回しこちらへ向かう。ウィルマは立ち上がると地に手を付けた。


『アイス・ゲイザー』


 魔物の足元から氷の塊が勢いよく突き出す。命中し魔物も動きが止まるが一瞬で体が修復する。


(こいつやっぱり修復持ちか)


 弱点を攻撃しない限り永遠に修復する厄介な特性だ。しかも能力が上がったのか修復するスピードも速い。的確に攻撃しなければ倒すことは不可能。


(修復持ちの魔物なんて噂でしか聞いた事がなかったが)


 ウィルマは考えている間もなく魔物に攻撃される。双剣や魔法壁で防御しながらも魔物の力や速さに翻弄されるようになってしまった。次から次へと繰り出される魔物の攻撃。ウィルマは避けながらも弱点を探るが近づくこともできない。


【エラバレシモノ】


「しまった!」


 魔物はウィルマの攻撃を避けるとその先へ向かう。狙いが自分からシルフィへと変わったことに気がついたウィルマは追いかけた。


『アイス・ニードル』


『アイス・バレット』


 詠唱し巨大な氷の針や塊をいくつも形成すると魔物めがけて発射する。しかし魔物はさらりと避ける。焦りに何発も魔法を放つが一つも当たらない。


「えっ!?」


 魔法壁の中にいるシルフィは魔物が向かっていることに気が付いた。魔物は口を開けると光を集め始める。ウィルマは魔物に双剣で攻撃を当て続けるがすぐに修復してしまう。何度も攻撃をし修復を繰り返している中、ウィルマはある個所を見つける。が、魔物は口から鋭い光線を放ちシルフィがいる魔法壁に直撃した。


「わ!」


 黒い光線が魔法壁に当たり続ける。ぶつかり合う異音が響き魔法壁が振動している。頑丈なウィルマの魔法壁を知っているからか少しドキドキするが、壊れないだろうと思っていた。


「光線くらいだいじょっ?」


 どこか安心して光線を見ていたが徐々に光線が当たっている壁に亀裂が走り始めた。ミシミシと軋む音も聞こえ始め言葉をつぐむ。


(……嘘だよね?)


 姉の魔法壁にひびが入ったことなんて一度もない。いかなる強い魔物でも防いできたのに。魔物は更に光線を強くするとあっけなく魔法壁を打ち破った。魔法の欠片が辺りに散らばりシルフィは衝撃で吹っ飛ばされる。大木に激突するところを素早くウィルマが受け止めた。


「大丈夫か?」


「う、うん」


 魔法壁を破られてしまった。驚きを隠せないシルフィとウィルマ。魔物は背から大量の煤の魔物を作り出すし二人を取り囲んでしまった。

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