七話 親玉
風がザアッと吹き始め冷たい冷気が辺りを支配する。恐怖に目を強くつむったシルフィだがいつまでも魔物から魔法が放たれない。恐る恐る開眼すれば、すでに放たれていた魔法と魔物は彫刻のように氷漬けになっていた。
「無事か?」
声がした方を見れば片手を魔物に向けているウィルマがいた。シルフィは呆然としていたがウィルマが来てくれたこと、助けてくれたことに心底安心したのか目に涙をためる。
「ウィル姉ちゃん!」
シルフィは駆け寄り抱き着けばウィルマも抱きとめる。ウィルマが助けに来なかったらすでにもう死んでいるだろう。シルフィはそう思えば体が小刻みに震える。震えるシルフィを安心させるように頭を撫でるとウィルマは口を開く。
「子供を助けたんだろう」
「なんで知ってるの?」
「逃がしてくれた親子から聞いたんだ。シルフィが助けてくれたって」
「怖かっただろうに、頑張ったな」
ウィルマが向かう途中に助けた親子が血相を変えてシルフィが危ないと伝えたそうだ。親子は安全なところに避難させたとウィルマから聞き、シルフィはホッとした。ズーンと地鳴りと揺れが起き始める。シルフィは驚き警戒するが正体が分かっているウィルマは妹を自分の背に隠れさせる。
「ウィル姉ちゃんこの揺れは?」
「この魔物達の親玉だ。目的はシルフィ、お前だ」
「な、なんで!?」
「分からない。でも確実にお前を狙っている」
パニック寸前のシルフィはウィルマに詰め寄るが魔物の狙いの意味が分からないと告げられる。ウィルマの言う通り、目の先に人の形をした巨人の魔物がどんどん距離が近くなる。
巨人の魔物は飛び上がると一気に目の前まで現れた。大きな揺れと砂煙が舞い上がる。同時に巨体が目に広がり赤い不気味な目がこちらを見据えていた。シルフィは初めて見る禍々しい気配を漂わせる巨大な魔物に思わず一歩後ずさりしてしまう。これが自分を狙う魔物だと分かれば慄く。
「安心しろ」
ウィルマは怯えるシルフィに言い聞かせると魔力を高め始める。するとシルフィを取り囲むように魔方陣が現れ彼女を守るように魔力壁を展開させた。
「一人で十分だ」
双剣を構え刃に魔力を込めると魔物へと斬りかかった。残像のように冷気がウィルマの後を追う。ウィルマは素早く相手を翻弄すると一つ、二つと斬り付け形成した巨人の形を形成していた煤の魔物を倒していく。
『フリーズ・ランサー』
『アイス・バレット』
槍の形をした氷の塊が無数に現れ広範囲に放つと魔物に直撃しバランスを崩し地面へ倒れる。続けてウィルマは片手の双剣を魔物に向ければ氷の塊を何発も発射し着々と魔物を攻めていった。
容赦なく、華麗に攻撃をし魔物に隙を与えないくらいの勢いに「すごい!」とシルフィは目を輝かせる。元々稽古をしていた時や、村人達の話しの中でウィルマは相当強いと分かっていたが、目の前で悠々と戦う姉の雄姿にシルフィは危険な時なのに「かっこいいかっこいい!」と目を輝かせ連呼していた。
倒れている魔物は腕でウィルマを振り払う。ウィルマは自身にも魔法壁を展開し身を守る。空中に氷の壁を作り足場を利用して再び魔物へ武器を構えると電光石火で巨大な腕を斬り落とし、腕を形成していた魔物を全て凍らせ瞬殺した。圧倒的な力を見せつけるウィルマ。巨大な魔物をどんどん攻めていく姿にシルフィ。だが、その高ぶる感情もすぐに嘘のように無くなる。
ウィルマが優勢に思える状況だかなぜか嫌な予感を感じ始める。言葉に表せない不安が胸の中に現れた。なぜそう感じたのか。ウィルマは魔物に畳みかけるように攻撃をしているというのに。
(何だろう)
シルフィはウィルマを応援しながらもこの不安が気のせいだと願うばかりだった。
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