Ending 1/キラメキソングとミライステップ

 赤緒の失踪しっそう以来契約者を得ていなかったトバリだが、ほかのマスコットから借りていた魔法少女たちを返し、すぐにひとりの契約者を得たらしい。赤緒の契約を正式に手離してから、ちょうど十日後のことだ。


 新たなパートナーの支援と並行して、魔法少女専用の音楽教室設立に向けてもすでに走り始めている。案の定、先行きはまったく見えないが、理解者は意外にも多いという。




 キッカは琉鹿子のサポートを続けている。

 先週は、ようやく部屋から出てきた琉鹿子と言葉を交わせたらしい。食事にも手をつけてくれるようになったとか。


 まだ時間はかかりそうだが、雀夜の言ったとおり、琉鹿子は自力で立ち直るだろう。それまでそばで支えつづける、とのことだ。




   ★ ☆ ★ ☆ ★




 ヨサクコミューンにもパソコンとネット回線はある。全コミューンそこは標準装備だ。

 最低限のノートパソコンなので、用途は家計簿や日報など。当然、所属魔法少女の活動やキラメキの収支といった記録も管理している。入力作業はユウキの仕事だ。


 夕食前の時刻、今日も事務所兼談話室な部屋でちゃぶ台に乗せたノートパソコンと向きあっていると、なぜか千鳥足のヨサクが外から帰ってきた。


「調子はどうだ、色男ぉ~?」


 上機嫌だ。外した色眼鏡をシャツの襟にひっかけ、妙にクネクネした動きですり寄ってくる。


「聞いてくれよ~! はなたんのライブの成績がこのところずーっと右肩上がりでさぁ~。やっぱ気合いの入った子がいると感化されるんだろうなぁ~! そっちも天使どもを《ダテン》させまくりでウハウハか~?」


 いまにも「デヘヘ」と声に出そうな締まりのない顔だ。頬を赤らめて自分のパートナーについてのろてくる。かと思えば、ユウキの肩をぺしぺしと叩いて、調子のよさの共有を求めてもくる。


「見こみどおり、マジョ狩りとあのデュエルで稼いだキラメキ全量納めてペナルティ一発完済だったもんな~! しかもッ、マジョ狩り終息の功労扱いで、減給取りさげ! くぅ~! ダテン★デュオ様様だぜっ。次の魔力配給が楽しみだよな~ぁ!」

「先輩……」


 ユウキも振り返った。満面の笑みだ。ヨサクのご機嫌ぶりを快く受け止めつつ、「いま、いいですか?」と静かにたずねる。


「お、なんだなんだ~? 俺ちゃんいま左ウチワだからさぁ~! カワイイ後輩の相談なんでも聞けちゃうぜぇ~? ……って、あれ? ユウキクン?」

「たいへんです、先輩」


 目をパチパチとしばたかせたヨサクに、ユウキは笑顔のまま詰め寄った。その目がガラス玉でできたニセモノのように鈍い光を放っていなければ、ヨサクもたじろがず、ともに立ちあがって陽気に踊りだす未来があったかもしれない。


「雀夜ちゃんと赤緒ちゃん。ふたりとも、魔力キラメキ尽きそうです」

「……なして?」

「ヒヨコ頭ぁぁぁぁぁぁ!」


 ドアノブが吹き飛ぶ勢いで玄関がひらいた。


 怒号の主が靴のまま部屋にあがってくる。ジャンパーと短パン姿の小柄な体がふくらんで見えるほど肩をいからせ、オレンジ色の髪が本当に燃えているかのように上気している。片手に愛用のギターをさげ、もう片方の手は紺色こんいろのサマーセーターとカッターシャツの襟首を握りしめている。のしのしとした足取りで、自分よりずっと長い人間の体を引きずって現れた。


「こンのクソ眼鏡ぇ! 全ッッッ然ハナシ通じねえんだがッッ!?」

「ユウキさん。アカオが面倒くさいです」


 赤緒が怒鳴ると、雀夜も体をねじってメタルフレームの眼鏡をマスコットたちに向けた。


「こっちの台詞だバーロォがッ! だいたいなんでこのアホとずっと相部屋なんだよ!? 一階どうなってんだ! ゴミ屋敷かッ!!」

「わたしはユウキさんと相部屋がいいです」

「じゃ出てけよッ!」

「それはしゃくです」

「え~? 二週目でもこんな調子なのォ~?」


 なぜか女性的な口調になったヨサクが肩をすぼめてプルプルと首を振る。その両肩にガシリと手を置いて、ユウキは嗚咽おえつを吐きだした。


「ボクっ、もうムリです……!」

「投げんなッ、駄マスコット! デュエルで白黒つけっぞ! 立てッ!」

「ユウキさん、いつからここは動物園に?」

「一番獰猛どうもうなのが言ってんじゃねえぞ、サバンナ女ッ!!」

「にぎやかねぇ……」


 わめきたてた赤緒のうしろに誰か立っている。ベージュ色のスーツを着た、赤毛のショートヘアの女性だ。小ぶりな紙袋をさげているそのわきから、長い髪をツインテールにした小さな女の子も顔を出す。


「みんなーっ! キッカちゃんが手作りお菓子だって!」

「うぅ、いらっしゃいませ。華灯ちゃんもおかえりなさい……」

「ユウキくん、泣いててもお茶れるのね……」

「ありゃ体が勝手に動いてんだわー」

「ユウキさん。アカオでかせば節約に」

「なるかッ、おんどりゃああああ!!」


 台所に明かりがつく。閉まる玄関扉が騒がしさをとじこめて、いだ空には一番星。






 ウィッチ・ザ・ロックと呼ばないで Part 1――End.






――――――――――


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 今回で第一部(Part 1)終幕となります★


 完結ではありません! 書き溜めと勉強のためにしばし休載とし、そののち第二部(Part 2)を開始いたします(時期未定)。

 他作品の執筆を並行する予定や、このPart 1を公募へ回すべく一時的に非公開にする計画などもありますが、必ず帰ってきます! このタイトルの製作をライフワークに据え、完全完結を目指します! なし崩し的にデュオ・ユニットとなった雀夜・赤緒のまだまだ続く音楽魔法少女ライフ、琉鹿子の再起、その他の魔法少女やマスコットたちのさらなる活躍と騒動をお楽しみに!

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ウィッチ・ザ・ロックと呼ばないで! ヨドミバチ @Yodom_8

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