最終話 女神の正体

「どうだ? ワシのいじめたやつを助けた気分は」

「最高よ。都司としひいおじいちゃん」

 この初老は板倉都司いたくらとしで、レベッカは彼のひ孫だったのだ。

 

 レベッカは天界の女神ではなく未来からやってきた人物。彼女は竹山を助けるために過去へ飛んできた。

 アイテムも天空世界のものじゃなく。未来からのアイテム。彼女は巧みに利用していたのだ。


「レベッカ……。いや、烈火ちゃんが未来から来たときは驚いたよ」

「ええ、ちょうど過去にいけるチケットを手に入れたから。私が小さい頃、遊びに行ったけど。まさか、ひいおじいちゃんから、竹山さんを助けてほしいとは思わなかった」


「そのことで後悔してたからな。竹山のことをいじめてなかったら、こんな目には遭ってなかった……」

「ずっと、後悔してたんだね……」


 おじいちゃんになった板倉はレベッカに語るように話す。

 

「ああ、ワシは高校の同窓会で事情を知ったから。河愛は精神病院に入院して、竹山はトラック運転手として独身のまま過ごしていたが。ある日、五十歳行く前に亡くなってしまった」

「……それはいやだね」

「あぁ、だから。烈火れっかちゃん。それを阻止するために頑張ってほしかったんだ」


「……どうして、止めようと思ったの?」

「ワシはいい会社に入っていた。だが、四十代で倒産してしまい。貧乏になってしまった。妻も先に亡くなって、何人かいた子どもも巣立った。ワシには何もなかった。だが、幸いにも子に恵まれ、子ども達はワシに孫を見せてもらった。そして、未来から来た烈火ちゃんがきて。嬉しかったのと同時に、自分の懺悔を代わりに救ってほしかったんだ」


「……ありがとう。都司ひいおじいちゃん。そして、竹山さんをどうしても救いたかったんだよね」

「ああ、ワシのせいでひどい目になってしまったからな。ワシ自身、見栄を張る方で。河愛が竹山の事が好きなことを知っていたんだけど。応援ができなくて……。高校卒業してから数年がたち、ニュースで彼女の殺人未遂が発覚したんだ」

 老いた板倉はいきなり泣き始めた。


 烈火は老人の体をさすりながら喋る。

「私もそれを知ってから。出来るだけ助けようと思ったわ。そして、無事に最悪な未来からまぬがれた。だけど、彼の夢は……」

「確かに。だが、彼には生涯愛する女性ひとができた。それは前にいた時空よりも幸せなことだ」


「そうね……。そういえば。私が河愛さんの父親の記憶を消した時に少し未来は変わったはず。たしか漫画家になっていたような……」

「それなら良かった。烈火ちゃんのおかげで、未来が良くなったんだな」


「ふふふ。そうかもね。でも、学生時代のひいおじいちゃんは亡くなったけど、生きているわね。どうして」

「きっと。ここの世界線がパラレルワールド扱いになって。影響されなくなったんだと考えるよ」

「なるほど。きっと、この世界では彼らが幸せな世界線だよ」

 

「そうだね。烈火ちゃん。竹山と河愛との未来を祈ろうか」

「そうね。私も彼らの幸せを祈ってたから」

「さて、元の時代に帰ろうか。烈火ちゃん」

「うん。帰ろ。ひいおじいちゃん」

 ひ祖父とひ孫は手をつなぎ、元の時代に帰って行った。彼女にとってはとても長い里帰りで楽しんでいた。彼女にとってこの時代は思い出になった――。



 竹山は、とあるコンビニで待ち合わせをしている。

「いつも通り早く来てしまった」

 すると。遅れて、みぞなが駆けてきた。

「ごめん待った?」

「大丈夫だ。今来たところさ」

 そのまま。彼らは学校の通学路へと歩く。

 

「小説どうだった?」

「うん! すごく面白かった! 何周も読んだからね。次回作が楽しみ」

「俺も喜んでくれて嬉しいよ。映画化したら見に行こうな。」

「うん!」とピンク髪の彼女はうなずく。そして、竹山は続けて話した。

 

「そういえば。板倉の死から三ヶ月経ったが、みんなの態度も変わったな」

「ええ。そうね。みんな私達にやさしくしてもらってね。人が変わったような」

 

「俺は腹がたってしょうがないが。みぞなはどう感じた?」

「別にどうも感じてないよ。むしろうれしいな。と」

 彼女は赤ん坊のように明るく微笑みながら竹山と話す。


「そうか。それなら良かった。ところで帰り道どこ行く? このあと暇だからさ」

「そうね……」みぞなは一瞬だけ悩み。彼にこう伝える。

 

「しんぞーがいればどこまでも。だってあなたは『私の心臓』ですもの」


 彼女は満面の笑みを浮かべていた。一点の曇りのない青空の下で恋人達は高校に向かう。

 ――太陽は幸せな二人を祝ってくれるだろう。

 

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追憶の心臓、とても長い里帰り フォッカ @focca

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