第19話 悲しい結末

「板倉……」

「よっ、まだ生きていたのか」

「……そうか。俺は刺されて」

「まぁ、そういうことだな」

 

「ところで、お前はどうしてここに」

「なにって、お前の顔を見にきただけさ」

「そうか。お前は無事なんだな」

「ああ。無事さ。ところであれを見てくれ」

 赤髪の男子は蛍のよう小さく光る道を差し竹山に教える。


「お前はこっちにいきな」

「こっちは何があるんだ?」

「これはな。負け犬の道ってことだ。漫画家志望を諦めたやつに末路だな。んで。こっちは勝ち組になれる道ってわけ」

 小さな光の隣にはランプのように大きく輝く道が見えていた。


「勝ち組……。よくわからないな。理解が追いつかない」

「まぁ。わかるな。とりあえずお前は小さな光でもいっとけよ」


「はぁ? ふざけるな! 俺だってデカい光の先へといきたいわ!」

「なに言っているんだ。この道は俺がいく。今すぐあっちにいけよ。早く!」

 

「……待った。板倉、何かおかしいぞ。もしかして、こっちには――」

「はぁ、めんどくせぇな。さっさと行けよ。竹山」

「なにがめんどいだって?」

「なんでもねぇよ。お前はあの道にいくべきなんだ」


 竹山は悟るように気がつく。

(もしかして……)


 彼はすべて理解していた。その瞬間。

「わかった。俺そっちに行くわ。じゃあな」

 黒髪でモヤシ体型の男は、キザっぽく去ろうとする。

 

「おう。いじめて悪かったな。みんなに事情を説明してくれ。『板倉おれが一番悪かった』とな」

 板倉は、ニカっと笑いながら、黒髪青年に視線を送る。

「ああ。お前の連れには言っておくさ」

 

 モヤシ高校生は高笑いしながら、相手へ聞こえるように喋る。

「いやぁ。次、来たときが楽しみだよ。もしかしたらお前がいじめられるかもな」

 竹山は乾いた笑いを出しながら、かすかに光る道へ進む。


(こういえば。お前は満足するだろ? 板倉)

(これでいいんだ。これで……。俺はひどいやつだから。竹山)


 二人は何も言わずそのまま違う道に歩んでいった。




 竹山は目が覚めた。近くには美人の看護師がいる。

「……竹山さんが意識を取り戻しました!」


 ここは大学病院。竹山と板倉はみぞなの父親によって重傷をおおい、入院していた。

「病院……。助かったのか」

 黒髪男子はあることに気がつく。板倉の行方だ。


「すみません。看護師さん。板倉……板倉都司はどこに……」

「……言いにくいのですが、今日の朝、板倉さんは息を引き取りました」


「……そうか。ありがとうございます」


 彼は心の中でわかっていた。墨汁のように黒く何もない場所で現れた板倉は、黒髪男子を助けるために、わざと気を悪くするようにしていたのだ。


「すまない……、板倉。俺なんかのためにかばってくれて……」


 その時。ちょうど彼の病室へ、お見舞いにきた『みぞな』が、立ち止まり号泣していた。

「よかった! しんぞー。生きていた!」

「ははは。俺は簡単に死なねぇよ」

 

「うん、本当に良かった……。本当に……。ごめんなさい。私のせいで――」

「いや、気にするな。これは俺が選んだ道だから」

 少し沈黙の時間ができる。みぞながその時間を崩した。

「ねぇ、言いたいことがあるんだけど。いいかな」

「なんだ。いってみろ」


「私。しんぞーのこと好きかも」みぞなから唐突の告白。しかし、彼はわかっていた。

 

「……そんな感じはしていた」

「もし。私が告白して、しんぞーは嬉しくなる?」

「……そうだな。唐突に告白しても、いやな人はいるだろうな」

「――そうだよね」


「だが、お前のことは最高の友達と思っていたし、消えてほしくないとも思っていた。つまり楽しかったんだよ。お前みたいな存在は俺には必要さ」


「それってつまり――」

「俺もお前のことが好きだったんだな。付き合おうぜ。みぞな」

「うぅ、やったー!」

 みぞなは竹山に強く抱きつく。


「やめろって、みぞな。傷が響く」

「そうだった。ごめん……」

「いいってことよ。そういえばみぞな。喉渇かないか? 自販機いってもいいぞ」

「うーん。喉渇いたかな。ごめんね。今からいってくるね」

 彼女は手を振って、自販機に向かう。


「おい、レベッカいるか?」

「はい、いますよー」

「お前のアイテムで、みぞなの親父ことを隠蔽したか?」


「もちろん。言われなくてもやってます。きっと竹山さんなら言うと感じてました。このリモコンを使ってね」

 レベッカは姿が消えるリモコンを出した。

「そう。それなら良かった。たしか。記憶を消す効果があったよな」

「はい。本当は良くないのですが。都合良く記憶を消しました」

 女神は微笑みながら伝えたことを、少し引いている竹山。


 彼は、深刻そうに口を開く。

「なぁ。もし、俺がこの時代にいたいと言ったらおかしいか?」

「別にいいと思いますよ。試練はクリアしましたが、河愛さんと一緒にいたいですよね」


「あぁ、みぞなと、いたいから。俺はここに残るさ。この世界は完全にパラレルワールドになったのか?」

「ええ。そうです。もう元の時代には戻れないですし、漫画家という職業にさえなれない可能性も……」

 

「いいんだ。俺はそれで。みぞなと一緒にいればどこにでも」

「そうですか……。わかりました。あなたたちの成長を祈って」

「祈って?」

 

「トイレ行ってきます」

「雰囲気台無しだな!」

 

 竹山はしっかりと突っ込む。レベッカを見送ったとき、彼はあることに気づいた。

「ん? 待てよ。これってみぞなの試練をクリアしたって事になるのか? そもそも。試練内容と矛盾しているような。何かがおかしい。レベッカ自身、本物の女神なのか?」


 一方。レベッカはそのままトイレを通りすぎ、竹山のいる時空軸からそのまま去る。

「ありがとう。竹山さん。私の出番は終わりですね」

 彼女は ほんのり黄色く、ぼんやりとした謎の空間に戻っていく。

 空間には少し老けた男性が彼女の前に立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る