第18話 みぞなの決意と勇気

 その頃、学校では板倉が体育館裏で待機していた。

「……そろそろ。戻ってきそうだが、どうなんだ」

 彼は少し運動をしながら、つぶやく。


「ええ、そろそろ来ますよ……。と、言いましても板倉さんには聞こえてませんが」

 冗談を言う女神。その様子は板倉の鼓膜には届いてない。


「なんか、いやな予感がする……」彼は不吉なモノがくると、本能で感じていた。


 そのとき。囚われている少女の部屋に繋がっている黒星の亜空間から、『河愛かあいみぞな』が現れる。


「はぁ、はぁ。あれ? いたっち。どうしてここに」

「お前は無事だったんだな。あれ? 竹山はどうした……。いや、何か来る!」


 黒い星の中から刃物を持った男性がゆっくりと登場し、ギロリと彼らを見ている。

 まるで獲物を見つけたシャチのように鋭い目。みぞなと板倉は足を震えるほど怯えていた。

「こいつは誰だ……」

「私のお父さんで、さっき、しんぞーを刺した……」


 体中に電流が高電力になるぐらいしびれる衝撃な言葉に口が動かない板倉。彼は怒りに燃える。


「何やっているんだよ……お前!」

「年上に向かって何言っている! 教育しないとな」

 男性は血のついた包丁を持ちながら、赤髪の男子生徒に目線を合わせる。

「やめて! お父さん!」ピンク髪の彼女は必死に男性を止める。


 瞬間。薄ピンク髪の父親が一気に駆けて攻めていた。

「どけ! みぞな!」

 男は声が轟くように叫んだ。みぞなは一歩も動かない。ではなく、恐怖で動けない。


「河愛。危ない!」


 板倉は彼女をかばう。そして、横隔膜から穴が開き。赤髪の高校生は、口から赤い血流が吹き出る。

 彼は前方に倒れて、力がだんだん弱っていった。

 

 少女の父親は板倉を殺す勢いで刺しまくる。彼の目は正気じゃない。

「最高! 最高! 最高! 最高! 俺の威厳を取り戻したぞ!」

 

 赤髪はみぞなの方を向き、こう伝える。

「……河愛。早く、に……げろ。走れ!」


 彼女は顔を真っ青になりながら、体育館裏から出ようとした。

(逃げないと……。本当に逃げないと)

 

 しかし、殺人鬼になった父は、血眼になりながら彼女を止める。


「みぞな! ウチに帰るぞ。また勉強しような!」

「やめて! お父さん! 離して!」

「何言っているんだ! 俺はお前のためと思って――」


「うるさい! 他の人を傷つけて、何が私のためよ! そんなの……」

「そんなの……なんだ!」

「そんなの私のお父さんじゃない! 殺人鬼よ! あなたは自分のエゴで動いている」


「なんだ……。その言い方は!」

「この際はっきり言うわ。人を殺したあなたは、もう私の父親じゃない。近づかないで」


 その言葉を聞いた父は腹を立てる。


「ふざけるなよ……ふざけるな!」

 彼は持っていた刃物を振り回し、愛しの娘を思いっきり刺そうとする。


 だが、父親はピンク髪少女の体を刺す直前で、そのまま気を失ってしまった。


「これは……」みぞなは何が起こっているかわからない。


 少女の目の前には、ノースリーブでホットパンツの女性が立っていた。『レベッカ』が、姿を現し、助けてくれたのだ。

 もちろん。カウンター性能がある。いびつな形の綿棒を持って。


「ふぅ、危ないところでした。大丈夫でしたか。河愛さん」

「ええ、あなたは……」

「私の名前はレベッカ。竹山さんの守護霊ですよ」

「す、すごい。ちゃんと見えている」


 彼女はすごく喜んだ。竹山がよく見ている霊の姿を確認できたからだ。


「とりあえず、このまま誰かに伝えて、警察に通報しましょう。河愛さん大丈夫ですか?」

「ええ、フラフラするけど、いけます」


 ピンク髪の彼女はそう言い、携帯を出す。

 しばらくし、学校にはパトカーや救急車が集まっていた。


(うーん。本当は良くないんですが。竹山さんや河愛さんの身のためにも、やるしかないですね)

 彼女はなにか企む。そして。カバンからリモコンを取り出した。




 竹山は真っ暗で静かな場所にいる。狭く窮屈で息が苦しい。

(ここは、どこなんだ。確か俺は……)

「気がついたか。竹山」

 声の方に振り向くと、そこには『板倉都司いたくらとし』が、少しかっこつけて立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る