第11話.罪②

…………どこから話したものでしょうね………。


 私の家の話からしましょうか。デモニオ家の領地は隣国である帝国とはよく小競り合いを起こしています。今は一時休戦となっていますがそれも長くないでしょう。……ってこんな話は知ってますよね。


 私の父は戦いで常に最前線に立つ人なのですよ。ほんと頭の中まで筋肉で埋まってるんじゃないかってぐらい脳筋で…。実は俺には姉がいましてね。姉はどうやら我が家の血を色濃く受け継いだもんでそれはもう脳筋でした。しかし、姉には才能があった。子供ながら我が家の兵士と劣らぬ程に強くなったのです。


 姉自身の希望もあって姉は幼い頃から訓練を積み、12歳を超えれば狩りや戦場にも出ていました。…………さすがに戦場では最前線という訳には行かなかったようですけどね。


 そんな姉に次いで生まれたのが俺だったもんだから寄せられる期待は絶大だった。しかしながら、俺は姉ほど脳筋でもなければ姉より力が弱かった。それに臆病に弱虫で逃げ癖のついたどうしようもないクソガキでしたよ。


 いつもそんな家から抜け出しては街に遊びに行ってましたっけ…。そんな俺に1人親友と呼べる相手がいたんです。彼の名前は……アーサー…と言います。貴族ではなく平民でした。……街に逃げては2人でよく遊んでましたよ。………ただ、なんと表現すべきなのでしょうね。……あぁ、そうだ。彼は天才だったんですよ。……いや、天才としか表現出来ないような人でした。


 街では人気者で彼の周りにはいつも誰かがいた。ある時、子供の思いつきで回復魔法を教わろうと教会のに駆け込み、神父に頼み込みました。……理由ですか?さっきも言いましたが子供の思いつきですよ。ほら、神父って祈り捧げるだけで飯食えるし…っていう粗末な考えですよ。アーサーは神父から教わったことをひたすらに実践しました。周りの友達は1週間かそこらで放り投げたものを1ヶ月以上も続けて回復魔法を使えるようになりました。


 ある時には子供の思いつきで冒険者から魔法を教わろうとしました。使えたら便利だと思って…。色々な冒険者から話を聞いて特訓して………。子供は飽きっぽいから周りの子供が直ぐに飽きてしまってもアーサーはやり続けた。そして初歩ではありますが魔法を扱えるようになっていた。……驚きでしょう?……平民の……それも子供が…ですよ?


 俺とアーサーは親友……


 噂はすぐに広がり、その噂は街を越えて我が家まで聞こえてきました。………そしてその噂は父上の耳に通り、父上はアーサーに興味を持たれました。すぐに遣いの兵士を差し向けてアーサーに接触を図ったのです。


 ……あぁ、とは言っても貴族らしく無理やり……なんてことはありませんよ?あくまで兵士が伝えたのは


「強さに興味があるのなら我が家で共に訓練に励まないか?」


ということです。もちろん訓練中は給与も出るとも伝えていましたね。あの父のことですから将来的に戦力にする……なんて考えはなく、純粋に天才のアーサーがどこまで強くなれるのか…そして強くなった暁にはアーサーと戦いたかったのでしょうけど。


 アーサーはその日、家族と相談して次の日には我が家に来るという結論に至っていました。……どうやら、そこで初めて俺が貴族であることを知ったようですがあまり驚きはしてませんでした。彼曰く「振る舞いがちょっと他のみんなと違っていたから普通の平民では無いんだろうなぁ〜」と薄々思っていたらしいです。


 そして、俺とアーサーはデモニオ家で共に訓練に励む仲間になりました。……さすがに最初は俺の方が強かった気がします。曲がりなりにもデモニオ家として剣の修行はしてましたしね。けど、アイツは直ぐに俺を追い抜きました。


 もちろん、悔しかった。けど、それ以上に俺は誇らしかった。こんなすごい奴が俺を親友と呼んでくれることに。もしかしてアーサーならどこまで強くなって…姉上や父上より強くなるんじゃないかって…。


 いつか……俺たちふたりは誓った。俺たち2人で勇者になろうって。


 でも、俺はアーサーが…アーサーこそが勇者だと思っていました。それぐらいアイツは輝いてました。


 だから俺は………慢心していたんだ。


 いつからか共に強くなろうと修行に励む俺たちを気にかけていたのは父上だけでなく周りの兵士にまで広がっていました。そして、俺とアーサーは兵士たちにも仲間と認めて貰えるようになりました。


 この頃には周りの兵士とも気兼ねなく話せる仲になっていてまるで家族のような関係でした。……俺もアーサーもある兵士を兄貴って呼ぶぐらいには仲が良かった。


 あの頃は何も考えず、ただ目の前のことをひたすらにアーサーと頑張って…楽しかった。あぁ、そうだ、楽しかったんだ………。


 けど、俺たちの無邪気さとは別に戦場はどんどんと悪化の一途を辿っていました。小競り合いですんでいる戦いがもっと軍を動かすほどの大きな全面戦争に変化しようとしていたのです。


 そして、その波紋は俺たちにも届きました。


 俺たちにも出兵の話が来たのです。当然、俺たちは若かったから無理やりなんてことはなかった。だが、それほどまでに圧迫された状況なのだと知りました。


 けど、俺たちは出兵ことに決めました。まぁ、俺たち二人なら生きて帰れるという若さ特有の自信があったんですよ。当時は俺とアーサーの2人で魔物を狩ることも出来ていたという経験もその自信を加速させていたのです。


 それに、俺たちは流石に後衛でほとんど待機するだけでした。周りには普段からお世話になっている兵士ということもあって安心していました。……今思えば、これからの戦いに備えて少しでも戦場を見せておきたかったのかもしれませんね。


 だが、それが甘かった。


 その戦いは私たちの軍が優勢に戦いを進めていました。


 そのまま相手の軍を追いやると思ってた。これは俺たちの勝ちだと俺もアーサーも…兄貴も……軍のみんなも……信じていた。


 だが、たった1つです。たったとひとつの綻びが、狂いが、俺たちを破滅に追い込んだ。


 それは禁忌…。戦争の…いえ、人間の道徳における禁忌といってもいい。


 実の所、戦争には暗黙の了解があるんです。それは決してこと。と言うよりは攻めるタイミングを決して誤らないこと。


 何故って?……攻めすぎると兵士は暴動を起こす。そうなると悪魔憑きを生んでしまう可能性があるからですよ。そうなると敵も味方も関係ない。ただの兵士に悪魔憑きは倒せない。どころかそれだけで国の危機になる。


 昔からよくある話でしょ。敵国を倒す寸前に悪魔憑きが現れて結局は両国が滅ぼされた…なんて話は。


 それを帝国軍アイツらは自ら生み出した。


 そんなことできるのかって?……流石に人工的に作ることは無理ですね。……悪魔付きの条件を覚えてますか?


 ……それは大きな負の感情を呼ぶこと。


 だから、あいつらは無理に徴兵された1人の兵士の目の前で親しい友を、家族を、娘を、息子を、妻を1人ずつ殺したのです。


 最初は俺達も目的が分からなかった。だが、すぐに分かった。指揮官は即座に「撤退」の指揮を飛ばした。


 その兵士は叫んだ。それは己の無力を悔いてか、帝国軍を恨んでか、俺たちを憎んだのか、それは今となっては分からないことですが。


 あぁ、そういえば、これは知られていないので秘密にして欲しいのですが悪魔憑きって実は負の感情だけではその肉体に降ろすことは出来ないんですよ。


 実の所、もう1つ降臨に条件があります。それは大量の供物を用意すること。そしてその供物とは……死体です。まぁ、その供物はどうやら人でなくても良いみたいですけど。


 戦争は悪魔憑きを呼ぶには格好の的ということですよ。そして、



悪魔は降臨した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪役貴族と追放聖女の罪と罰 〜悪が赦し聖女と贖う〜 ジャック @jokerlowJack

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ