第10話 罪①

 先程までの喧騒と違い、整備もされていない静かな道を2人で歩く。周りを見渡せば1面畑しか見えてこない。ここは我が領地で郊外に当たる場所で人もほとんど居ない。たまに話しかけられても農作業中の人達だけだ。


 だが、全員が全員好意的に声をかけてくれる訳では無い。まれに瞳に暗い憎しみを宿して俺を見てくる人たちもいる。恐らくその視線にアナスタシア様も気がついている。


 あれから俺たち二人の間に会話はない。


 少し前を俺が歩き先導する形でただ目的地を真っ直ぐに目指していた。


「着きました」

 

 そう言って広がるのはおおきな1本の木を中心に広がる草原だった。


「……………風が気持ちいい……」

「でしょう?………昔から悩んだり1人になりたい時は1人でここに来ていたんです。多分家の者でも誰も知らないんじゃないですかね?」


「そんな場所を私に教えてよかったのですか?」

「………えぇ。夫婦になるのですから…」


 おおきな木の下に2人で腰かける。二人の間には人一人分人の空間があった。


「………」

「………」


 二人の間に沈黙画広がる。そして一筋の風が俺たちの間をすり抜けた。そして沈黙は破れる。口火を切ったのは俺だった。


「……………なにか俺にお聞きしたいことがあるのではないですか…?」


「……………それは………」


 いくらでもあるだろう。なぜ憎まれているのか、なぜ回復魔法がきかなかったのか、探せばいくらでも謎が浮かび上がってくる。


 聞くべきなのか、そもそも聞いていいものなのか、それを彼女は悩んで切り出せないでいる。


 今日1日過ごして思った。……………やはり彼女は………とても優しい方だ。噂されるような冷酷な人でも民を騙すような非道な人でもない。他人を思える優しい人なんだろう。

 

 思わずその優しさにふっと笑みを浮かべてしまう。


「俺たち夫婦だと言うのにお互いのことを知らなさすぎだと思うんですよ!!これを機にお互いのことについて少し理解を深めませんか?そのためのゲームを考えました!」


「ゲーム……ですか……?」


「はい!!今から交互にお互いの質問に答えるんです!しかし、嘘はなしです!どうしても答えたくない場合は黙秘権を行使してください!ただし、黙秘権の行使は1回のみ!もちろん、使わなくてもOKです!質問回数は3回!日が暮れるまでには帰らなきゃダメなので時間短縮を考慮して質問は一気に行ってください!」


「ハンデとして最初の攻撃質問権はアナスタシア様に譲ります!」


「え?……え…?」

「さぁさぁ、なんでもいいですよ〜」


「え、えっとじゃああの……………、あなたは何故あれほど恨まれているのですか?」


「ほうほう、2つ目は?」


 少し考えた末に彼女が出した質問は………


「…………あなたは………何者何ですか?」


「……いいですねぇ〜。さて最後は何にします?」


「…………………今は思いつきません。保留にさせてください………」


「いいですよ。思いついた時にでもおきかせ下さい」




 一筋の風が俺たちの間を再び切り抜ける


 あぁ、全く。あまりの気持ち良さにこのまま時間が止まってしまえばいいのになんて思ってしまう。


 あまりの気持ちよさに俺は地面に背をついて寝転がる。


「………さっきのふたつの質問ですが……実は2つとも似たような理由なんですよ。まぁ、俺の過去に関する話なんですが。先に言っておきます。この話は聞いて気持ちのいいものでもありません。とてもとても重い話です。聞くともう戻れませんが大丈夫ですか?」


「………言いたくないのであれば権利を行使しないのですか?」

「…………そうですね。それもいいかもしれない。けど、あなたが聖女だって知って懺悔したくなったのかもしれませんね」


「……………“元“聖女ですけどね」


「それにこれからは俺と共に人生を歩むかもしれないんです俺の事、知っておいて損は無いでしょう?」


「…………………………………………………………………そう……………ですね…………………」


 さてさて、俺の過去か……………………。どこから話したものかなぁ………。


「……………………アナスタシア様、あなたは俺を何者かと問いましたがなぜそう思いになったのですか?」


「……………………それは………あなたから………」

「魔の気配がしたから………ですか?」


 アナスタシア様の言葉を続けるように俺が言う。言い当てられた動揺からかアナスタシア様がこちらを向いたのがわかった。


「はは……。流石ですね………。…………………俺の正体は人じゃありません。

















……………………俺は…です」


「ッ!!!?」


 俺の告白にアナスタシア様は僅かに動揺し、思わずその場から立ち上がり俺に杖を構える。


 凄いな。この人、聖女と役職の割に意外と戦場の経験が豊富なのかもしれない。


 実の所、悪魔憑きには2つの特徴がある。1つ目は悪魔憑きには理性が存在していないこと。2つ目に目が紅いこと。今のところ俺にはこのふたつの特徴が当てはまっていない。だと言うのに動揺が少なかった。

 

「撃ちますか?」

「…………逃げないのですか?」


「……あなたに撃たれるならそれもいいのかもしれない…」


 アナスタシア様は1つ呼吸を置いた後に杖先を下に向けた。


「……あなたは懺悔と言いました。ならば聖女わたしにはそれを聞き届ける義務があります」


「…“元“聖女ですけどね」


 ちょっとした意趣返しにアナスタシア様が僅かに不満げにしたのが分かった。

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