040:スリーショットチェキ

 ジャージ服姿のくまま様が目の前にいる。

 ジャージ服姿も可愛いな。体育の時間とかでも何度もお目にかかってるけど、何度見ても良い!

 って、違う違うちがーう!

 な、なんで? どうして? いつからいたんだ?


「うちのクラスは優秀だからさっ。片付け早く終わったんだよっ」


 毎度お馴染みの心読み。さすがくまま様だ。

 まあ、くまま様いわく、僕の表情がわかりやすいらしいんだけど、それにしても僕の表情って……どんだけわかりやすいんだよ。


「それでね、様子を見に来たのっ。まだいるかなーって。本当はナース服で行こうかなって思ってたんだけどねっ」

「そうだったんだ。って、ナース服で来られたらまた意識が飛びかねないって!」

「ふふっ。だと思ってのジャージですっ」


 いや、ジャージ服姿も可愛すぎるんだけどね。


「兄は私が看てますので帰っても大丈夫ですよ」

「兎衣ちゃんっ、さっきはチェキありがとうね。指名嬉しかったよっ」

「あれは兄のためです。というか話聞いてますか?」

「お兄ちゃん想いの兎衣ちゃん。私好きよっ」

「そうやって、その笑顔で兄をたぶらかしてるんですね」

「う〜ん、どうかなぁ? くままポーズでイチコロにはしてるけどっ」

「ッ!!!」


 2人が喋ってるところもなかなかに良いなぁ。

 夢みたいだ。ものすごく幸せな空間だなぁ。


「お兄ちゃん、なんでデレデレしてるのよ!!」

「あっ、そうだった。チェキどれがいい?」

「そうじゃなー!」

「兎衣も選んでいいよ。でも1枚だけだよ」

「だから違うって! それにチェキなんていらないっ!」

「遠慮しなくていいのに」

「遠慮してないから!」


 素直じゃないなぁ兎衣は。でもそこが兎衣の優しさでもあるよな。

 それとさっきから様子が少し変だな。きっと小熊さんがいるから恥ずかしくなったのかな?

 わかる。わかるぞ〜。


「兎衣ちゃん。私が選んであげるよっ」

「だからいらないって」

「ん〜、これとこれっ」


 小熊さんはチェキを2枚選んだ。

 そのうちの1枚を兎衣に渡した。


「隼兎くんの映りが一番いいやつを兎衣ちゃんにっ。私のは隼兎くんの映りが一番悪くて可愛いやつっ」

「僕基準で選んだの? 全部棒立ちで一緒だよ。竹みたいな棒立ち。なんか申し訳ない」

「一緒なんかじゃないよっ。一緒に見えて全然違うんだからっ」


 優しいなぁ。小熊さんは。大天使かよ。女神様かよ。いや、それらを凌駕するくまま様だ。


「それでねっ、文化祭の最後が保健室ってのも締まらないでしょ?」

「いや、くままと兎衣がいる保健室は天国のようなもんだから、僕からしたら結構いい感じの締めになってる」

「ふふっ。さすが隼兎くんだ。でも、私からしたらちょっと物足りないかなっ」


 そう言いながら小熊さんはカバンから何かを取り出し始めた。

 制服が丸まっていて、目的の物になかなかたどり着けていない。

 こんな姿までも見れるだなんて、気絶したことに対しての後悔なんて吹き飛ぶくらいの可愛さだよ。


「あった!」

「チェキカメラ?」

「うんっ。フィルムが1枚余ったからさ。最後にチェキ撮って文化祭を締めくくろうではないかっ」

「おおーっ。なんて素晴らしいお考えなんだ。さすがくまま様だ」

「くまくまくまくまくまっ。さぁ、兎衣ちゃんも隼兎くんのために入って入って。スリーショットだよ〜」


 小熊さんが兎衣を画角に収まるように引っ張っている。


「わかりました。兄のためなら入ります。だから引っ張るのやめてください」

「ぼ、僕はどこに? 立ち位置とかどうしたら? カメラは僕が持とうか?」

「もっとくっついて〜、画角に入るように〜。カメラは私が撮るから大丈夫だよっ〜。ほら、限界までくっついて〜」


 近い。近い。近すぎる。

 小熊さんも兎衣も近い。

 てか、いつの間にか僕が2人の間になってる。

 可愛いに挟まれてる。サンドイッチ、可愛いのサンドイッチだよー!


「カメラマンがいないから、失敗しないように限界までくっついてよ〜。この辺、もう少し角度をー、よしっ。このくらいなら全員映るかもっ。それじゃ撮るよっ。半目には気をつけてねー」


 ――カシャ!!!


 シャッターが切られた。

 すぐに。チェキフィルムが出てきた。あとは現像されるのを待つだけ。


「おっ、いい感じに撮れてるっぽいねっ!」


 小熊さんの言葉通りに、3人の輪郭的にしっかりと画角に収まっているのがわかる。

 セルフで撮ったのにもかかわらず、ここまで正確に画角に収まらせるとは。

 さすが小熊さんだ。チェキに慣れているってのもあるかもだけど、ここまで上手なのは本当にすごいぞ。

 でも問題なのが、半目かどうかだよな。


「あっ、お兄ちゃんの目!」

「やっぱり半目だった?」

「ううん。しっかり開いてる!」


 兎衣の言う通り、現像されたチェキフィルムに映っている僕の目はしっかりと開いていた。

 でもそんなことが気にならないくらい、僕を挟む2人は天使すぎた。

 スリーショットチェキもなかなかに良いものだなぁ。


「最後の最後で最高の思い出になったねっ。はいっ、このチェキは隼兎くんにあげる」

「あっ、ありがとう。一生大切にするよ。このスリーショットは山本家の家宝だ! 毎日兎衣と一緒に拝むよ」

「私を巻き込まないでよ。普通にアルバムに入れなよ」

「ふふっ。気に入ってくれたみたいで良かったよ。スリーショットチェキも100枚集めちゃう〜?」

「集めたい! 集める! 僕と小熊さんと兎衣のスリーショットチェキ100枚!」

「だから私を巻き込まないでよー!」


 現時点での僕が持っている小熊さんとのツーショットチェキは合計40枚。小熊さんと兎衣のツーショットチェキは1枚。僕たち3人でのスリーショットチェキも1枚。

 気絶してしまったせいで予定していた枚数よりもかなり少ない。

 来年の文化祭は気絶しないように気をつけよう。というか今後も気絶しないようにしよう。

 楽しいはずの時間を過ごせなくなるってのももちろんなんだけど、それ以前にみんなに迷惑がかかってしまうからね。

 でも気絶したおかげで得られたものもある。スリーショットチェキはもちろんなんだけど、それ以上のものを得た気がする。

 2人の笑顔が見れたのは僕にとって、かけがえのない宝物おもいでになったよ。


 こうして僕のドキドキの文化祭は、小熊さんと兎衣とクラスのみんなのおかげで、最高の思い出と共に幕を閉じ流ことができた。

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《推しチェキ》クラスメイトでご当地アイドルの推しとのツーショットチェキが100枚に到達しました。〜なぜか推しは僕と普通のツーショット写真が撮りたいらしい〜 アイリスラーメン @irisramen

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