第11話 勇者と姫巫女、無双します!
塔からなだれ出てきた傭兵団たちは、少人数ながら慣れた動きで陣形を整えていきます。
その最前線で私たちと対峙するこの男性が、おそらく団長なのでしょう。
「
「それは褒め言葉として受け取っておくよ……」
額に十字傷を持つ彼は私たちの姿を一瞥し、そう口にします。
「ま、勇者を仕留めたとなりゃ、我が傭兵団にも箔が付くってもんだ。なあ、お前ら!」
彼が背後を振り返って叫ぶと、それに呼応するように団員たちが雄叫びを上げます。
その中からは「ここがお前の墓場よ!」や「いくら勇者でも、この数相手に何ができる!」なんて言葉も聞こえます。
「……どうしよう。あの人たち、自分で死亡フラグ立てまくってるんだけど」
「私にはその死亡フラグとやらがよくわかりませんが、気をつけてください。相手は曲がりなりにも傭兵団です。統率も取れているでしょうし、先日のゴブリンやゴロツキたちとは格が違いますよ」
「それでも、なんとかなるんじゃないかな」
「え、どうしてです?」
「……カナンさんが一緒だから」
彼はどこか恥ずかしそうに言って、剣を構え直します。直後に団長が陣の中へと戻り、先陣を切って数名の兵士がこちらに向かってきました。
タケルさんはその動きを見ながら、その場で剣を一振り。衝撃波を発生させ、向かってきた兵たちを一瞬でねじ伏せてしまいます。
その刹那、陣形の奥に複数の弓兵の姿が見えました。
「タケルさん、奥に弓兵がいます! 遠距離攻撃が来ますよ!」
「すでに着弾点は見えてるから大丈夫!」
言うが早いか、タケルさんは地面を蹴って一直線に敵陣へ突っ込んでいきます。
兵士たちは当然迎え撃とうとしますが、タケルさんは緑色の風をまとっていて、近づく者を弾き飛ばしていきます。
「すごいですね。なんですかこれ」
「衝撃波の応用みたいな感じ。軽い飛び道具ぐらいなら弾き返すから、バリアの役目もするよ」
そう言いながら突撃し続けた彼は、弓兵を守るために配備されていた盾兵たちをも吹き飛ばし、敵陣の奥深くでその剣を振るいます。
次の瞬間には竜巻のような突風が巻き起こり、周囲の兵たちは四方八方へと飛ばされていきました。これで彼らの陣形は完全に崩壊したようです。
「だ、団長……駄目です。相手になりませんよ!」
「ええい、怯むんじゃねぇ! 死ぬ気でいけ!」
私たちの圧倒的な力を前に、傭兵たちの士気は下がり切っているようですが、それでも団長は一人だけ息巻いていました。
「ええい! 何なのよ、あの風の壁は!」
……いえ、それに加えてもう一人、怒り心頭な人がいました。塔の上からちょくちょく弓矢を飛ばしてくる、例の女性です。
「敵とはいえ、あまり怪我はさせたくないんだけど……なんとか彼らの心を折る方法はないかな」
「そうですね……」
相変わらずなタケルさんの言葉を受け、しばし考えます。
そんな私の目の前には、夜空に向かって伸びる一本の塔がありました。
「いっそのこと、あの塔を折ってしまいましょうか」
「え、あれを!?」
「そうですよ。それくらい圧倒的な力の差を見せれば、あの人たちも諦めるはずです」
「それはそうかもしれないけど……いいのかなぁ……」
戸惑いの声色で言うも、タケルさんはその塔に狙いを定めます。
そして翡翠の剣に力を込めると、その刀身は次第に輝きを増していきました。
「ちょ、ちょっとまさか……待ちなさい! 待ちなさいよ!」
その意図を察したのか、塔の上にいた女性は血相を変えて塔を下りていきます。
そんな彼女が塔を脱出したのを確認してから、彼は大跳躍。渾身の力を込めて剣を薙ぎ払います。
一瞬の間をおいて剣先から放たれた衝撃波は、まっすぐに塔へと向かい……その中程から見事にへし折ってしまいました。
「あ、わわわ……」
「う、嘘だろぉ……」
轟音とともに崩れゆく塔を見ながら、傭兵たちは一様に棒立ちとなっています。
やがて塔が完全に崩れ去ると、彼らは正気に返ったかのように騒ぎ出し、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていきました。
◇
傭兵たちが全員いなくなったのを確かめてから、私たちは
「……終わった、のかな。なんか、とんでもないことしちゃった気もするけど」
「そ、そうですね……どうしましょう、これ」
瓦礫の山となった塔を前に、タケルさんと顔を見合わせます。
力を見せつけるためとはいえ、少々……いえ、多少、やりすぎてしまった感があります。
「それでも、カナンさんが無事でよかったよ」
「あなたって人は……今回はなんとかなりましたが、一歩間違えれば死んでいましたよ? もう、あんな危ない真似はやめてください」
「ええ……もとはといえば、カナンさんが捕まっちゃったから」
「そ、その点では私にも非がありますが……」
すっかり見慣れた情けない表情で言われ、私は思わず言葉を濁します。
「……でも、タケルさんが来てくれた時、嬉しかったですよ」
「当たり前だよ。だって、カナンさんは大切な人だからさ」
彼はそう言って、はにかむように笑います。
ようやく昇ってきた朝日に照らされたその笑顔は、他の誰よりも私を安心させてくれたのでした。
「それじゃあ、帰りましょう。酒場のマスターも心配しているでしょうし」
「だろうね。僕、あの人が止めるのも聞かずに飛び出してきちゃったから」
「そ、そうだったんですか? なら、二人揃ってお説教されるかもしれませんね」
そんな話をしながら、私たちは並んで帰路につきます。
私とタケルさんの距離は、以前よりも少しだけ、縮まっているような気がしました。
勇者召喚・第一部・完
~あとがき~
最後までお読みくださいまして、ありがとうございます。
こちら『世界を変える運命の恋 中編コンテスト』参加作品となりますので、ここで一区切りとさせていただきます。
短い作品ながら、ここまで♥や★など、多くの反応をいただきまして、本当に感謝しかありません。
続きはコンテスト後となりますので、しばしお待ちいただけたら幸いです。
ここまでカナン姫と勇者タケルの物語を見守っていただき、ありがとうございました!
川上 とむ
勇者召喚~喚び出した勇者はゲーマーでコミュ障なモブ男さんでした~ 川上 とむ @198601113
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