第7話怖い先輩と甘々なヤンキー彼氏の話
「なんでこんな忙しいんだ…!!」
「うるさい。」
すぐ横で弟分である如月 瑠衣が叫んだのを側近のみーちゃんが辛辣に返した。
「付き合わせてごめんな、少しの時間やから。」
「俺のことはいいんです!律さん全然休みないじゃないですか…。」
最近はトラブルもあって忙しい日々が続いている。
「今日は会えるはずやったんやけどなぁ…。」
あいにくこんな仕事をやってしまっているわけで、桃瀬くんとのデートは延期になってしまった。
連絡した時めっちゃガッカリしとったし本当に申し訳ない…。
そんなことを思っていたら目的地に到着した。
「ここやな。」
いかにも極道な感じだった。
「弥生組の方ですか?」
大きな門からひょこっと顔を出したのは背の高い男性の方だった。
「私、案内役の遥と申します。当主の方はどちらに?」
「当主は諸事情により欠席させて頂いておりまして、代理で参りました。紫乃宮です。」
弥生組の当主が私であることは外部に漏らしてはならない機密情報のためこちらの組の当主にしか伝えていない。
役員の方には申し訳ないが嘘をつかせてもらうことにした。
「…。」
「遥さん?」
私の顔を見つめたまま遥さんが黙り込んでしまった。
「当主じゃないなら敬語使う必要ないじゃん。来てないなら早く言ってよ。」
「…無礼な。」
私が当主でないと知ってガラリと態度が変わる。
横にいた部下達がギロっと睨みつけていた。
遥さんの代わりに近くにいた別の方に案内をしてもらった。
「よう来て下さいましたな、紫乃宮さん。他の者は席を外してくれ。」
母屋の奥に案内されると顔見知りだった当主がいた。
「…かしこまりました。」
護衛の人達がぞろぞろと出ていき部屋に二人となった。
「近頃――組が弥生組を狙っていたようだが手は付いたのですかな?」
「はい、腕の良い部下たちを揃えておりますので。」
これは少し前に側近である宮野ことみーちゃんが拉致された組のこと。
「流石じゃな。」
そんな話をしながら近況報告、情報共有などをした。
「実は少し相談があっての。」
会合の終わり際、真剣な顔をして言った。
「案内役の遥に会ったじゃろう、あの子はわしの孫でな。」
「…そうだったんですか。」
「気に入らんか?」
私の返答に違和感を覚えたのか不思議そうに言った。
「遥さんは『当主』という肩書きを大事に思われているようで。」
「…その様子だと遥が失礼なことを言ったようじゃな、申し訳ない。」
深々と頭を下げられた。
「実は近々遥を重役にと考えていたんじゃが…まだ未熟者のようだな。」
呆れたように言った。
「紫乃宮さんは若いのに素晴らしいな。見習って欲しいくらいだよ。まぁ、働きすぎは良くないがな。」
男社会の中で女1人上にたち続けるにはそれ相応の努力がいる。
学業との両立ともなるとさらに忙しい。
「出来ることがあれば声をかけてくれ。」
「ありがとうございます。」
いい人で本当に良かった。
「忙しいのにわざわざすまんかったな。ありがとう。」
「いえ、こちらこそ。また連絡させて頂きます。」
軽い挨拶をして当主は主屋に戻って行った。
この界隈では恐れられている当主だが付き合いを重ねていくようになってたくさんの優しさに気づいた。
「あ、紫乃宮さん。」
当主がいなくなったタイミングでさっきまで姿がなかった遥さんがいた。
「うちの紫乃宮に御用ですか。」
「みーちゃん。」
横から即座に出てきた側近のみーちゃんにつっこむ。相変わらず心配性すぎる。
「当主、女なんすよね。女の下にいるのってどうなんすか。」
「…お前なんて事をッ!!」
「瑠衣。」
「でもッ!!」
今にも殴りかかりそうな勢いの瑠衣を止める。
「当主の孫の俺には何にも言えねーのな。だっさ。」
さらに煽るように言って場の空気が凍りついた。
「…遥さんはこの世界に向いてなさそうやな。」
「は?誰に向かって言ってんだよ。」
「…誰に喧嘩売ってんのか分かってないそこのお前にや。」
持っていた護身用ナイフを遥さんの首スレスレの所まで持っていく。
驚きと恐怖で声も出ないようだった。
「私を馬鹿にするのはええけど、大切な部下達傷つけんとってくれる?」
「…すみませんでしたッ!!」
半泣き状態で腰を抜かした。
周りの部下達も呆気に取られているようでさすがに大人気ないことをしたと反省する。
「これからも末永くよろしゅうに。あと、」
「喧嘩売る相手、間違えちゃ駄目やで。」
「はい…すみませんでしたッッ!!!!」
ほぼ土下座状態の遥さんを置いてその場を去る。
「律さん…ごめんなさい。」
瑠衣が落ち込んだように言った。
「えぇよ。怒ってくれてありがとね。」
「…いえ。」
悔しそうに言う。
正直少し傷つくところはあった。『女の下に』。そんな言われ方をされてしまう未熟さを感じた。
…もっと強くならんとな。
「プルルル…」
不意に携帯に着信が入る。
「桃瀬くんからや。先戻っとって。」
「…はい。」
『先輩…すみませんいきなり。声だけでも聞きたくて!!』
相変わらず可愛いなと思う。
「私も丁度、声聞きたかったわ…ありがと。」
『…先輩、何かありました?』
数秒の沈黙の後静かに言った。
「…なんも無いよ、大丈夫。」
『先輩の大丈夫は信用できません…。』
心配そうに言った。
桃瀬くんの優しさでさっきまでのもやもやが吹き飛んだ気がした。
「…今声聞けて大丈夫になった。ありがとね。」
『先輩、今どこですか。』
「外出とってこれから帰るとこ。」
『…行ってもいいですか?』
「えぇけど…だいぶ遠いやろ。無理せんとって。」
『俺が会いたいんで、すぐ行きます。』
こういう真っ直ぐなところが好きだ。
「…ありがとう。待ってる。」
軽い足取りで家に戻った。
┈┈┈
「先輩!」
「桃瀬くん早ない…?」
一人暮らし用の家に戻ると桃瀬くんが家の前に座り込んでいたため急いで部屋に入れた。
「お茶でえぇ?そんな急がんくても良かったのに…。」
「先輩に会いたくて自転車かっ飛ばして来ました!」
爽やかな笑顔が眩しい。
めちゃめちゃ愛されててびっくりした。
「…。」
「先輩?」
「うわっ!」
気づいたら桃瀬くんのことをぎゅっと抱き締めていた。
「…我慢しとったのに、充電切れたわ。」
さらに力を強めた。
「俺はとっくに切れてましたよ…。会いたかったです。」
背中に優しい温かさを感じる。
私桃瀬くんのことめっちゃ好きやったんやなぁ…。
勝手にそう思って自分の顔が熱くなるのを感じた。
「先輩、大好きです!」
「私も大好き。」
ヤンキー彼氏とちょっと怖い先輩彼女の話。 桜空 ゆうき @Kigaya
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