役立たずと勇者パーティーを追い出されたけど実は最強の付与術師でした ~見返す相手もいなくなったので僕を慕う美少女たちと人類を救ってきます~

Episode No.258 冒険の終わり、幸せな日常へ

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 アルガイアー暦380年――僕がリチャードたちのパーティーから追い出されて5年が過ぎた。

 苦しいのは追い出された直後からの1年間だったかな。

 自分を『役立たず』だと思い込んでいた僕はすっかりと自信を喪失していた――元々自信なんて持っていなかったけど……。

 あちこちのパーティーに臨時で参加して、その日を過ごすための小金を稼ぐだけの毎日……そんな日々だったけど、徐々に周りの人が僕のことを認めだしてくれた。

 どうやら自分で思っていた以上に、僕の付与術エンハンスは強い効果を持っていたみたいだ。

 何組かに『自分たちのパーティーに正式加入しないか?』と誘われはしたけれど、僕はいまいち気が乗らずに断っていた。

 リチャードたちのことがトラウマになっていたのかもしれないが……今にして振り返ると、もしかしたら僕は『運命の出会い』がこの後に来ることを意識せずとも予感していたのかもしれない。




 2年目のある日、いつものように冒険者ギルドへと向かった僕は、チンピラ冒険者に絡まれる一人の少女を助け出した。

 新米冒険者で、しかもまだ誰ともパーティーを組んでいない上に治療師――つまりは後衛職――だという少女を放っておけず、僕は共に行動することとし……自然とパーティーを組むこととなった。

 そこからは本当に順調……いや、『快進撃』としか言いようのないくらい、あらゆる物事が上手く進んで行ったと思う。




 前衛不在の僕らのパーティーにまず加わったのは、ゴーレム技師のマキナだった。

 ……ゴーレム技師自体は後衛職だったけど、彼女が操る様々なゴーレムは前衛として申し分ない。

 それでもやはり人間ほど自由自在に動けるわけではないし、ゴーレムに対しては僕のエンハンスも意味をなさない――エンチャントの方は効くんだけど、僕は得意ではないのだ。

 そんな穴を埋めるように、獣人の戦士であるメアが加わってくれた。

 前衛の専門家であり、弓や投擲武器も使いこなし、更には魔術をも使えるメアは僕たちのパーティーに欠けていた穴を埋めて尚あまりある。

 彼女が加わったことにより、僕たちパーティーは『完成』したと言えるだろう。




 そこから様々な依頼をこなして3年目にはもうAランクへと到達。

 後は何か大きな功績を残せばSランク昇格といった、冒険者の『頂点』とも言える場所へと僕たちはやってきた。

 マキナのゴーレムはどんどんと性能を上げ、更には『魔術手甲マジックガントレット』という魔力さえ事前に込めておけば誰でも攻撃魔術を放てるというとんでもない魔道具をも開発。攻撃面ではほとんど役に立てなかった僕でも、自身へのエンハンスを合わせて使えば単独でAランクの魔物と渡り合えるようになった。

 メアの戦闘力の上昇は留まることを知らない。

 ついには、あらゆる武術を極めた者に与えられる称号『武匠』とまで呼ばれるようになっていった。

 僕自身もエンハンスを高めていき、ついに強化割合が5割を超え10割――つまり2倍の強化ができるようになった。

 ……その強化は、彼女が齎してくれた知識の賜物である。

 この頃には僕たちは傷を負うこともほとんどなく、治療師である彼女の出番はなくなっていったけれども、彼女なくして今の僕たちは存在していなかった――そう思う。




 だから僕は決して彼女を『役立たず』と思わなかったし、かつてのリチャードのように追放しようなんて思わなかった。

 彼女と出会ったからこそ、今の僕がいる。

 彼女の知識とアドバイスがあったからこそ、『最強の付与術師』と呼ばれるまでエンハンスを高めることが出来た。

 戦闘面で貢献できなくても、いざという時の治療、そして生活していく上での諸々の雑事を彼女が片付けてくれているおかげで僕たちは安心して冒険に出ることが出来る。

 それに――彼女は僕の『恋人』なのだ。見捨てることなんて絶対にありえない。

 僕はそう思っていた。

 この世に『役立たず』なんていない、そうも思う。

 誰だってその人一人だけの価値がある。

 違うのは、その価値は見る人によって違うというだけだ。

 全ての人に価値があり、命は尊いのだ。




 ――僕らの冒険における最大の『敵』は倒した。

 300年前、『死こそが救済』を掲げ大陸中を戦乱の渦に巻き込んだ『魔王』ゼル=ゼビス。

 当時の『聖剣の勇者』によって魔王は倒され、大半の魔族は南方の大陸へと追いやられ一応の平和を得ることができた。

 けれども、魔王の思想はアルガイアー大陸に遺っていた。

 魔王の思想を継ぐもの――『ゼル=ゼビス教団』という、教団という名の殺人集団が存在していたのだ。

 歴史の裏で暗躍していたこの殺人集団が、アルガイアー大陸北方で大規模な活動を開始。『殺戮王』の引き起こした混乱により乱れに乱れた北方諸国を恐怖のどん底へと突き落としていた。

 混乱しているとはいえ『国』は国だ。迂闊に他国が攻め込むことは更なる混乱――具体的に言えば300年前同様の戦争の引き金となりかねない。

 そこで白羽の矢が立ったのが、超国家組織である冒険者ギルド、そしてその冒険者ギルド内でも最高ランクであるSランクパーティーである僕たちだった。他のパーティーも幾つか参加はしていたけど。


 北方諸国の領域……いや、新たな『魔王』の領域へと数組の冒険者パーティーで潜入。

 生き残っている人を助け、拠点を築き、殺人教団のメンバーを削り……長い戦いだった。

 そうして最後に、僕たちパーティーが新たな『魔王』を倒し、殺人教団は崩壊。北方諸国だけでなくアルガイアー大陸に巣食う『闇』を払ったのだ。


 殺人教団は様々な陰謀を各地で巡らせていた。冒険者ギルドへと舞い込んで来ていた不可解な依頼や、魔族関連の依頼はヤツらの仕業だったらしい。

 ともかく、最大の『敵』である魔王及び殺人教団がなくなったことにより、アルガイアー大陸には再び平和が訪れることだろう。




 ……そして僕たちのパーティーは名実共に大陸最高の冒険者パーティーとなり、Sランクの更に上……史上初のSSランクへと昇格された。

 ただ、僕たちはここで一旦冒険者を辞めることとした。

 理由は――今のパーティーになってから4年近く、ずっと冒険し続けてきてちょっと疲れちゃったというのと、大陸の『闇』を晴らしたことで当分の間はSSランクの出番はないだろうという安心感。

 それと、

 マキナとメアは悔しがりつつも祝福してくれた。

 大陸で一夫多妻制度の国は今のところない。だから二人とは結婚できないが、それでもお互いに納得の上でこれからも一緒にいるけどね。




 僕たちの結婚式も終わり、冒険者ギルドへと一時休止の手続きも終わり、今は新婚旅行の途中――というわけではない。

 数年過ごした家も手狭になるだろうからと、とある村に新しい家を購入したのだ。

 ……その、ほら。結婚したんだし、子供とか増えるだろうし……ね? …………今までにも散々そういうことはしてきたけど、良くできなかったよなぁ……いや、できてくれた方が嬉しかったけど、そうなると冒険者として活動することは難しくなるわけで……何とも言えない複雑な気分だ。

 ともかく、今僕たちは新居へと向けての旅をしている最中である。




『ぐふっ、ダーリン♡ 乗り心地はどぉ?』

「うん、大丈夫。というかすごいね……全然揺れないし、部屋の中にいるみたいだ」


 僕たちの旅は徒歩でも馬車でもない。

 マキナが新しく開発した『長距離移動・輸送用ゴーレム』で移動しているのである。

 見た目は『亀』が一番近いかな? 甲羅部分が座席――馬車の荷台に当たる部分になっていて、頭部分が亀にしてはちょっと大き目の『操縦席』となっている。

 マキナはその操縦席から伝声管というものを通して、座席にいる僕たちに声をかけてくる。


「外の景色が見えないのはちょっと残念だけどね」

『ふひっ、そ、そこは今後の改良で……何とか……』


 空気の入れ替え自体はゴーレムの機能でどうにかしているみたいだけど、外の景色が見れないのが言葉通り残念だ。

 なにせ向かっている先は今までに行ったことのない土地だ。そういうところの風景を楽しむのも冒険……いや旅の楽しみだとは思うんだけどね。

 結構な速度でゴーレムは走っているらしく、下手に外が見れるようになると風が物凄い勢いで吹き込んでしまうので仕方ないか。僕はともかく、彼女にはちょっと辛いだろうし。『硝子』を座席側にふんだんに使うにはお金もかかるし、ゴーレムの移動速度に耐えられるほどの頑丈さはないみたいだ。よくわからないけど。


『おっと、ここからちょっと揺れるから、気を付けてね~』

「わかった。ありがとう……って、うわっ!?」

「きゃっ!?」


 マキナの警告と同時に、僕たちの座席が大きく揺れた。

 石か何かに乗り上げたのかな?

 咄嗟に隣に座っていた彼女を抱きとめる。

 最初の揺れ以降、大きなものはなく少しがたがたと揺れるくらいに収まってはくれた――ちなみに座席には柔らかいクッションが敷かれているのでお尻は痛くない。


「えへへ、ありがとうデュー君」

『ふひひっ、申し訳ないダーリン。ふむふむ、安全な移動のためには座席に人を固定するベルトとかが必要かもしれない……』

『おいマキニャ!? 運転中に考え込んでるんじゃないニャ!? 後、アタシらがいないからって二人でイチャイチャしてるんじゃないニャ!』

「あー……うん、わかってるよ。マキナも操縦よろしくね、後メアもマキナの監視よろしく……」


 語尾にニャとつけているのがメア――魔狼フェンリルの獣人だって言ってるのに何で猫なのか、昔訊ねたことはあるんだけど死んだ魚のような目をして『聞くニャ……』と言われたので真実は知らない。

 マキナも物凄いゴーレム技師なのは確かなんだけど、凄すぎていいアイデアが思い浮かんでしまうとそっちに意識を集中してしまうという悪癖がある。

 ゴーレムの操縦はマキナにしかできないし、そのマキナの集中力が結構アレなのでメアが監視というかお目付け役で操縦席に同乗してもらっている。

 ……なので、座席には今僕と恋人――いやもう『妻』か……ともかく二人きりである。

 メアにくぎを刺されたばかりだけど……折角の二人きりなんだし、新婚なんだし? 新居へ向かってる最中とはいえこれも新婚旅行と言えなくもないわけだし……?

 もう揺れは小さくなっているけど、僕はそのまま彼女のことを抱きしめたままでいた。

 ちょ、ちょっとくらいならイチャイチャしてもいいよね?


「――ねぇ、デュー君」


 彼女が声をかけてくる。

 あ、嫌がられちゃうかな……なんて思ったけど、彼女の方から抱きしめる僕の手を取った。


「冒険者、辞めちゃっても良かったの?」

「あー、うん。そうだね……」


 史上初のSSランクパーティー、という栄誉は素直に嬉しく思う。

 けど、振り返ってみると……別に僕は『冒険者になりたい』というわけではなかった。

 王国からの命令でリチャードの供として旅立ち、追放された後は行く当てもなく生活費を稼ぐために冒険者を続けていただけだった。

 ……人生の目標とまで言えるものではない、と確信をもって言える。

 皆の力でとても大きな成果を上げ、名声も上がったけど……それは僕が求めたものではなかったと思う。

 もちろん嬉しい気持ちに偽りもないんだけどね。


「元々冒険者に拘りは持っていなかったからね、暮らしていくのにお金が必要だったからやっていただけで。

 後は……冒険者を辞めたら君たちと一緒にいられないと思ったから……なんだよね」


 パーティーを解散してしまったら、彼女たちと一緒にいられなくなるんじゃないか。そんな恐れがあったことを正直に告白した。

 ……それは、彼女と『恋人』になった後もそうだった。

 そんなわけない、と思いたかったけど――何年経っても、僕は心のどこかにまだ『役立たずのデュー』がいることを自覚していた。

 情けないことを告白する僕に、彼女は優しく微笑みかける。


「なぁんだ、そんなことあるわけないですよぅ。

 ふふ、じゃあ冒険者は本当に終わりなんですねぇ?」

「うん。『魔王』討伐でかなり報酬貰ったし、今までの貯金分もあるからね。よっぽど困ったことが起きない限りは、冒険者は引退かな。

 でも一生働かないでってわけにもいかないから、何か仕事を探す必要はあるけどね」


 僕たちの力が必要ならば、その時はSSランクパーティー復活かな? 子育てとか色々あるだろうから、すんなりと復活とはいかなさそうだけど。


「……実家に戻るという選択はありますかぁ?」

「え……? いや、うーん……実家には戻らないよ。いずれ結婚の挨拶とかはしようと思ってるけどさ」


 兄たちがいるし、いくら『魔王』を倒した英雄だからと言っても跡継ぎを変えたりはしないだろう。そんなことをしたら僕が原因で大混乱が起こることになる。

 そして結婚についても実はまだ手紙でしか知らせていない……流石に二度と会わないというわけにはいかないだろうし、いずれ顔を出すつもりではいる。

 ……『妻』である彼女はともかく、マキナとメアも着いてくるだろうし、どう言い繕うかが悩ましい。

 まぁまだまだ先の話だとは思う。

 僕の返答を聞き、彼女の顔が輝く。


「えへへ、なぁ」


 親への挨拶は緊張するけど、やっぱり『家族に認めてもらう』というのは必要かなと思いなおす。

 うん、実家に行くのは――新居で落ち着いた頃合いを見計らって皆に提案してみよう。

 ちなみに、彼女の両親は既に亡くなっているとのことだ。

 ……墓前であっても、そちらにも報告は必要だろうな、やっぱり。


「ねぇデュー君」


 もう一度、彼女が僕に呼びかける。

 今度は彼女の方から積極的に、僕の首に腕を回して耳元でささやくように。


「わたし、デュー君と出会えて本当に良かったと思ってますよ」


 ……。

 ゴト、ゴト、ゴト、僅かな音を立ててゴーレムは進んでゆく。

 僕たちを妨げるものは何もない。




 禍福は糾える縄の如し――追放されてからずっと僕の幸せは続いている。

 もちろん冒険者として活動していく中で苦しい時はいっぱいあった。それは彼女たちと出会ってからだって変わらない――『魔王』たちとの長い戦いの中では、仲良くなった他の冒険者パーティーが散っていく様も見た。

 それでも僕たちは無事に生き残ることが出来た。

 それを幸運と喜ぶのは不謹慎だろうか?

 運だけではなく、僕たちの実力で勝ち取ったものだという自負もある。




 僕の幸運と幸福は追放されてからだった。

 前にも思ったことだけど――本当に追放されて良かった。そうでなければ、今のこの幸せは手に入らなかったのだから。

 彼女を強く抱きしめ、僕も応えた。


「――うん、僕も君に出会えて本当に良かった。幸せだって思ってる。

 愛してるよ、

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捨てられ術師イザベルは、それでも人類を救済したい 小野山由高 @OnoyamaAXE

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