感想5『西のカルデラ戦記① -風の舞う地ー』3章・西の辻風
■こんにちは、天音朝陽です。
『 I love you 』
夏目漱石はこの英語を日本語に訳するなれば
『月が奇麗ですね』
で良いであろう・・・と言ったらしい。
『西のカルデラ戦記① -風の舞う地ー』
作者 もってぃ 様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918616771
3章 西の辻風 の感想
(世界観の確認のためプロローグも読みました)
★これは大河ドラマどころではない、製作費をつぎ込んだ映画大作に近い物語
★レヴューにもあるように重厚骨太のハイファンタジー
★私個人的には作者さんとの(良い意味での)戦い
★言葉の遣り取りの緊張感。様々な人物を巻き込んでの繰り広げられる権謀術策
★飛竜が、グリフォンが、飛行船が空を駆ける。FF4の『赤い翼』を聞きながら読みました。
あくまで私個人の感想であり、一般的な感想とは違うかもしれません。
また創作者目線での感想は別のものになります。
■
作者さんに伝えたい読者としての第一感想。
出だしに書いた通りです。メインキャラクターのアニュロ(男性)は、クロエという女性キャラに対し
・最初の出会いの最後に
・そして次の邂逅の最初に
「月が奇麗」であるというセリフを投げます。
そして、彼女ともう少し同じ時間を過ごしたいかの如く、さらに「月が奇麗」であることを告げます。
>──もう少しこのマヌケな洒落者に付き合ませんか……。月もほら……、キレイです
確実にご存じだと思いますが、かの明治の文豪・夏目漱石は 「 I Love You 」を「月が奇麗ですね」と日本語に置き換えたとか。
三度、アニュロの口からこのセリフが出た地点で、これは今後この二人は接近していくという作者さんからメッセージなのだろうな、そうだったら良いなという思いをもちました。
(すみません、これが単なる偶然だったとしても、分かる人には分かる的な面白さになっています)
この第三章では、出だしから月の光がとても印象に残るものでした。
月の光が照らし出すものというより、照らし出されたものが際立つ、そういった印象です。
月明かりの元飛ぶ、飛竜とメインキャラの二人。
灯りをつけず飛ぶ(クロエを乗せた)飛行船。
ルージュ―城でのアニュロとクロエを照らしたであろう月灯り。
最後のほうで、商人ピエルジャコモを照らすとか。
■
3章中盤までは権謀術策の話が中心でしたので軍記ものみたいなノリで読んでいましたが、3章後半からは恋愛ものを読んでいる感覚でした。
これは私が、アニュロとクロエの心の動きを『恋愛的』としてとらえていたという意味で、二人の間にある緊張感もしっかりと味わわせていただきました。
恋愛というと何か燃え上がるものを連想しそうですが、このアニュロとクロエの間に小さなものが、ひとつひとつ積みあがっていく感じがしました。
西の辻風4 のラスト
・ 笑うと、印象が変わった…──。
西の辻風5 のラスト
・ クロエもまた、もう少しこの男に目を向けても良いかな、と思ったのだった……。
機微というか、けっして派手でない二人の気持ちの変化が面白い。
■
これはレヴューにもありましたので多くは書きませんが、
各エピソード・シーンにおいて考証、準備となる思考がなされていて、強烈なリアリティがありました。
小野不由美さんの『十二国記』みたいな雰囲気を感じます。
(十二国記は読んだことありませんが、ファンブックは持っており、自分もこういった徹底緻密な世界を作り上げてみたいとよく思います)
■
ひとつひとつの文章の骨格が確かなもので頑健な構造をしているという感じです。この表現だと創作者目線ぽいのですが。
読者目線でいうなれば「よ~し、気合入れて読むぞ!」といった感じになります。
>>「遠路はるばるお越しくださり恐悦至極にございます。父は公務にて、代わりに私がもてなすよう言い付かりました。ようこそ、ルージューの地へ」
グリフォンに囲まれぎょっと立ち竦んでいたタルデリは、安堵の色を浮かべて鷹揚に笑いを見せて言った。
「辺境伯は息子の婚礼当日も公務か。熱心なことよな」
この部分で私は「はあ?花嫁の候補が式の当日に公務をしているとか非礼だろ!」と思ったら、すぐに次の行で
>考えようによってはルージュー側のこの対応は無礼なものである。
と、書かれており、 上記>> の文章はたんなる文字数稼ぎではなかったんだ、と思った次第です。
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さらりと挟まれる女の戦い
>ライムンドの正妻アグスティナ・ソフィアである。40歳近いはずだったが色香は衰えていない。ルージュー六邦で最も力を持つ女は自分だと承知をしている目をしていた。
>ホールの中を見渡し客の中にクストディア女方伯を認めて目が逢うと、艶然と口許でだけ笑ってみせた。
このような女の戦いみたいな描写は好きですね。
・マールロキンの黒狐 クストディア・マールロキン・ベネディート
夫を亡くして以来、ずっと喪服の色の服で通している。
印象に残ります。
■
おっ?と思った人物
六男、アベル・サムエル・マルティ・シメネス……〝配慮の人〟
『配慮の人』って、何か良いですね。
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印象に残った文章 ランキング
1位 以来、ずっと喪服の色の服で通している。(西の辻風3)
マールロキンの黒狐クストディアは黒いドレスを纏った姿で婚礼の席に登場。その後の文を読むと、夫を亡くした後10年近く喪服の色で通していると・・・
そしてこの女性キャラは強いらしい(美しさはそこそこ)、個人的にぐっとくる。
2位 『お前さんくらいの〝上玉〟と判りゃ、そりゃあ追加料金だって頂きたくなるものなのさ。払えないのならその体で払ってもらえるしねぇ』(西の辻風1)
まだ正体が明かされていない段階でのクロエの描写になると思うんですが、上玉というセリフだけで「すげえイイ女なんだ!」と下衆な私のハートは持っていかれました。
クロエはわかりやすいイメージで描写してある娘さんですが、以後クロエ→上玉→イイ女 のイメージが離れません。
3位 結局、アニョロは〝絆ほだされ〟た…──。
クロエもまた、もう少しこの男に目を向けても良いかな、と思ったのだった……。
3位はふたつの文章ですが、ふたつでひとつと捉えて良いですよね?
じわじわと抗えないように惹かれ合う(?)二人を纏めた名文だと思います。ああ、私には書けないなあ。
■
個人的に好きなキャラクター1位~3位
個人的に好きというもので、物語内での活躍の内容や、重要度は考慮に入っていません。
1位 マールロキンの黒狐 クストディア・マールロキン・ベネディート
夫を亡くして以来、ずっと喪服の色の服で通している女性。領地など残された者もしっかり守って、子育てもちゃんとやっている。
性癖っていう訳ではないですが、こういう女性好きですね。
2位 クロエ
『上玉』という言葉が頭から離れません。男装して密輸船に乗り込んだり、性格面でのきっぷのよさが好まれる要因とは思いますが、なにぶん『上玉』のインパクトが私の中では強すぎました。
3位 西方長官ポンペオ・タルデリ
困った上役みたいな感じでいい味をだしていると感じます。実際に自分の上司にいたら困りますが、物語のなかでは「あ~あ~困った人だねえ」と言う感じで見れてしまいます。一般的な読者さんはどう評価するかわかりませんが、キャラとしては好きです。
アニョロは物語内でそれなりの動きを見せますが、メインキャラであるならば普通そのあたりのアクションは見せるであろうという、単なる私の独善的な考えで4位となってしまいました。
個人的に物語のキャラクターには「活躍してほしい」という思いの他に「与えられた範囲での存在感を見せてくれ」という思いがあります。
脇役は物語内で目立った活躍はしないでしょうが「脇役」という範囲内で、役を全うし その存在感を放ってほしい!と考えています。
■
最後に
この第3章は戦乱の前の動きみたいな感じの部分であり、さまざまな人物の想いが
交差してゆく。であるがゆえに『辻風』なのでしょうか。
私は男性ですが、今回読ませていただくにあたり女性的な視点で引き込まれていったように思います。
しかし
飛竜の飛行。グリフォンの隊列。数種類はあると思われる飛行船。
壮大かつ虚礼的な結婚式の様子。緊迫した会話。
など男性的な目線からでも味わう事の出来る物語であると、創作者目線で感じました。
プロローグを読んだ後、登場人物や情勢などメモを取りながら読みました。
作者さんは相当に気力体力をこの作品につぎ込まれていると思います。
私自身も同じだけの気迫をもって読ませていただきました。
そのあたりは良い意味での作者さんとの真剣勝負でした
いつの日か私もこのアニョロやクロエのいる世界に行ってみたい。
そう思いながら、お礼を述べつつ終わりにしたいと思います。
ありがとうございました。
(3500文字)
★★★
作者PR
15万文字完結のハイファンタジー作品を投稿しましたが、散々な結果に終わりました。
悔しい! そして、愛着のあるキャラクターたちに申し訳ない。
どんだけ下手クソな小説家みてやるぜ!という方は以下のリンクからご覧ください。注)3話くらいまではまともだと思います。
【レヴァント・ソードブレイカー ~最強の騎士団長は幼馴染みと女司祭に命を狙われてますが、国を救いたいと思います~】
https://kakuyomu.jp/works/16817330663517019554
次こそは、読んでもらえるハイファンタジー作品を書きたい!
と言う訳で、先輩作家さんの文を読んで感想書いて基礎力をつけるぞ!!
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