02

 回収された見るも無残なロボットたちの残骸に、カラフルな髪の女は嫌そうに眉を潜めた。


「なんでウチなわけ? これ、馬の奴じゃん。あいつにやらせろよ」

「いや、その……これの腹いせに、反魔女派を煽るのに忙しいとか……」

「ハァ? それでウチに回してきたの? マジふざけてやがる」


 科学推進委員会の協力者である凄腕ハッカーの一人である目の前の女が、ワザとらしく大きなため息をつく。

 ハッカーなんてやっている人間の性格なのか、”協力”の”きょ”の字すら感じさせない彼らだが、その腕は確かであり、科学推進委員会に必要不可欠な存在である。

 こんなくだらないことで仲違いなどされては困る。

 この手の人間が、組織を抜けて最初にやることと言えば、まずは腹いせに自分が元いた組織を破壊することだ。


「で、でもですね、今回は情報技術班のミスだと……それに、青兎馬の機械の修理ができるのは、スパンコールさんくらいですし……」

「こっちのミス!? 人工怪魔が碌に揃ってないことをこっちのせいにしてんじゃねェっての!!」

「実験動物が足りないとかで……保護施設から受け取るにも、実験体分も含めると数が足りないらしく……」


 その昔、魔力を持つ動物は存在していたが、人を襲う”怪魔”は存在していなかった。

 ”怪魔”は”災厄の魔女”と呼ばれる魔法使いにより、明確に人間への敵意を持って作られた人工の魔法生物であった。

 当時は、怪魔と災厄の魔女との関係などわからず、同じ魔力を持つ人間であるという理由だけで、”魔女狩り”と呼ばれる魔法使い狩りを行うことで、怪魔を減らそうとしてた。

 今でも世界的に見れば魔女狩りは行われているが、日本は比較的少ない。


 いまだに怪魔が発生するメカニズムは解明されず、その研究の傍ら、怪魔を疑似的に作り出す技術も開発されていた。それが、人工怪魔である。


「今、SNSも使って、集めているのですが……」


 ”災厄の魔女”のように、新しく生物を生み出すようなことはできないため、科学推進員会は実際にいる動物を使い、人工怪魔を作り出してた。

 そのため、怪魔を作る分だけ動物が必要だし、実験に耐え切れない動物も含めてれば、必要な数は膨大になる。


「あの超ダサダサのやつ?」


 妙なことをやっていると、SNSで見かけていたが、ハッシュタグも少なければ、碌に盛り上がらない文面で、誰が拡散するというのかと思った。


「………」


 その顔を見れば、アレが本気だったであろうことは想像がついた。


「こんなのハッシュタグ盛りに盛ればラクショーじゃん」


 適当に作り上げたアカウントで、里親探しボランティアのサイトを作り上げる。

 適当な実績に、証拠のようなネットに落ちていた写真を少し加工して作った写真を張り付け、まるで何年も前から行っていたかのように見せかける。


「んじゃ、これやったってことで、そこのゴミは馬にやらせろよ」

「え゛、いや、ちょっと!?」


 それとこれとは話が別だろうと、言いかける言葉を無視して、イヤホンを装着し、音楽を流す。

 いつも聞いているヘビーロックとか違う、ポップで明るい曲。

 以前の自分なら、ありえないと一蹴しているような曲だが、その歌声は心を震わせた。


「マジ神……やっぱ、萎えた時にサイコーだわ」


 ロボットたちの修理はしないが、敵となる魔法使いたちの情報は手に入れておかなければならない。

 破壊される前に撮影できた記録映像を確認しながら、その護衛がどこの誰か。魔法使いのランクや戦闘力が測れる資料がないかを、広大なネットの中から探す。


 ほとんど一人で怪魔とロボットを倒した実力者であることに加えて、無修正の映像。これだけ揃えば、スパンコールでなくても特定することはできる。

 事実、最初に動画をアップした投稿者のコメント欄に、疑いの人物たちが名前が記載されている。


「赫田浩之。あー……たぶん、こいつだ」


 魔法士の家系で、兄弟共にAランクの魔法使い。幼い時からスポーツ、魔法大会に出場すれば、優勝もしくは失格。失格理由のほとんどが、施設の破壊や相手が大怪我したことによるものだ。

 地元茨城での評価は、化け物だの暴走列車だの、視界に入ったら念仏を唱える暇すらないとか、ろくでもないものばかり。

 今年の4月から、翌檜学園に入学するために上京。


「翌檜なら、ちょっと前の模擬戦が……」


 ネット配信されていたアーカイブを確認しようとして、ネットで話題になっていた映像が頭に浮かぶ。

 あの時には気に留めていなかったが、破壊できるものをすべて破壊し尽くすような試合があった。あれが赫田の試合だったのだろう。


「あーこれだこれ」


 数で勝負するにも、この模擬戦を見る限り予算が足りない。こいつが目的ではないなら、避けるのが一番だ。

 それか、人質か。彼とペアを組んでいる相手なら、人質にならないだろうか。女だし、彼女とかだったらすごくいい。

 そんな薄っぺらい希望で、ペアの彼女に目をやった時、画面に食いつくように目を見開く。


「さやちんじゃん!? え、なに、はぁ!? なんでこんな野蛮人と一緒にいるわけ!? 美女と野獣ジャンル開拓!? ない! ないない! ゼッテー認めないって!! さやちんにこいつは似合わない!!」


 このふたりがカップルとかありえない。好き合ってるわけがない。

 つまり、この野蛮人が彩花を脅しているのだ。


「あ、あのー……スパンコールさん?」

「うっさい!! ウチは今から、さやちん救出作戦するんだから邪魔すんな!!」

「え、えぇ……」

「つーか、いつまでいんだ。とっとと出でけ」


 話はもうないと、部屋から全員追い出し、パソコンに向き直る。

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世界に色を付ける系アイドル始めました 廿楽 亜久 @tudura

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