オレとバカ
「燃ーえろよ、燃ーえろ、とっとと燃ーえろ。 マジで早く燃え広がれー」
「切る斬る截るキルきりまくる〜」
「刺し殺して刺し殺して刺し殺す」
ビキニアーマーの女が行使する魔法により、轟轟と森の植物に炎が上がる。
ぶかぶか服の女が振るう斧により、木幹がぶった斬られ倒木する。
屍霊術師の男の持つレイピアにより、斬れた木と火の手から逃げる魔物が刺殺される。
なんとクズルゴはルベリーとリーラズを〔憑依人形〕に取り憑かせて一緒に放火、森林破壊、魔物の大量殺害という人道的にも法律的にもアウトな行いを鼻歌交じりでやっていた。
どうしてこのようなトチ狂った事を行っているのか・・・・それは当然、これがクズルゴの作戦であるからだ。
先刻、〔契約書〕で交わした〈契約〉のペナルティを思い出したクズルゴは、そのペナルティ回避の為に今まで避けていた大きなリスクの問題を度外視して作戦を考えた。
そうして取った行動は・・・・絶対に後で面倒な事になるであろう大規模な破壊行為。
(これもお嬢様という一人の人間を守る為だ、だから仕方ねぇ。 うん、本当に仕方ねぇ。 オレだって嬉々としてやってるワケじゃねぇよ? でもよ、お嬢様を助けられなかったらその時点でオレには詳細不明だけど深刻って事だけ分かる恐怖しかねぇペナルティが課せられるんだぜ? なら他のとこでリスクを取るのはもう許容するしかないっていうか? ていうかオレ以外でも それに別に悪事の為じゃなくてむしろ人を救う行いだし? 後ろ指を指される謂れはない、ないったらねぇえんだ。 それにこんな真夜中なら第三者がいる可能性は極めて低い、無関係の人に直接飛び火する事はねぇ! あくまで誘拐犯に追いつく為だ。 誘拐犯が悪いよ、誘拐犯が。 ・・・・ココさえ乗り切って依頼達成した後にとっととどっかにトンズラすればいい。 そうすれば少なくとも〈契約〉不履行による不可避にして絶対のペナルティだけは回避出来る)
ツラツラと内心で自己保身の為の誰に向けたワケでもない言い訳を並べながらも、やっぱり最終的には逃げる事を考えているクズルゴ。
どんな状況でも小物らしさを忘れない男だ。
そんなクズルゴが考えた作戦はこうだ。
『森のどこに誘拐犯がいるかは分からない・・・・なら虱潰しに探すのではなく、もう此処ら一帯焼き払っちゃおうか作戦』という頭の悪いもの。
普段のクズルゴならこんなヤケクソで被害規模が大きすぎるリスキーな作戦は行わない。
だがクズルゴは護衛対象のお嬢様が攫われた時点で依頼は9割程失敗しており、要するに現在はその失敗が完全なものになる前にどうにか取り返さなければならない状況。
つまり余裕がなく、かなり追い詰められているのだ。
鼻歌交じりに行っているので特に何も思っていないように見えるが、実際その鼻歌は現実逃避によって出ているものなのである。
しかし何も考えずに実行しているワケでなく、短いながらもしっかりと考え込んだ結果のものだ。
まず森に火を放つのは大規模範囲に被害を発生させ誘拐犯を巻き添えにするのは当然として、暗く見晴らしの悪い森を明るくする効果もある。
火の手や煙が視界の邪魔になる事は否定できないが、そもそも少し離れた位置のものでさえ目を凝らさないと分からない暗闇の状況よりは見晴らしがいいだろう。
それ以外にも大規模な火災に対抗して派手な水魔法を使ったりしてくれれば位置が分かり易くなるのでは、という希望的観測もある。
そして放火と同時進行のそこらの魔物を見つけ次第殺すのは手駒を増やす為。
クズルゴは{屍霊術師}だ、死体を作れば〈屍役〉の魔法で仮の魂を植え付けて従順なゾンビに変える事が出来る。
与える命令は『辺りを動き回り、主人であるクズルゴ御一行を除いた人間の男を見つけ次第襲え』というものだ。
これにより誘拐犯の男達は炎以外にもゾンビ化魔物にも攻撃されるのだ。
昼に見た誘拐達の技量から考えてゾンビは瞬殺されるだろうが少しぐらいは足止めになるだろう。
懸念点としてはゾンビ化魔物達が真っ先に炎の被害で燃える可能性がある事だが・・・・既に死んでいるのだ、足が炭化して止まるまでは活動してくれるだろう。
後はゾンビとなった魔物の残念なおつむでは命令にある『人間の男』という点をしっかりと理解して性別を判別できるかどうかという点も不安だが・・・・まぁないよりはマシだろう。
他にも木を切り倒すのも、更に視界を確保する+木に隠れ潜むタイプの魔物を外に出して殺す+倒れる事で木と木が密着して燃え広がりやすくなるなどの効果を期待しているものだったりと、本当に何も考えていないワケではないのだ。
このように無差別な炎や一般的な魔物避けの魔法でが回避出来ないゾンビ達で逃走を妨害し、逃げる事が出来ず右往左往しているところを視界が良好になった状態で見つけお嬢様を奪還するというのがこの作戦の本質なのだ!
・・・・ただしコレら全てに誘拐犯サイドが炎やゾンビにある程度は対処して、お嬢様が害される事なくかつ足止めはされる程度の実力である事が前提とされる。
誘拐犯サイドが火に対処出来ず焼死体となれば一緒にいるお嬢様も仲良く焼け死ぬ、助ける為にとった行動で殺すという本末転倒な結果となる。
だからといって完全完璧に対処されたら普通に逃げられるので終わりだ。
対処に多少は手こずるけど死ぬほどではないという絶妙な実力を期待したい。
・・・・ただしこの前提の更に上には既に火事被害が及ばない程遠くまで逃げ切っていない事も大前提もある。
〈転移〉を使われる可能性は低いと断じたが、それも推測なので確実ではないしなにより作戦決行時には魔法とか関係なく普通に足の速さで逃げ切ってるというのも有り得る。
そう、本当の本当にクズルゴはこの作戦で限界なのだ!!
希望的観測に希望的観測を重ねた上で部の悪い賭けのガバガバ作戦をする以外の道は今の彼にはない、あったとしても思いついてない時点で存在しないと同義。
この作戦が成功するとても低い、なにせ相当な苦し紛れだ。
クズルゴも勢いでやらかしたこの行動に既に後悔し始めている。
だが、だがしかし。
誘拐犯達が最近の依頼が成功続きで無意識に慢心していた事。
それに加えて今回の依頼であるお嬢様を手中に収めた事で油断もしていた事。
誘拐犯18名が合流の遅い2名の事を、油断と慢心が相まって『何かあったのか?』という不測の事態に警戒するのではなく、『なにチンタラしてるんだ?』という見当違いな思考をした事。
そしてその遅い二人を愚かにも数分間待ってしまった事。
大人数での真夜中の移動に少し手間取るという単純なポカをやらかした事。
初手から対応出来ていれば逃げおおせただろうに、緩み切った心の隙を完全に突かれて後手に回ってしまった事。
表では冒険者として成功しているのに裏の人間としても活動しているのは金が更に稼げるという呆れ返るほどありきたりな無計画な理由だったが、高い実力と偶然が噛み合い今まで上手く行っていた結果としてプロ意識が圧倒的に欠如している事。
色々と要因を挙げたが・・・・つまるところ。
クズルゴも中々にバカな作戦を勢いで決行したが、誘拐犯サイドも中々に笑えないバカだったので結果的に作戦は上手く決まった・・・・というだけの話だ。
外れ者共は今を生きる 春夏 フユ @409289
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