オレと、終わった話
ーーーーーーPast logーーーーーーー
【とある里の長の息子◼️、
「なんだ?」
「なにがどうなってるんだ?」
「なんでだよ・・・・・」
「なんでっ・・・・なんで里が燃えてんだよ!!」
「・・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・・・トワアは?」
「ベリル、ラズリは?」
「ど、どこだ?」
「皆んなは、ど、どこに?」
「・・・・・早く、早く、戻らねぇとっ!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・・?」
「歌声が聞こえる・・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・ラシィの、声?」
「・・・・」
「・・・・・里が、何かに囲まれてる」
「里の外へと、出られないように」
「・・・・里を囲っているのは、スライム?」
「・・・・・塩は、下?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(・・・・馬車の扉が開いてやがるっ!! もう中に誰もいねぇ・・・・遅かったか!!)
駆け出してすぐに馬車の位置に到着したクズルゴだが・・・・時既に遅し。
キャビンの扉が開かれており、中にいたであろうお嬢様の姿が消えている。
当然ながら今さっきクズルゴがノックアウトした2名を除く18名も居ない。
チラッと見れば馬達は全員がぐっすりと眠っている・・・・コイツらも〈眠霧〉をモロに吸ったのだろう、わざわざ起こす必要性は感じないので放置する。
(血の一滴もなくその場から消えたという事は、目的はお嬢様の殺害ではなく誘拐の類の可能性が高いか? 一体どこに連れ去った?)
すぐに周囲を観察し、足跡などの追跡出来そうなものを探す。
・・・・・が、それらしきものは見当たらない。
(18人もいたのに痕跡が1つも残ってねぇ! 魔法かなんかで跡を消してるな!?)
向こうはクズルゴを始末する行動をしたので、クズルゴが追ってくるのを想定して残痕を消したワケではないだろう。
恐らく、誘拐を完了させ全てを終えた後に捜索された時の為の対策だ。
(奴ら、もう既に終えた後の事を見据えてるな・・・・早くしねぇと今も移動してるであろう18人と物理的に距離が引き離されていく。 だからといって闇雲に動けば全く見当違いの方向に向かっちまうかもしんねぇ。 転移魔法でとっくに遠くまで飛んで追えなくなってる可能性は・・・・・ねぇな。 〈転移〉は適正持ちがかなりレアな上、一回に飛べる人数はそう多くない、お嬢様を含めた19人もの人数は無理だ。 それにそもそもの話、貴重な〈転移〉を使えるような奴は誘拐するまでもなく普通に稼げる。 まぁそもそもアイツらが金目的なのかは知らんが・・・・こういうのって大体身代金目当てだろ)
分かりやすい足跡は勿論、追跡出来そうな物が一つもない状況。
それでも一度冷静になって考えねばならない・・・・全ては金とクズルゴ自身の安全の為に。
(〈転移〉やなんらかの方法で空を飛んだりする等をされてもう追えない可能性は一度排除して・・・・この位置を中心とした180°どこかの方向にちゃんと地続きで進んでいるという希望的観測でどこに向かったか考えよう。 さて、何かそれらしい情報はあったか?)
追えない可能性を残していても意味がないので、まだ追行出来そうなものとして考える。
(・・・・・ダメだ。 別にアイツらと特段会話したワケじゃねぇ上に目を合わせずにいたからそれっぽい情報なんて持ってねぇ! 推理して行き先を考えるとか無理だコレ!! クソ、それならどうする・・・・・? ゴーストに掴まって浮遊し、空から探すか? いや、今は真夜中で暗い上に木々が邪魔で俯瞰するには視界が悪すぎる! ならもう運任せにゴーストに森中を偵察して見つけて貰うか? ・・・・オレ一人で動き回るよりは発見確率が高そうだが、それでも森の広さからして偶然見つけるのはあまりにも低確率。 というかゴーストが見つけてもテレパシーが出来るワケじゃねぇからわざわざ発見報告を伝えに戻ってくる必要がある、その時点で発見時とタイムラグが生まれちまう!)
多少探し方を捻っても、この状況ではかなり厳しいだろう。
(そもそも現状が向こうの18人に有利すぎる!! 護衛として雇われて接近する程入念な誘拐作戦なんだから、向こうの準備は当然万端!! 視野が悪くなる魔法か道具かで深夜でも見えるようにしてるだろうし、〈魔除〉の魔法で誘拐中に魔物を近づいてこないよう対策もしてる筈だ!! 対してこっちは状況がいきなり過ぎるんだよ!! どうしろと!! ・・・・・さっき気絶させた二人なら行き先を知ってるか? 今から起こして少し痛めつければ話してくれる・・・・いや、時間がどれくらいかかるか分かんねぇ。 やめとこう)
このまま足踏みして時間が経過すればする程向こうはどんどん遠ざかるだろう。
かといって確実に相手を見つけられる妙案が思いつかないクズルゴは、その事を理解していても下手に動いた際のリスクを考え行動出来ない。
(・・・・・・もう、諦めるか?)
多分、いやきっと自分は追うことが出来ない。
クズルゴの至った結論は、酷く冷淡だが的を射ていた。
故にもう全てほっぽり出して、逃げ出そうと考えた。
一度の報酬で80万はとても魅力的だが、別の方法では絶対に稼げないワケではない。
護衛失敗の責任を取らされて自身の安全が危うくなるかもしれないが、ならば今すぐここから離れてどこか遠くに潜伏するという案もある。
ならば諦めて、相手を追わずに、責任を負わずに。
逃げるのだって、一個の手だ。
あの日だって、逃げたのだから。
命あっての物種。
今この場に固執せずとも、最終的に良ければ全て良い。
逃げて、逃げて、逃げて。
隠れて、隠れて、隠れて。
伺って、伺って、伺って。
アイツを殺した時も、そうやっただろ?
「よし、逃げよう」
そうと決まればすぐにここから去らねば。
初動は早ければ早い程いい。
お嬢様には悪いが、別にそれほど関わりのあった人間ではないし・・・・
『ねぇ、シレイ』
そんな折に。
ふと、脈絡もなくあの子の声が思い起こされた。
かつての婚約者であり、もう居ない、あの子の声が。
『ワタシいつか、里の外を見てみたい』
何故、今このタイミングで?
・・・・・そういえば。
彼女はお喋りが好きだった。
いつも秘密基地で、くだらない話しをするのを楽しんでいた。
お嬢様も、お喋りをして嬉しそうにしていた。
(・・・・・だからなんだ? もう終わった話だ)
声が、話し方が、雰囲気が。
お嬢様は、もう風化されかけている記憶の中のあの子に随分似ている気がした。
(いいや、違うね。 アイツはもっと粗暴な感じだ。 お嬢様みたいな礼儀正しい感じはしねぇよ。 おそれに嬢様みたく綺麗な声でもなかった筈だ、ただ単に思い出補正が掛かってるだけだ)
突拍子もない事を相談せずに始めるところとか。
周囲の目を気にせずお気に入りの相手を贔屓にするところとか。
我が強くて自分の考えを押し通そうとするところとか。
(違う、違う、違う)
いきなり意図の分からない謎の問いかけをするところとか。
重要な時には格式ばった感を出すけど割と色々抜けているところとか。
暇になるとすぐにお喋りしたがるところとか。
(違う、違う、違う)
なんだか、あの子みたいだった。
(違ぇよ)
(アイツは・・・・トワアはもういねぇんだ)
(例え万に一生きていたとしても・・・・きっと二度と会う事はねぇ)
(ちょっと似てるからって・・・・もう会えないアイツとお嬢様を重ね合わせて、情が湧いたりしねぇよ)
あの日。
里が燃えた日。
シレイから、クズルゴになるきっかけの日。
あの子との別れになった日。
妹が、家族が、友達が、仲間が、皆が、ゴーストとなった日。
クズルゴが逃げた日。
里を燃やしたのは、悲劇を起こしたのは、死を撒き散らしたのは、あの3人。
精霊の里の長にして、あの子の父親。
ベビィスライムの魔人にして、友達だと思っていた彼女。
自分と血の繋がりがある兄にして、家族だった男。
・・・・・皆を殺した、気狂い共。
その内の一人・・・・あの子の父を殺した、もう一つのあの日に。
全て、終わった話にしたのだ。
もう、終わりにしたのだ。
そこで、ピリオドを打ったのだ。
(だから全部終わってんだ。 もう終わって二度と会う事のない昔の女を、誰かと重ねて見たりはしねぇ)
本当に?
(本当に)
だとしたら。
(だとしたら?)
思考の片隅で、未だに逃げる事“以外”の事を考えているのは何故?
(・・・・・・)
今は逃げる事に専念するべきじゃないの?
なんで。
『契約って大事よね』
『好きな色は?』 『あら、随分素直に褒めるのね?』
『ワタシって、お喋りするのが好きみたいなのよ』
『ワタシは{精霊術師}で、アナタは{屍霊術師}でしょ?』
『里が外の者を招くだなんて、初めてじゃない?』 『えぇ、そうらしいわね』
『随分激しいわね、まるでシレイみたいだわ』 『スライムって可愛いわよね』
『えぇ、そうしてちょうだい。 ふふっ、やっぱりアナタだけとの会話はとてもいいものね』
『ねぇ、シレイ』
なんで、トワアの記憶を、終わった過去を思い起こしてるの?
(・・・・・・)
なんで?
(・・・・・・・・あ)
・・・・・『あ』?
(やっべ、忘れてた)
『契約って大事よね』・・・・・・[今回の依頼を受理して頂く当冒険者(以下「甲」という)と依頼書を配布したワタシ(以下「乙」という)との護衛依頼を締結する。 依頼内容は護衛であり、締結されたならば甲はどの様な手段を使っても必ず乙は道中の危険を全て排除し無傷で城下街まで帰還させる義務が発生する。 義務が達成されなかった場合はこの依頼書の効力により契約違反と見做されて深刻なペナルティが課される。 義務が達成されれば80万エヌを一括その場ですぐに払う。 それだけでなくある程度の簡単な願いがあれば叶える事も出来る。 その報酬の為にも甲は依頼を完遂させる事。 必ず、絶対に。 契約する場合のサインはこちら→【 】]
(そういえば〈契約〉しちまったんだった。 人間からなら逃げ回れると思ったけど、〔契約書〕の効力によるペナルティからは逃げられそうにもねぇな。 ヤッベェ、この事をど忘れしたまま逃げ帰るとこだった。 危ねぇ〜)
・・・・・・・・・
(仕方ねぇな。 ずっと時間が足りなくて逃げ切られるリスクばっか考えて、結局動けてない本末転倒な事になってたが・・・・別のリスクを取って探し始めるか。 この方法は使いたくなかったし、ハイリスクな割に確実性があるってワケでもねぇ・・・・けど、〔契約書〕のペナルティは絶対。 それは嫌だし、ちゃんと見つけねぇとな。 仕方ねぇ)
・・・・・・・随分と、まぁ、それっぽい口実を。
確かに契約書のペナルティは避けられないし、それを危惧するのも変ではないしむしろ合理的。
だが、それにしても些か取ってつけた感じが拭えてない。
お嬢様を探そうと思い直した本当の理由は何?
あの日逃げた罪悪感?
あの日の繰り返しを避ける為の義務感?
あの日の後悔? あの日への憧憬? あの日からの心傷?
全部、違う。
本当の本当に、『契約書のペナルティの存在を今思い出して、それが嫌だったから』という、自己保身に塗れたくだらない理由。
そういう事にした。
そういう事とした。
そういう事になった。
そういう事となった。
あの日は、彼の中で終わった事だから。
『そんな過去もあったなぁ』と、何の感慨もなく普通に話せてしまう程に。
終わった事だから。
終わってないと、いけない事だから。
だから、動く理由があの日ではいけないんだ。
あの日を理由にしてしまっては。
あの日が理由になったらば、それはあの日をまだ引き摺っている事になる。
そうしたらきっと、彼は潰れてしまうから。
だから、どうしようもなく、くだらない、しょうもない。
そんなハリボテの行動理由で。
お嬢様を助けに行く。
そう思ったきっかけは、間違いなく
きっと彼は、認めない。
だって、もう。
「さて、早速やるとするか・・・・・ん? 待てよ?」
それはもう。
「・・・・・オレ、今誰かと頭の中で会話してなかったか?」
くどいようだが。
「・・・・・・」
何度も言うが。
「気のせい、か」
終わった話、なんだから。 ・・・・・・・・
クズルゴは両手に二つの〔禍珠〕を持ち、お嬢様達を見つけ出す為に動き始めるのだった。
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