00.間者


 本部の空室、人が居ないことを確認し、人目を忍ぶように工作員スパイは電話をかけた。


「……順調です。ネズミは処分しました。ターゲットは確実にシナリオに沿っていると思われます」


 そうか、と答える電話の向こうの雇主は、きっと口元に笑みを浮かべているだろう。


 あの、と工作員スパイは抱えている疑問を打ち明けた。


「分かりません。ターゲットがそれほど利用価値のある者なのか。自分の目には処分する方が妥当に見えます」


 すると、雇主はクククと喉で笑った。


『そう見えるのは今の内だ。ターゲットは大物だと、俺は思うね。まぁお前がそう思うなら処分しても構わない……それが出来るなら、な』


 そう言い残して電話は切れた。

 奥歯に物が挟まったような言い方だ。

 だが挑発ではない。雇主はターゲットと自分を比べて前者に旗を揚げたのだ。


 そして工作員スパイの仕事は雇主からの依頼である。

 雇主が生かすというなら自分はそれに従うまでだ。


 例えそれが、どんな残酷な結末に繋がっていようとも——

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スナイプ・ハント 柚希ハル @yzk_hr482

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