陽一との決別、深矢の決意
店を出た深矢は携帯を取り出し、通話履歴の一番上の番号に電話をかけた。
「よう、由奈」
『あれ、なんかいい事あった?』
「分かるか?」
『うん。声が清々しいからね』
「……清々しい、か」
ポケットから、一枚の写真を取り出す。
圭との写真だ。
『あ、そうだ。今深矢の家にお邪魔してるんだけど、このビニール袋は何が入ってるの?なんか不自然。爆弾解体した部品……でもなさそうだし』
どうやら、勝手に不法進入を許してしまったらしい。
それを言ったところで「鍵なんて建前と一緒だよ」なんて返されることは目に見えているから言わないが。
——これが普通の世界に、深矢はいるのだ。
苦笑しながら、圭の遺品を不審物扱いする由奈に注意した。
「それ、捨てるなよ。大事なものなんだ」
帰ったら、圭の遺品を整理しよう。整理して、押入れの中にでもしまっておこう。
当分、田嶋陽一とはおさらばだ。沙保とも、もちろん松永とも。
これからは秋本深矢として生きていくのだ。田嶋陽一の記憶と付き合いながら。
深矢は目上に圭との写真を掲げた。
いつか。
深矢が強くなったその時は。
身の回りの大事なモノを守りきれるくらいに強くなったその時は。
圭の前で、本当の事を話そう。
「初めまして」と、本当の名前を名乗りに行こう。
お供え物に、どこかでくすねたお宝を持って。
それが出来る頃にはきっと、全ての問題が片付いているはずだ。
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