第2話 9月3日 3年2組

 うぇ―――――ん



 うるさい

 隣の1組がうるさすぎる

 ただでさえ夏休みが終わってしまって学校に行くのが憂鬱なのに



 うぅ、う、うぅっひっ、ぐぅ、



 9時07分 今日の1時間目は算数

 いつもなら先生の声だけが響いている静かな教室だが、今日はそれをかき消すように1組から絶え間なく泣き声が聞こえてくる。1時間目が始まったときからずーっと聞こえてくる。



げほっうぇ―――――んうぇ―――――ん



 しかもその泣き声は誰か1人が怒られて泣いているようなものじゃなくて、クラス皆で泣いていると思うくらい、いろんな人の泣き声が混ざっている。

 大声を上げて泣いている人もいれば、しゃっくりみたいな声も聞こえる。わ、なんか先生も泣いている?っぽい。



うわぁぁぁ――――――――――んゔぁ―――



 このような状況では集中できない。それは他のみんなも同じだった。



「めっちゃ泣いてない?」

「ずっと泣いてるよね」

「なんかすごいね」



 こそこそ言いながら、皆隣の教室のほうをちらちら気にしだしている。

 


「はい!黒板見て!集中だよ!」



 先生が私たちにそう声をかける。

その声を聴いて私たちは先生のほうに向きなおる。





ゔぁ――――――――――――――――んひっひっひっぐひっひっひぐごほごほゔ、ゔぉぇうぇ―――――んうぇ―――――んうぇ―――――んうぇ―――――んぅぐ、うぅ、う、うぅっひっ、ぐぅ、うわぁぁぁ――――――――――んうぇぇ――――んぇ――んぇ――んぇ―――――んうぁ―――、ふっふっ、うぅぅんっぐ、ひぐぅ、っずっず、んずっゔぁ―――――――――んゔぁ―――――――――ん、ぁあ゛、ぃやぁあ、やぁあ―――――ん、あ゛ぁ―――――、っごほ、げほっげほっ、




 うるさい、それ以上に気持ち悪い。

もう3年生なのに1組のみんなが生まれたての赤ちゃんくらい泣いている。

姿勢は先生のほうに向きなおったものの、隣から聞こえる泣き声に対してお互いに目配せをし、苦笑いをする。皆、同じことを考えているのだろう。




ゔぁ――――――――――――――――んひっひっひっぐひっひっひぐごほごほゔ、ゔぉぇうぇ―――――んうぇ―――――んうぇ―――――んうぇ―――――んぅぐ、うぅ、う、うぅっひっ、ぐぅ、うわぁぁぁ――――――――――んうぇぇ――――んぇ――んぇ――んぇ―――――んうぁ―――、ふっふっ、うぅぅんっぐ、ひぐぅ、っずっず、んずっゔぁ―――――――――んゔぁ―――――――――ん、ぁあ゛、ぃやぁあ、やぁあ―――――ん、あ゛ぁ―――――、っごほ、げほっげほっ、ひっひっうわぁぁぁ――――――――――んぇ――んぇ―――――ん



大きくなる泣き声に嫌気がさし、ふと教科書に目を落とす。

苦手な余りのある割り算。



うぅぅんっぐ、ひぐぅ、っずっず、んずっゔぁ―――――――――んゔぁ―――――ん、ぁあ゛、ぃやぁあ、やぁあ―――――ん、あ゛ぁ―――――、ゔぉぇうぇ―――んうぇ―――――んうぇ―――――んうぇ―――――んぅぐ、うぅ、う、うぅっひっ、ぐぅ、うわぁぁぁ――――――――――んうぇ―――――んうぇ―――――んぅぐ、うぅ、う、うぅっひっ、ぐぅ、うわぁぁぁ――――――――――んうぇぇ―――んぇ――んぇ――んぇ―――――んうぁ―――、ふっふっ、うぅぅんっぐ、ひぐぅ、っずっず、んずっゔぁ――――――――んゔぁ―――――――――ん、ぁあ゛、


今までは式だけだったけど、今日からは文章問題もやっていくらしい。

先生が黒板に問題文を書いていくため、同じようにノートに書き写していく。


ぅぐ、うぅ、う、うぅっひっ、ぐぅ、うわぁぁぁ――――――――――んうぇうぅ、う、うぅっひっ、ぐぅ、うわぁぁぁ――――――――――んうぇぇ――――んぇ――んぇ――んゔぁ――――――――――――――――んひっひっひっぐひっひっひぐごほごほげほっげほっ、ひっひっうわぁぁぁ――――――――――んぇ――んぇ―――――んぃやぁあ、やぁあ―――――ん、あ゛ぁ―――――、ぐ、うぅ、う、うぅっひっ、ぐぅ、うわぁぁぁ――――――――――んうぁ―――、ふっふっ、うぅぅ

先生が問題の説明をしようとしているがもう何も聞こえない。

すこし顔を赤くして、いつもより大きな口を開けているから、大きい声を出して話しているんだろうけど。

うわぁぁぁ――――――――――んうぇぇ――――んぇ――んぇ――んゔぁ――――――――――――――――んひっひっひっぐひっひっひぐごほごほげほっげほっ、ひっひっずっず、んずっゔぁ―――――――――んゔぁ―――――ん、ぁあ゛、ぃやぁあ、やぁあ―――――ん、あ゛ぁ―――――、ゔぉぇうぇ―――んうぇ―――――んうぇ―――――んうぇ―――――んぅぐ、

先生は少し息を吐くと教室の扉のほうに向かっていく。

げほっげほっ、ひっひっうわぁぁぁ――――――――――んぇ――んぇ―――――んあ゛ぁ―――――、ゔぉぇうぇ―――んうぇ―――――んうぇ―――――んうぇ――んぅぐ、うぅ、ううぅっひっ、ぐぅ、うわぁぁぁ――――――――――んゔぁ―――ん、ぁあ゛、ぃやぁあ、やぁあ―――――ん、



 先生は、困ったような怒ったような顔で私たちに『ちょっと行ってくる』とジェスチャーをすると、扉を開いた。










 ?



 その瞬間、扉を開けた瞬間、声は止んだ。

泣き声だけではない。むせた声、鼻をすする音、酸欠のような呼吸音。

すべてが元々なかったかのように止み、教室の中は静まり返る。



 私は友達と顔を見合わせる。友人は困惑しているようなひきつった表情をしていた。その表情を見る私もおそらく同じような顔をしているだろう。

 次第に教室がざわつき始めたが、それらの声はどれも戸惑いを含んでいた。



 私たちが困惑している中、先生は1組のほうに駆けていき、そのあとに続くように3組4組の先生たちも1組の教室に走っていくのが見えた。




 

 しかし、教室に戻ってきた先生は一言


 「誰もいなかった」と呆然とした表情で伝えると、


 その日は給食を食べた後、午後の授業が中止となり集団下校となった。


 


 それから1組のみんなのことを1度も見ていない。



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かみさま係 苦悶 @kumo_no_ito

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