見たかったもの
ゆりゆり
短編
「皆さん。目を閉じてください。あなたのみたい景色を見せて差し上げましょう。」
日本全国で、おなじタイミングでこの放送が流れた。
いきなり流れてきた意味の分からない放送で周りの人々は混乱しているようだが、
私は目を閉じた。
なぜって、見たい景色見せてくれるっていうんだから。
目を閉じるだけでそんなことをしてくれるんだったら、こんなラッキーなことはないじゃないか、と思ったから。
私が見たいのは、そうだなぁ、こちらにデメリットはないと思ったけど、私には見たい景色なんてなかったなぁ。
私には親がいない。唯一の家族だった犬のフィルも数年前亡くなった。
ただ起きて、食べて、働いて、寝て、また起きる。
そんなつまらない生活をフィルがいなくなったから続けてきた。
私が見たい景色とはなんだろう。
と、考えているとまた放送が流れてきた。
私はすっかり目を開けてしまっていた。
「皆さん目を閉じましたか?それでは見たい景色を考えてみてください。」
「では、あなた方にあなた方の見たい景色を。」
私の隣にいた男性は泣いていた。きっと感動の再会、をしたのだろう。
でも、彼はどこかへ歩いていった。見る限り彼の意思ではなさそうだった。
興味本位で彼について行った。彼は導かれるように海へ飛び込んだ。
他にも自ら海へ飛び込む者がいた。私には彼らがなぜそんなことをするのかが理解できなかった。
また人が来た。女性だ。
彼女は「お母さんっ!お母さんっ!」
こちらもまた感動の再会、といつやつだろう。
また、「ありがとう、天使様。」と言っていた。
彼女もまた、自ら海へ飛び込んだ。
天使が見えるの?
天使と喋れるの?
全然気にしてなかったけど、もしかしたらかしたら死んだ人会えるの?
じゃ、じゃあフィルにも、会えるの?
あ、じゃあ!
私は目を閉じた。
天使様、私をまたフィルに会わせてください。
「フィ、フィル...?」
「ワンッ!!!」
フィルが走ってきている。
「フィ、フィル...」
また会えた......!!
私もフィルの方に走っていく。
「あぁ、幸せだなぁ。」
そのあとの記憶は私はないが、私は元の世界に戻ることはなかった。
見たかったもの ゆりゆり @yuriyuru
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