第5話

 「嘘じゃん!」

 「噓な訳ないじゃん。」

 裕子に、私はいつもすべてを話していた。幼い頃からずっと一緒に暮らしてきた友達は、私の妹だった。

 母親が裕子の父親と再婚したのは、私達が小学3年生の頃だった。

 裕子は、すごく地味であまり目立たない女の子だった。けど、私達は血がつながっていないけれど、姉妹ではなく、親友として関係を築いた。

 ほとんど同い年(私の方が一か月誕生日が早い)というだけでいきなり、姉妹にはなれなかった。けど、毎日一緒にいなくていけないし、そうやって築いたのがこの関係だった。

 「何、りほちゃん浮気されたの?」

 「されてない、馬鹿じゃない。」

 私は憤っていた。裕子は、何も知らなかった。けど、私はいつもそうやって、裕子のことを心のどこかで見下していた。

 「はあ…。」

 夫の、元夫の利久が私のことが好きではないということは、最初から分かっていた。が、好意、に似たような感情は持っているはずだと思っていたし、私もその程度の感情でしかなかったから、特に考えることもなかった。

 私は、男が嫌いだった。けど、この頃友達が結婚して、私との関係を断っていくのだ。結婚した人は、結婚していない人とは遊ばない、というような、そういう暗黙のルールがあって、でも私は女の子と一緒に遊んでいたかったし、男と一緒にいるのなんて、まっぴらだった。

 「ごめん、言い方悪かったよ。そうじゃなくて、私そういうの分かんないから、ごめん。」

 「うんいいよ。」

 裕子はいつも悪気がない、だから憎めない。けれど、だからこそ私以外にあまり、人間関係をうまく築けていないのだろうと、分かっていた。

 けど、どんどん、私はずっと出たかった実家に体ごと飲み込まれていく感覚を覚えている。

 外に、行くところがないから、ずっと飲み込まれていく。

 嫌だ、やめて。

 そう言っているのに声は届かない、ち、どうしろっていうのよ、私は悪態をつきながら声を荒げた。

 その隣で、裕子はいつも通り不安そうな顔で私を見上げていた。

 

 「マジかよ。」

 「本当、アホだろ?」

 「いい加減にしろよ。」

 ドアが強く締められる。タケはすぐに、そこからいなくなった。

 俺と早苗は二人きりになっていた。

 しかし、怖くなどない。

 早苗が、俺に好意を抱いているのは知っていた。けど、好意、というものは確かにあって、だからこそありがたく享受して利用するものだと思っていた。

 その頃の俺は、何も知らなかった。

 だから、早苗を、俺のことが好きだといった早苗を、傷つけた。

 俺は、ただ前を見据えている。

 もう、解決することなどできないのだろうなあ、とどこかぼんやりとした頭で、隣りに座る早苗が、震えているのを見ていた。

 

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穢れないってさ @rabbit090

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