第122話 25階層、宝箱


 階段を下りた先の25階層は相も変らぬ洞窟型ダンジョンだった。

 ただ、今までは坑道内に石ころは落ちていなかったが、ここでは坑道の路面に転がった大小の石ころが目立った。


 取りあえずディテクター×2を発動してモンスターの様子を確かめたところこの階層も濃い。

 今回はゲートキーパーに直行するつもりなので、進路上で出会ったモンスターはたおすが他のモンスターは無視だ。


「フィオナ、頼む」

 ゲートキーパー探知機を作動させた俺は、探知機の指し示す方向に進んでいく。


 フィオナの先導で坑道を進んでいき最初に出会ったのは、大きな鹿だった。

 体に不釣り合いなほど巨大な角を生やしている。

 角と言ったが、尖った角ではなく何だか手のひらから指が伸びたような形の角だ。

 そうだ!

 こいつはヘラジカだ。

 そいつが3匹ほどいて坑道を通せんぼしている。


 面倒なので、初めて使うことになるアイスニードルを撃ち込んでみた。

 インバースアイシクルが簡単に発現できた以上、難易度が格段に下がるアイスニードルは当然のごとくうまく発現して、3匹のヘラジカの眉間に風穴があいた。

 アイスニードルはヘラジカの頭部を貫通してそのまま飛んで行き3匹のヘラジカはその場にドーっと倒れた。


 アイスニードルはアイスといっても想像以上に硬いようだし、ファイヤーアローには及ばないものの飛翔速度も半端なく速かった。

 アイスニードルは直進するだけなので理論的にはかわせるはずだが、視覚ないし聴覚でとらえてその電気信号が脳に届く前に氷の針が命中してしまう気がする。

 タマちゃんに処理してもらう前にヘラジカの額に空いた穴の空き具合を見たところ、アイスニードルはニードルというには太くて、穴から類推すると3センチくらいの直径があったようだ。


 ヘラジカの角は何かの役に立ちそうだったが、そんなものをリュックから取り出す訳にもいかないので、タマちゃんに全部**処理してもらって、先に進んだ。



 坑道をフィオナの誘導に従って進んでいき、曲がり角を抜けたらその先に俺の肩くらいの背丈のサルが20匹ばかりいた。

 そいつらが坑道の路面には転がっている石を拾って一斉に俺に投げつけてきた。

 初めてのマトモな遠距離攻撃だ。しかも石は俺の周囲にランダムに落下してくるので範囲攻撃でもある。

 フィオナはすぐに俺の肩からリュックの後ろのポケットに逃げ込んだ。


 サルが投げつけてくる石の大きさはこぶしの半分くらい。

 俺自身は防刃ジャケットを着ているしフルフェイスのヘルメットも被っているので、ある程度の衝撃を受けてもダメージは全くないのだが、ヘルメットに傷が付きそうだし地味に嫌な攻撃だ。かなり鬱陶しい。


 そうだ!

 ここは防御魔術、飛び道具を無効化する魔術だ!

 無効化させるということは飛んでくる物を失速させるのか、壁のようなものを作るのか?

 失速させるのはイメージが全然わかない。

 やはり壁だな。

 壁となると、空気の壁、水の壁、氷の壁、火の壁が考えられるが、空気の壁が物を弾くイメージが全然わかない。

 火の壁は相手が燃える物なら多少有効かもしれないが、飛んでくる物が可燃物であっても壁を抜ける間にそう簡単に火が点くとは思えないし、まして燃え尽きることなどないだろう。


 水の壁は効果がありそうだが、それくらいなら氷の壁の方が効果がありそうだ。

 さっきインバースアイシクルができた以上氷の壁、アイスウォールは簡単にできそうだ。

 10センチも氷に厚さがあれば石つぶてで壊れることはないだろう。


 考えはまとまった。

 俺が思案しているあいだにも何発もイシツブテを食らっている。

 これでどうだ。


 アイスウォール!


 俺の目の前に厚さ10センチ、高さ2メートル、幅1.5メートルの氷の壁ができた。

 透明度が非常に高いので向こうが良く見える。

 イシツブテがぶつかってもはじき返すが、少しずつ傷がついてきた。

 それでも壊れる気配は全然ない。


 アイスウォールの実験はこれくらいでいいな。


 次は雷系の魔術だ。

 現代人の俺からすると電気系と言ってもいいだろう。

 こいつは俺の周囲にある電子を集めて右手から目標に撃ち出すイメージで何とかなるような気がした。

 いくぞ、サンダー。


 氷のシールドから1歩ズレて右手を突き出した俺は、ありったけの電子を猿の一群に向かって放つイメージでサンダーと唱えた。

 ヘルメットの中で俺の髪の毛が逆立っている?


 ドッガーン!


 紫電が猿の一群を襲い同時に雷が至近に落ちたような轟音が坑道内に響き渡った。

 サンダーの一撃で猿は全滅したようで猿の気配は一切なくなってしまった。

 フルフェイスのヘルメットを被っていてもまだ耳が痛い。

 使いどころが難しい。


 近い方から黒焦げになり遠ざかるにつれて生焼きになった猿をタマちゃんに処理してもらっていたら、フィオナがリュックのポケットから出て俺の右肩に止まった。


 それではゲートキーパー目指してどんどん行こう!


 猿の一群から10分ほど進んだところ、またモンスターの気配がし始めた。


 そして現れたのはいつものオオカミだった。

 ただ一匹一匹がかなり大きい。


 力強さや素早さ、打たれ強さなんかも上がっていたのかもしれなかったが、気付けばウィンドカッターで切り刻んでいた。


 タマちゃんが片付けているあいだにディテクター×2を発動したところ、ゲートキーパーらしき反応があった。

 どういったゲートキーパーなのかはディテクターでは分からないが、何であろうと24階層のゲートキーパーから格段に強化されているわけではないだろうから、どうってことないだろう。


 そのまま進んでいき大きくカーブした坑道を抜けた先に、ゲートキーパーがいた。


 今回のゲートキーパーはゴリラ?

 背丈は3メートルはある。

 さらに腕が4本あった。

 取りあえず写真を取ろうとゴリラに50メートルくらいまで近づいていったら、ソフトボールくらいの丸石を長い猿臂を使って投げつけてきた。

 上の2本の腕はオーバースロー、下の2本の腕はサイドスロー。

 どれも上半身を使うことなく腕だけで投げてくるのだがオーバースローの丸石は低伸してこっちに向かってくるし、サイドスローの丸石は横に曲がりながら向かってくる。

 フィオナはすぐにリュックに隠れ、俺もなんとかかわしたのだが、どの丸石も当たっていれば俺でもそれなりのダメージ入るのではないかと思えるほど高速だった。


 ゴリラが一度に4発石を投げ終わるとその都度石を拾うため少し時間がある。

 そのすきにアイスウォールだ。


 アイスウォール!


 俺はアイスウォールを発現させた。

 10センチ厚では簡単に壊れそうだったので今回は30センチくらい分厚い氷の壁だ。

 壁ができ上ったと思ったとたんに、丸石が命中していた。


 ババーン!


 丸石を2発喰らったところで30センチあった氷の壁が割れてしまった。

 壁を抜けてきた2発をギリギリでかわして今度は50センチ厚の氷の壁を作った。


 ババババーン!


 今回は氷の壁が割れなかったが、丸石が当たった4カ所はそれぞれ大きく抉れてしまった。

 同じ場所を直撃すればもたないかもしれないが、あと4発はしのげそうだったので、俺は壁の右側からスマホをのぞかせてゴリラを撮影した。


 パシャリ。


 ババババーン!


 氷の壁は割れてしまった。

 ゴリラは4本の手で石を拾っている。

 ファイヤーアロー!


 白い光の線が下を向いていたゴリラの頭頂部に命中し、後ろの方に突き抜けていった。

 ゴリラはそのまま前屈みになって路面に倒れた。

 ゲートキーパー撃破の正味時間は1秒程度だが、どうも写真撮影で時間を取ってしまう。


 俺はゴリラとの写真を撮ろうとゴリラの伸びている場所まで行った。

 もちろんその先には階段があったのだが、その手前になんと小箱が置いてあるではないか!

 しかも見た目は金色!

 金の宝箱だよ! 金の!


 宝箱は、奥行き×横幅×高さはだいたい15センチ×25センチ×15センチ。


 宝が入っていなければ宝箱じゃないけど、箱には立派な装飾もされているし箱だけでも高価そうだ。

 今までダンジョンでアイテムが見つかったという情報はあったが、宝箱が見つかったという情報はなかったので俺はゲートキーパーを撮影する前に宝箱を写真に撮った。


 

 写真を撮った後、ゲートキーパーゴリラのことはすっかり忘れて宝箱をひっくり返したりしてじっくり調べてみたのだがカギ穴はおろか、どこにも隙間がない。

 その代り中になにか小さなものが入っているようでカラコロと音がするのも事実。

 何とか箱を開けたいのだが隙間がない以上どこに蓋があるのかさえ分からない。

 これどうすればいいの?

 もしかして、これは箱ではなく飾り物?

 確かに見事な装飾もあるし。


 振れば中から音がするのは何かのおまじないなんだろうか?

 そんなはずはない!


 ひょっとして、この箱を開けるには『開けゴマ』的な呪文が必要なのだろうか?

 しかし、このダンジョンが日本語を理解しているとはとても思えないし、俺だってダンジョン語なんて知るわけはない。


 日本語や英語の呪文で開く可能性はゼロだな。

 となると最後は物理しかない。

 俺は中身が傷つかないように一度宝箱を斜めにして中身を片側にずらしてからそっと路面に置き、もう片方の面を叩き切ってやろうとクロを引き抜いた。


 そしたら金色の偽足が俺の左肩をチョンチョンと叩いた。


「タマちゃん、どうした?」

 察するにタマちゃんが宝箱をどうにかするということだろう。

「タマちゃん、この箱の中の物を外に出せるのか?」


 タマちゃんの偽足がそれっぽく縦に動いた。

「じゃあ、タマちゃんに任せる」



[あとがき]

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