第121話 24階層ゲートキーパー
月曜。
今日はうちの高校の合格発表の日だった。
受験生とその保護者と思われる大人が朝10時からの発表を前にたくさん校庭に集まってきていた。
俺の時はどうだったっけなー?
学校から帰ってスマホを見たらダンジョン管理庁の河村さんから昨日のメールの返信があった。
内容は『ゲートキーパー撃破、新階層への進出についてはご配慮は無用です。ゲートキーパー撃破時の情報など頂ければ幸いです』というものだった。
これで俺は自由だ!
しかし、ゲートキーパー撃破時の情報というとなんだ?
撃破前と撃破後のゲートキーパーをスマホで写しておけばいいか?
撃破した後、ゲートキーパーの単体写真とゲートキーパーの隣りに俺が立ってる写真があれば文句ないだろう。
タマちゃんならスマホのタップくらい余裕だろうから俺の代わりに写真は撮れるだろうしな。
ちょっと試してみよ。
スマホを持ってカメラレンズと画面をタマちゃんに簡単に説明したあと、
「タマちゃん。
カメラレンズを俺の方に向けたら画面に俺が映るから、画面のここの丸いところを偽足で軽く押してくれ」
スマホをタマちゃんに渡して、タマちゃんの前に立ち、
「俺がちゃんと画面に映ったらさっき言った丸いところを押してくれ」
そう言ったら、3秒ほどでフラッシュが光りシャッター音がした。
スマホを渡してもらって画面を見たらピンボケもせずちゃんと映っていた。
これなら大丈夫。
ゲートキーパーが大きすぎると遠くから写さないといけなくなるからフラッシュは効かないかもしれないけれど、デジタルだから何とかなるだろ。
金曜日。うちに帰ったら俺の名まえで銀行から手紙が来ていた。
何だろうと思って中身を見たら資産運用、投資信託、投資セミナー、そして相続相談のパンフレットだった。
最後の相続相談は一体何なんだ? 確かに俺が何かの加減で死んでしまえば俺の資産は父さん母さんが相続するわけで、何か相続対策してないと相続税が沢山取られるから今から準備しろと言うことなのか?
全部ゴミ箱いきだ。この前50億円振り込んだのが悪かったか?
しかし他人の預金残高を見て商売するなよな!
週末は土日休日だ。早くコイコイ2連休。
やってきました土日連休初日の土曜日。
スマホの電池は十分。
今日は楽しいゲートキーパー退治だ。
24階層のゲートキーパーは予想では女王アリ。
その周りを兵隊アリがガードしていると見た。
さーてどうかな?
時刻は7時5分。
俺は専用個室経由で24階層に立った。
場所は23階層に続く階段のある空洞。
そこでディテクター×2を発動して周囲の確認をし、ゲートキーパー探知機のフィオナを作動させた。
俺はタマちゃんがリュックからにゅるりと出した偽足から出してくれたサンドイッチを片手で食べながら、探知機の指し示す方向に歩いていく。
何回かわき道にそれて50分。
途中で数回モンスターに遭っているが、ロスタイムはほとんどない。
ディテクター×2を発動したところ、探知範囲にそれっぽい反応があった。
要は点ではなく面になった反応だ。
また255匹ぞろぞろ出てくるのかは分からないがそれなりの数のモンスターがまとまっている証拠だ。
今までスポーツバッグを片手に舐めプしていたが、さすがにゲートキーパー戦なのでいくらか核を入れたままタマちゃんに収納しもらった。
タマちゃんにこれから先スポーツバッグを収納したままその中に核をしまえるか聞いたところ、偽足をそれらしく縦に振った。
タマちゃんに任せておけば何とかなるだろう。
ゲートキーパー探知機の方向指示に従って坑道の枝道に入ったらまっすぐ続く坑道で、その先にターゲットが見えた。
黒山のアリだかりだ。
女王アリがいるのかどうかは分からないが、まずはもう少し近づいてスマホで撮影だ。
俺はわざとキャップランプの光を落としていなかったので、アリたちは俺に気づいているはずだが、ゲートキーパーらしくその場にとどまって俺に向かってはこなかった。
正確に彼らの一線は分からないが、適当に近づいていってスマホで数枚写真を撮った。
そこにいた黒アリは今までのアリと比べ二回りは大きく体長は1メートルはゆうにある。
そして顎が発達しており噛めばバットくらいかみ砕きそうだ。
もちろん冒険者の四肢など簡単に噛みちぎってしまうだろう。
もう少し近づけばアリの大写しも撮れそうだったが、俺はカメラマンでもないし、そこまでサービスしても仕方がないと思い、スマホを防刃ジャケットの内ポケットの中にしまった。
クロを背中から引き抜いて突っ込んでいこうとしたところで俺はいいことを思いついた。
せっかくターゲットが山のようにいるし、そのターゲットが俺を見ても襲ってこないので、魔術の練習台に成ってもらうことにした。
具体的には、俺が向うの世界にいた時できなかった氷系統の魔術と雷系統の魔術だ。
フィオナによって強化された俺に不可能は当然あると思うがいろんな意味でハードルは下がっているはず。
氷魔法。
アイスニードルとかアイスランスとか飛び道具系もいいが、そういったちまちました攻撃ではなく範囲攻撃、インバースアイシクル、別名
試すも何も、やったことのない魔術だし、最初は簡単なアイスニードルでもよかったんだけど、試行錯誤してればいずれ発現できるだろうという甘い見込みだ。
範囲は前方の黒山。
つららの長さは3メートルもあれば十分だろう。
インバースアイシクルの発現した姿を脳裏に描き、行くぞ!
インバースアイシクル!
声には出さなかったが、手ごたえのようなものを感じた。
そして、前方の坑道が俺のキャップランプの光を受けてキラキラ輝く
黒山のアリだかりは、逆さつららに隠れて見えなくなり同時に今まで感じていたモンスターの気配が消えてしまった。
インバースアイシクルが一度の試みで成功したことも驚きだが、その一度でアリが全滅してしまったことも驚きだ。
目の前のキラキラのつららは簡単に融けそうもない。
ファイヤーボールを2、3発撃ち込めばつららも砕け散って融けてしまうのだろうがちょっともったいない。
魔術の発現そのもののこの状況を写真にとっていいものか少しだけ迷ったが今さらか。
俺は逆さつららの近くまで歩いていき、リュックを路面に置いてタマちゃんを呼び出した。
そこでスマホを防刃ジャケットのポケットから取り出してリュックから這い出したタマちゃんに撮影を頼んだ。
「タマちゃん、俺が『よし』と言ったらスマホで写真を撮ってくれ」
偽足が縦に揺れたタマちゃんの偽足にスマホを渡し俺は逆さつららが背景になるよう少し左によってガッツポーズをとった。
ガッツポーズするほどの戦いではなかったが、ピースサインはもっと似合わなそうだったので、ほかのポーズも思いつかなかったことだしガッツポーズとした。
「よし」
フラッシュが光り、シャッター音がした。
「タマちゃん、もう1枚」
さっきは真面目な顔をしていたので、今回はニッコリ笑ってガッツポーズだ。
「よし」
フラッシュが光り、シャッター音がした。
タマちゃんのところに戻ってスマホを渡してもらい写真の出来を見たところよく写っていた。
ただ、フィオナがなぜか俺の真似をして肩の上でガッツポーズをしていた。
まあ、いいだろ。
後片付けはタマちゃんだ。
一気に片付けてしまうと女王アリがほんとにいたのかどうかわからなくなるからな。
「タマちゃん、手前から順に逆さつららとアリの死骸を片付けてくれ。アリの核はスポーツバックの中に頼む。
大きなアリが居たらそいつはつららだけ処理して残しておいてくれ」
タマちゃんの偽足が縦にふれ、次にタマちゃんの体から10本ほどの偽足がつららに向かって伸びていった。
どんどん逆さつららと、逆さつららに貫かれて死んだ黒アリがタマちゃんによって処理されて行く。
そして、下り階段と、俺の予想通り体長6メートルはありそうな巨大アリが現れた。
頭と胸の色は黒っぽい茶色で、腹の部分が明るい茶色だった。
どう見ても女王アリだ。
周囲の逆さつららも黒アリも片付いて、巨大アリを貫いていた逆さつららもなくなっている。
巨大アリの体には逆さつららが開けた穴がいたるところに空いていて、穴が空いていなければ大きく膨らんでいた感じの太い腹から茶色の体液がどろりと漏れ出ていた。
こいつも写真にとっていた方がいいな。
ジャケットのポケットからスマホを取り出して、2、3枚。
その後、タマちゃんにスマホを渡して、俺入りで2、3枚。
これでいいな。
タマちゃんから返してもらったスマホをしまって、タマちゃんに巨大アリを処理してもらった。
「最後のアリの核を見せてくれるか?」
タマちゃんが手渡してくれた核は23階層のゲートキーパーの核と同じくらいの大きさだった。
時計を見たら時刻は8時15分。
次行くぞ!
タマちゃんがリュックに入ったところでリュックを背負い直し、俺は25階層につづく階段を駆け下りた。
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