第123話 26階層


 手に入れた宝箱の開け方が全く分からないので最後の手段とばかりクロで宝箱の片面を切断しようとしていたら、タマちゃんが宝箱から中身を取り出せると言ってはいないが、そぶりで言っていたので、タマちゃんに任せることにした。

「じゃあ、タマちゃんに任せる」


 タマちゃんは偽足を伸ばしてあれよあれよという間に俺が手に持っていた宝箱を吸収してしまった。

 そして5秒ほどして俺の目の前にタマちゃんの偽足が伸びてきて、その中から金色の指輪が浮き上がってきた。

 指輪を受け取ったら次に宝箱が湧いてきた。

 宝箱はどこにも穴など開いていなかったが、振ってみたところ何も音がしなかった。

 宝箱の中には指輪がひとつだけ入っていたようだ。

 何をどうして閉じた空間から中身を取り出したのかは俺にはさっぱりわからなかったが、今さら深く考えても仕方ない。タマちゃんだからで十分だろう。


 さて、この指輪。

 どうしたものか?

 説明書が付いていないのでこの指輪が何の指輪か全く分からない。

 試しにはめてみて取り返しのつかないような呪いがかかっていたら嫌だしな。


 ゲートキーパーゴリラを放っておいたままなので、取りあえずこの指輪は防刃ジャケットのポケットの中にしまっておくとしよう。


 写真を撮ろうとゴリラの近くまで戻ってきたのだが、ゴリラのポーズがどうも気に食わない。

 この巨大ゴリラ、うつ伏せになって伸びているのだが、尻だけ上に突き出ている。

 俺は何とかゴリラを座らせようとしたのだが、ゴリラは胴体だけでも2メートル近くあるうえ、取っ手が付いているわけでもないのでつかみどころがない。


 座らせることは諦めてゴリラの手を取って横にひっくり返して仰向けに寝かせてやった。


 ひっくり返ったゴリラは白目をむいて空洞の天井を見ている。

 絵面えづら的には納得できなかったが、ここでこだわっても仕方がないので数枚写真を撮った後、タマちゃんにスマホを渡して俺が構図に入った写真を2、3枚撮ってもらった。


 時計を見たら9時10分。


 まだまだいける!


 目の前に開いた階段を駆け下りていき26階層に到着した。

 おー。

 階段を下りた先は今までの洞窟型のダンジョンとはまったく趣の異なる石組の正方形の部屋、石室だった。

 部屋はかなり広くて20メートル四方くらいあり天井も5メートルはある。


 ここでは天井が発光しているようで、今までの洞窟ダンジョン内と比べものにならないくらい明るい。

 キャップランプは不要なので消しておいた。


 俺の下りてきた階段の出口の空いた壁には階段しかなかったが、残りの3方向の壁にはそれぞれ真ん中に両開きの扉がついていた。

 扉全体の大きさは3メートル×3メートルくらいあってかなり大きい。

 扉の材質は木に見える。

 雰囲気でてきたぞ!


 まずはディテクター×2。

 あれ?

 部屋の中しか探知できない。

 これは想定外だが、仕方ない。


 いままで洞窟ダンジョン内だったせいか完全に失念していたが、ダンジョンって罠があってもおかしくないよな。特にこういう人造的に見えるダンジョンには罠がある可能性が高いんじゃないか?

 床はもちろん、扉にも罠が。

 さっきの宝箱だって何も考えずに持ち上げたけれど、かなり不用心だった。


 今のところ、罠にかかっていないので結果オーライ。

 これからは気を付けていけばいい。

 気を付ければいいと言ったものの残念ながら、罠を見つける手段なんて俺にはない。


 どうすればいいんだ?


 ディテクターが進化して罠を検知できれば万々歳なのだが、そうそう都合よく魔術がレベルアップするわけないし。


 出たとこ勝負しかないな。

 それではフィオナ探知機始動!


 フィオナが俺の右肩から飛びあがって、左手の方に向かった。

 俺が扉の前に立ったらフィオナは俺の右肩に座り直した。

 この扉が正解方向ということは確か。

 扉に罠があるかどうかは分からないが、いきなり致死性の罠はないだろう。


 両開きの扉の片側を手で押したら、扉が開いたほか何も起こらなかった。

 セーフ。


 扉の先も最初の部屋と同じ作りで同じ広さの空っぽの石室で俺が手をかけている扉を含めて4つの壁の真ん中に扉が付いていた。

 一歩中に入って扉から手を放したら扉が勝手に閉まってしまった。

 閉じ込められたのかと思って扉に手を当てたら簡単に動くようで、向う側に押したら元の部屋に向かって扉が開いた。


 転移がある以上何も問題ないのだがちょっとだけ驚いてしまった。


 次にフィオナが示した扉を開けたところ、また4方向に扉の付いた同じ作りの部屋だった。

 もしかして、この階層はこの形の部屋だらけなのだろうか?


 次の部屋の扉の先には何の気配もなかったので何気なく扉を開けたら、部屋の真ん中に骸骨が立っていた。

 ちょっとだけドキっとした。

 

 いわゆるスケルトンなのだろうがどう見ても人の骸骨ではなくて、頭の形状といい、しっぽがあるところといい直立した爬虫類の骸骨だ。

 ただ手は人間のように発達していて丸盾と幅広の剣を装備していた。


 スケルトンは向こうの世界では広義の魔術のようなもので操られていたが、操る者***がこの部屋の中にいるとは思えないので、目の前のスケルトンは自律したモンスターなのだろう。


 余裕をかましてスケルトンを観察していたらいきなり爬虫類スケルトンがカシャカシャ音を立てて迫ってきた。

 筋肉がないくせに結構動きがいい。


 俺は背中のクロを引き抜き、爬虫類スケルトンに切りかかった。

 仕留めたかと思ったが、丸盾に防がれた。

 反応も大したものだったし、盾もただの木製の丸盾に見えたがそうとう頑丈な丸盾だったようだ。

 ただ、丸盾は丈夫だったのだが、爬虫類スケルトンの手首はそれほどでもなかったようで、俺のクロを丸盾で受け止めた衝撃に耐えきれずにグシャリと潰れて、盾ごと床に転がった。


 爬虫類スケルトンが苦痛を感じるのかどうかわからないが、片方の手首から先を失ってもひるむ様子もなく爬虫類スケルトンは手にした剣を突き出してきた。

 悪くない突きだったが、俺から見れば遅い! の一言。

 盾を切りつけたクロを横に払ってそのまま首の骨を切断したことで、爬虫類スケルトンは突きの姿勢のまま泳いでいき、床に突っ伏して体ごと砕けてしまった。


 残ったのは骨の残骸と剣と丸盾。

 実際は最初からあった気もしないではないが、いつの間にか部屋の真ん中に小箱が現れていた。

 今度の小箱は前回の小箱と同じ大きさ同じ形だったが金色ではなく銀色で装飾は施されていたが、あれほど立派ではなかった。


 今回は不用意に小箱を持たず最初からタマちゃんに頼ることにした。

「タマちゃん、お願いします」


 やはり小箱は空ではなかったようで、タマちゃんが長四角で薄く、表面が黒くてツルツルの板を1枚渡してくれた。


 見た感じはスマホだ。

 これは、指輪以上に難解だ。

 ツルツルの表面を見ても突起物やスイッチに当たるようなものは何もない。

 適当に触って表面を押してみたが、もちろん何も起こらなかった。

 どうすりゃいいんだ!?


 仕方ないので、これも防刃ジャケットのポケットの中に入れておき、床に転がっていた爬虫類スケルトンの剣と丸盾はタマちゃんに収納してもらった。

 核が落ちてないか探したところ、割れた頭蓋骨の中にあった。

 核には汁物**が付着していなかったので何気にうれしい。


 そこからフィオナ探知機に従って移動していったんだが、行けども行けども20メートル四方の部屋だった。


 1時間ほど進んで、その間に6回爬虫類スケルトンに出くわし、そのたびに黒い板を手に入れた。

 その間幸いにも罠の類には遭遇しなかった。

 1時間も適当に移動して罠に遭わなかった以上、この階層には罠が無いと思って良さそうだ。



 フィオナ探知機があるからゲートキーパーに向けて進んでいるのだろうけど、俺自身自分の居場所は全く分からなくなっている。

 帰りはいずれにせよ転移で一瞬だから現在位置はあまり意味はない。

 ただ、ある程度現在位置が分かっていないと、この階層みたいに全く同じ部屋の並んだ階層だと、転移先の特定ができないので転移でその場所に跳んでいくことができないはずだ。


 さらに1時間。

 罠の類には遭遇せず。

 その間7枚の黒い板を手に入れた。

 黒い板は全部で14枚。

 数が多くなったので、結局全部タマちゃんに預けておいた。



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