第218話 到着


 ☆★☆★☆★



 「大司教様。ご報告が」


 「なんだ?」


 ディエル領の大聖堂。そこの執務室で珍しく仕事をしていた大司教は部下が持って来た書類に眉を顰める。


 まもなく『スティグマ』がやってくるという事で、その後の予定や段取りを色々調整しておかなければならなかったのだ。お陰で最近はまともに女を抱けていない。大司教の性欲とストレスは溜まるばかりであった。


 それなのに、追加の書類。大司教が更に機嫌が悪くなってしまうのも仕方ない。


 「それはわしが処理しないといけない案件か?」


 「はい。書類の内容を簡単に申し上げますと、スラムにある『久遠』がなくなりました」


 「『久遠』…? ああ…。他大陸のゴロツキ共か。確か、女や実験素体の確保をさせていたはずだな」


 「はい。昨日新興組織である『クトゥルフ』と激突。数時間で決着がついたようです。ほぼ皆殺しだったとか」


 「ほう?」


 「いかがされますか? あそこは教会と繋がる証拠もありますが…」


 「構わん。手駒が居なくなったのは確かに痛いが、所詮はスラムのゴロツキ共よ。その『クトゥルフ』とやらも同じく。公にされたところで、スラムの人間の言う事なぞ誰も信じん」


 大司教は所詮スラムのよくある争いだと、報告を気にしなかった。新たに女や実験素体を確保する手駒を用意する必要はあるが、教会と繋がる証拠は、スラムのゴロツキではどうしようもないだろうと思っていたのだ。


 「しかし『クトゥルフ』がその情報を餌に強請ってくる可能性がありますが…」


 「それならそれで、その『クトゥルフ』をこちらに引き込み手駒にすれば良かろう。どうせ奴らが欲しいのは金だ。報酬さえ用意すれば『久遠』と同じように働くであろう。むしろ『久遠』より優秀な手駒を入手出来るチャンスではないか」


 「それはそうですが…」


 「なに、じきに『スティグマ』がやって来る。手に余るようなら始末してしまえば良い」


 「分かりました…」


 報告者の大司教の部下は、少し楽観的なのではと思わなくもなかったが『スティグマ』なら、どんな相手でも始末出来るだろうと、そこで納得してしまった。



 そして報告から二週間後。

 ついに『スティグマ』がディエル領にやって来た。



 ☆★☆★☆★



 「なんじゃありゃ」


 「鑑定結果はどうだったの?」


 「文字化けしてる。分かったのは、名前とレベルだけだ。職業すら見れん」


 俺とアンジーは、クロエから教会のお偉いさんがやって来ると聞いて、数日前から門の近くで隠れながら待機していた。


 まあ、お偉いさんってのは『スティグマ』なんだけど。恐らくぶつかる事になるだろうから、まずは鑑定で情報収集して丸裸にしてやるぜと思ってたのに、ちょっと出鼻を挫かれた気分である。


 「一番レベルが高い奴で314。レベルだけなら、俺達だけでなんとかなりそうだけど」


 「レベルはあくまで基準だものね」


 多少のレベル差なら技術で補える。『スティグマ』とやらが、どれだけの技術を持ってるかは知らないけど、あんまりレベルで勝ってる事を過信するのも良くないだろう。


 「本当に戦闘の為の道具って感じだな。名前も数字しか書いてない」


 「確か勇者の情報では『スティグマ』にも500人の中で序列があるのよね?」


 「ああ。それを加味すると、あの名前に237って書いてあるやつは序列が237位なのかもな。単純に作られた順番かもしれないけど」


 レベルが314のやつの名前が237だ。これが序列なのか順番なのか。序列なら結構ダルいよなぁ。レベル314で真ん中くらいの強さって事だもん。


 「厄介なのはレベル上限が全員999なんだよね。これ、序列一位とかとんでもないレベルなんじゃないの?」


 「面白くなってきたわねぇ」


 「全然面白くないが」


 まあ、序列が上の方の奴は、どうせお偉いさんの護衛とかして、あんまり表に出てこないだろうけど、敵対するとなると厄介すぎる。


 アンジーは少し戦鬪狂のケがあるから、ワクワクしてきてるみたいだけど、敵は思った以上に戦力が豊富っぽい。


 「これはあれだな。俺達も早く限界突破の方法を探さないとやばい。俺は999だけど、アンジー達が456で止まってたら、勝てるもんも勝てないぞ」


 「仮説は立ててるんでしょう?」


 「仮説は仮説だからな。今回の『スティグマ』との戦いで何か分かれば良いけど」


 それにしても『スティグマ』の連中はみんな目立つな。フードを被ってるから、不審者にしか見えない。


 法衣を着てるし、教会の関係者が先導してるから、あんまり騒ぎにはなってないけど。


 「さてさて。『スティグマ』は全員で七人いる。どうしたもんかね」


 「スラムにやって来たところを返り討ちでしょ」


 「それはそうだけど」


 俺、アンジー、カタリーナ、ローザ、アリーナ。タイマンで『スティグマ』をなんとか出来るのは五人。今回だけ、サラを呼び戻すって手もあるが、対人戦の経験があんまりないみたいなんだよねぇ。偶に盗賊を討伐したりしてるみたいだけど。


 マーヴィン達を複数人で組ませて対処するか、それとも俺達が複数人相手するか。


 「うーん。迷いまいまい」

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異世界に転生したので裏社会から支配する Jaja @JASMINE4

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