第217話 気
「マジで使いっ走りなだけっぽいな。隠し玉も何もないとは」
「使いっ走りをしてる分、色々な犯罪の証拠が出てきましたが」
「悪どい事をやってるねぇ」
『ルルイエ商会』が『久遠』の暗殺者に狙われた。まあ、それは事前に分かってたし、アンジーとアリーナが率いる部隊が、あっさりと制圧してくれたみたいだけど。
で、そこから三時間後。
カタリーナが『久遠』の縄張りを制圧したって事で、秘密基地に戻ってきた。一応教会と繋がってる疑惑があったから、隠し玉なんかも考慮して、人員を多めに投入したんだけど、特に何もなく。
『久遠』のボスと色々な証拠書類を確保して、『聖域』を除くスラムの全域の制圧が完了。
カタリーナは一旦報告に戻ってきたけど、他の面々は現在後始末中みたいだ。
俺は今、証拠書類の精査をしてるんだけど。裏組織らしく、悪どい事をばっかりしてるみたいで、改めてほぼ全員を殺しておいたのは正解だったように思う。
まあ、俺達もそれなりに悪どい事をやってるから、大きな声で言えないけど、最低限の倫理観は守ってるつもりである。
流石になんの罪もない人に被害を出すような事は滅多にしないし、人体実験の材料なんかにしたりしない。
滅多にってだけで、必要とあらばやるんだけど。ペテスでやったスタンピードとか。なんならゴドウィンも、一応罪のない人間だった訳で。俺がアンジーを味方に引き入れたくて死なせたようなもんだし。
……そう考えるとやっぱり俺も人の事は言えないか。
「密輸関係の書類はクロエ達に流して頑張ってもらおう。これは結構忙しくなるぞ」
「えぇ。まさか『久遠』が船を四隻も所持してるとは思いませんでした」
「密輸してるから持ってるだろうとは思ってたけど、四隻は流石に予想外だったなぁ」
「教会と本国にある『久遠』の本部による支援のお陰らしいですが…。ほんと、教会はロクな事をしませんね」
「それな。まあ、船が四隻タダで手に入ると思ったら良いんじゃない? すぐにバラして材料にするだろうけど」
カタリーナは仕事終わりという事で、紅茶を飲みながら話してるけど、俺の仕事はここからが本番とばかりに、大量の書類仕事。
カタリーナは手伝おうとしてくれたけどね。流石に、スラム襲撃した直後なのに、更に働かせる訳にはいかない。
「『久遠』が潰されたなら、流石にディエル領の教会も黙ってないだろうな」
「ええ。使いっ走りとは言え、都合の良い駒を失った訳ですから。何かしらの行動に出るでしょうね」
まあ、あの成金大司教に出来る事は『スティグマ』をスラムに送り込んでの原因究明ぐらいだろうけど。
そろそろ到着するはずなんだよな。なんとか、スラムを綺麗に出来て良かったぜ。
「よし。とりあえず書類仕事はこれでオッケー。俺はマリクの所に行くけど、カタリーナはどうする?」
「スラムに戻ります。チャールズ達も休憩させたいので」
「あぎゃぁぁぁぁぁぁあっ!」
「おーおーやってるな」
秘密基地のとある一画に行くと、断末魔のような叫び声が聞こえてくる。相変わらず、ここは血生臭いな。もう慣れてしまった自分が怖い。
「ボス。お疲れ様です」
「お疲れー」
艶々した顔のマリクと、他の職業が拷問官達が『久遠』の生き残りを拷問していた。一応皆殺しの命令は出していたけど、それでも一命を取り留めてる奴はいる訳で。
まあ、その場で死ねてた方が幸せだったろうが。今はマリク指導の拷問訓練の教材になっている。
さっき人体実験はしないと言ったけど、俺達に敵対した犯罪者はその限りではない。俺個人の考えでは、こういう奴には何をしても良いと思ってるし。
物語の勇者なら、犯罪者にも人権がーみたいな事を言いそうだが、俺から言わせれば甘すぎる。人を違法に売買する奴に人権なんてある訳がないのだ。
「どう?」
「ええ。みんな筋は悪くないありません」
「俺にも何人か貸して欲しいんだけど」
「あら、珍しい。ボスもやるのですか?」
「いや、個人的に試したい事があって」
俺がここに来たのは、少し試したい事があったからだ。最近、表の仕事やら、書類仕事やらで、あんまり出来てなかったけど、戦闘関連の技術でちょっとね。
「フッ!」
「ぎゃっ」
最近、俺が密かに練習してたのは、相手の『気』に干渉するというもの。仙人って職業になってから、魔力操作並みに『気』の操作も出来るようになった。
今は一瞬で指先に『気』を練り上げて、触っただけで相手の『気』に干渉して、体内から爆発させるというのを練習している。
まあ、まだ『気』を一瞬で練り上げるのに結構集中しないといけないし、爆発もしない。せいぜい相手が血反吐を吐く程度である。
「これが無意識レベルで出来るようになったら、アンジーやローザ相手に切り札になると思うんだけどなぁ」
雑魚と同じような効果は望めないだろうけど、少しでも相手の『気』の流れを乱してやれば、それだけで有利に立ち回れるはずなんだ。
最近、あの二人のレベル、技術の上がり方は尋常じゃないし、俺もなんとか置いていかれないようにしないと。
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