第216話 襲撃と迎撃



 ☆★☆★☆★



 「良いか? 最後に確認するぞ? 入ったらまず、商会長のレイモンドという男を探せ。今日、商会内に入ってから出て来てない事は確認済みだ。最優先でそいつは殺せ。護衛に『狂姫』というやつがいるらしいが、数で押せばどうとでもなるだろう」


 「商会内の金目のモノも全部奪っていいんすよね?」


 「ああ。依頼主から好きにして良いと言われている」


 物陰から『ルルイエ商会』を見る『久遠』の暗殺部隊。


 その暗殺部隊を率いるリーダーが、今回の襲撃の最終確認をしていた。


 「商会長一人狙うのに二十人も連れてくるのはやり過ぎだと思いますけどね」


 「念には念をだ。それにスラムの方がきな臭くなっている。さっさとこの依頼を終わらせて、アジトの防備を厚くする必要があるからな」


 「あー『ネイビー』が潰されたんでしたっけ?」


 「ああ。『ネイビー』は頭の悪い連中だったが、武力は本物だった。奴らを潰した新しい組織が、うちの組織を狙う可能性がある。この依頼をさっさと終わらせて、そっちに集中しないとな」


 暗殺部隊の雰囲気は弛緩していた。今まで何度も暗殺の依頼は受けていたし、多少腕の立つ護衛がいようが、やる事はいつもと変わらないと。


 『ルルイエ商会』に何が待ち受けてるかも知らずに。


 「よし。行くぞ」


 油断していようが、曲がりなりにも暗殺者。音を立てずに商会内に侵入し、何人かに別れて商会長のレイモンドを探そうと、各々が動き出した時だった。


 リーダーの隣にいた男の首が飛ぶ。


 「なっ!?」


 「驚いたからって、暗殺者が声を出しちゃダメにゃね」


 女の声が聞こえ、咄嗟に防御姿勢を取る。


 「お前はアンジェリカさんに言われてるから生け捕りにゃ」


 女はそう言って、一瞬で四肢の腱を切り、リーダーを縛り上げる。そして身体を物色して、装備や持ち物を全て回収した。


 「にゃ? 本当に歯に毒を仕込んでる奴っているにゃね? 初めて見たにゃ」


 「ぎゃーっ!!」


 女は短刀を器用に操り、リーダーの口の中に突っ込んで、その歯だけを取り除く。


 「あら? もう終わってたのね」


 「そっちもにゃ?」


 「ええ。優秀すぎる部下ってのも、考えものね。全然斬れなかったわ」


 「お、お前達は一体…」


 剣の先端に暗殺者の首を突き刺した女が、やれやれと言わんばかりにやって来た。


 「それはこの後嫌でも分かるわよ。ふふっ。ここで死ねなくて可哀想ね。マリクが首を長くして待ってるわよ」


 冷笑しながら暗殺者のリーダーを見るもう一人の女。その目はまるでゴミを見るような目で、人に向けるような視線ではなかった。


 「領主に連絡はしてるにゃ?」


 「ええ。ホルトが既に動いてるわ」


 「じゃあ後はスラムのほうだけにゃね」


 「ええ。そっちもさっき始まったみたいよ。まあ、カタリーナに任せておけば大丈夫よ」



 ☆★☆★☆★



 「では、私の部隊は正面から。チャールズは右、マーヴィンは左。『久遠』の本拠地に再び集合です」


 「うっす」


 「了解です」


 「アハムの部隊は私の後ろからついてきなさい。あなた達は本拠地についてからが本番です」


 「わかったっす」


 「じゃあ、行きますよ。蹂躙です」


 『ルルイエ商会』に暗殺者達が向かった頃。スラムの方でも抗争が始まろうとしていた。


 『久遠』の予想構成員は200名程度。そして『クトゥルフ』が今回の抗争に連れて来た人員は500名。


 恩恵持ちのカタリーナ以外は全員カンストしていて、数でも質でも凌駕している事は間違いないだろう。


 いささか過剰戦力気味だが、教会と繋がってる事や、こちらの知らない大陸外の隠し玉があるかもしれないと考え、万全を期した布陣で今回の抗争に臨んでいる。


 カタリーナの合図と共に、チャールズの部隊150名が『久遠』の縄張り右へ、マーヴィンの部隊150名が縄張り左へ。


 そしてカタリーナの部隊150名とアハムの部隊50名が正面から『久遠』の縄張りに突入していく。アハムの部隊が少ないのは、本拠地について、犯罪の証拠集めをするのが主な仕事だからだ。


 「姉御!! 好きに暴れて良いんだよなっ!?」


 「ええ。『久遠』のボス以外の皆殺しの許可は得ています。万が一商品にされてる人達がいたら、その人達は保護するように」


 「よっしゃあ! 行くぜぇ!!」


 元『ネイビー』のボスだったドナルドが、拳を振り回して『久遠』の構成員を吹き飛ばしていく。


 「あの子は本当に…。もう少し落ち着きを持って欲しいですね。いずれは部隊を任せたいのですが…。ローザを見ているようです」


 カタリーナは先頭を突っ走って、暴れ回るドナルドを見てやれやれと首を振る。最初はツンケンしていたドナルドだが、今では忠犬のように働いてくれる。


 しかし、いざ戦闘になると少し我を忘れてしまう悪癖がある。それさえ治せば、部隊を任せられる人間になれるのだが。


 「まあ、良いでしょう。ドナルドが開けた穴を広げていきますよ」


 そう言ってカタリーナは、ドナルドが暴れて乱した敵陣を、更に魔法で煽って混乱させていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る