第215話 便利
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「この資料はありがたいですね。お手柄ですよ、ポルカ」
「これぐらいでお役に立てるなら、どんどん頼ってくだされ」
ディエルのスラムでは、カタリーナ、アハム、マーヴィン、チャールズが、そして元『海蛇』のポルカがアドバイザーとして『久遠』攻略の為の会議を開いていた。
長くこのスラムに根を張ってただけあり、しっかりと『久遠』の情報も集めていたポルカ。『聖域』は縄張りに踏み込むと、あっという間に薬漬けにされる可能性もあって、情報は少ないが『久遠』の方はばっちりである。
「どうやら『久遠』は『ルルイエ商会』の商会長の暗殺も依頼されてるみたいですね」
「ええ。元が大陸外の人間達で構成された組織ですから。『狂姫』と恐れられたアンジェリカ様の事も甘く見ているようです」
「依頼主は……商会店舗近くの別商会ですか」
「いくつかの商会が結託して依頼してるようですな」
「ふむ…。ボスに連絡して、警備を厳重にした上で、一旦襲わせるように言っておきますか。襲撃を受けた後は領主のクロエに介入してもらって、合法的にその商会を潰しましょう」
「それがよろしいかと」
オープンした『ルルイエ商会』は、領主の覚えがめでたいという事と、物珍しい商品や、質の高いポーションや武具が適正価格で売ってる事もあり、かなり商売は繁盛している。
それを煩わしく思ったいくつかの悪徳商会が、連名で『久遠』に暗殺の依頼を出していた。『久遠』は高額の報酬、元々アンジェリカを恐れていない事もあり、その依頼を快諾。
現在『ルルイエ商会』を調べているところらしい。
「では、私達は『久遠』が暗殺を仕掛けたタイミングで攻めます。特に目立った人物はいないようですが、油断だけはしないように、各自部下に徹底しておいて下さい。アハムの部隊は、襲撃が始まったら、諸々の犯罪の証拠を集めるように」
「了解っす」
「スラム攻略もいよいよ大詰めです。さっさと『久遠』を潰して、『聖域』と『スティグマ』に備えますよ」
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「ふぁ〜あ。……ん? 来るわね。アリーナ、非戦闘員を秘密基地に戻しなさい。そろそろお客様がやって来るわよ」
「にゃー。アンジェリカさんの恩恵は便利だにゃ。それがあったら、暗殺なんて成功する訳にゃいにゃね」
「そんな便利なもんじゃないわよ。レベルが上がって、精度が上がったような気もするけど、反応しない事もあるし。私から言わせれば、あなたの恩恵も充分便利よ。ホルト、領主にいつでも騎士を動かせるように連絡を」
「既に手配済みです」
「優秀ね。なら、あなたも一旦秘密基地に戻ってなさい。終わったらまた呼ぶわ。すぐに終わるでしょうけど、万が一があるからね」
「分かりました」
ある日の夜。ディエルの商会内の執務室で、ホルト、アンジェリカ、アリーナの三人が待機していた。
ホルトは普通に仕事をしていて、アンジェリカは暇そうに爪の手入れ、アリーナも暇そうに尻尾の毛繕いをしていただけだが。
「にゃ。避難完了にゃ。戦闘員の配置も済んだにゃね」
「分身出来るって良いわねぇ。ボスが心底羨ましそうにしてたのが分かる気がするわ」
「分身体の強さは元であるアタシの半分しかにゃいから、強者との戦闘は任せられにゃいにゃ」
アリーナは恩恵の『忍術』を使って、分身体を作れる。それを使って本体は動かずとも、色々出来る事があるのだ。
今回は閉店作業をしていた非戦闘員を避難させて、戦闘員の配置指示。今は分身体を一体しか作れないが、後々増える事があれば、もっと出来る事が増えるだろう。
「じゃあ、私達も向かいましょうか。なるべく商会を荒らさないようにね」
「私よりアンジェリカさんの方が気を付けるべきにゃね」
「言うようになったじゃない」
二人できゃぴきゃぴしながら、戦場になるであろう現場に向かうと、商会員に扮した『クトゥルフ』の戦闘員が、既に準備を終えていた。
「ここまで殺気が漂ってるわね。暗殺者として三流もいいところだわ」
「情報では『久遠』は教会の威を借りてるだけで、そこまで実力はないみたいです」
「そう。皆、油断だけはしないようにね。教会と繋がってるという事は、何か隠し玉があるかもしれないわ。解毒ポーションは用意してるわね?」
「はい、充分な数を」
「よろしい。じゃあ襲撃者さん達には、どこに手を出したか理解してもらって、地獄に送ってあげましょうか。私も最近魔物ばかりを相手にしてたから、ちょっと気が昂ってきたわ」
「にゃー。相手が可哀想になるにゃね」
「ボスは証人を数人残して皆殺しの許可は得ているわ。みんな好きにやりなさい。こんなしょうもない戦いで命を落とす馬鹿はするんじゃないわよ」
「「「へい!」」」
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