第214話 『暴食』のダンジョン


 「ボス。サラ達からの定時連絡です。『暴食』のダンジョンがある街に到着したと」


 「おっ。やっとか。あいつらには苦労かけたな。二ヶ月以上移動しっぱなしは疲れただろう」


 執務室でせかせかと書類仕事をこなしてると、カタリーナの代わりに秘書をやってくれてる文官のおばちゃんが報告に来てくれた。


 カタリーナはスラムに行ってるからね。このおばちゃんはカタリーナ直属の部下みたいなもんだ。偶におばちゃんトークが炸裂するけど、仕事の出来る優秀な人である。


 「現在商人組が、拠点となる土地を吟味してる最中だそうで。しかし、空きばかりなのですぐに見つかるらしいですが」


 「不人気ダンジョンだからなぁ」


 この世界に七つあると言われてるダンジョン。大罪の名前を冠した、ゲームやラノベでは定番な感じで、破壊不可の塔があって、それを登っていくような感じだ。


 宝箱から出る武具や魔道具を求めて、一攫千金を狙った冒険者がたくさんいるんだが、サラ達に向かってもらった『暴食』のダンジョンは、七つあるダンジョンのうち最も不人気なダンジョンと言われている。


 その理由がダンジョンの特性。

 『暴食』のダンジョンは、入るだけでお腹が空くのだ。このダンジョンの最も多い死因は魔物に殺されるのではなく『餓死』。


 低階層ならそこまでだが、登って行くにつれて、空腹度合いが上がっていく。常に何か食べるものを携帯しておかないと、このダンジョンは進めない。


 魔法鞄があれば大量に食料を持ち込めるが、そんな高級品を持ってるのは一握りの人間だけ。それでも持ってて一つとかだ。どう足掻いても途中で食料が足りなくなる。


 だから『暴食』のダンジョンは人気がない。ダンジョンがある街や都市は、大抵は栄えているけど、この街はその栄えてる都市に比べると全然である。だから、土地は選びたい放題な訳だ。


 まあ、低階層で取れる素材にもそこそこ需要はあるから、廃れてるって程でもないんだが。


 で、俺達『クトゥルフ』は魔法鞄を自作出来る。大量に魔法鞄を所持している異質な存在だ。食料は大量に用意出来る。『暴食』のダンジョンに入る最低限の基準はクリアしている。


 「最初は様子見で無理しないように言っておいてね。ダンジョンに入るのは初めてなんだから。罠とかもあるだろうしな。必要な人手、物資があるなら、遠慮せずに言うように言っておいて」


 「かしこまりました」


 ここを安定して入れるようになるなら『クトゥルフ』の金属事情は一気に解決する。


 出てくる魔物がゴーレムだからね。ドロップするのは、そのゴーレムの元になったインゴットだ。これほどありがたいダンジョンはない。


 まあ、低階層はウッドゴーレムとか、ストーンゴーレムなんだけど。でも、ウッドゴーレムの木材や、ストーンゴーレムの石材も質が結構良いみたいなんだ。


 貴族の屋敷とかに使われたりしてるって聞く。魔法鞄がないと持って帰ってくるのも一苦労だからね。希少価値みたいなのがついてるんだろう。


 いかにも貴族が好きそうである。


 「この『暴食』ダンジョンだけ、最高到達層が30階台なんだよなぁ。他はどこも50階を超えてるのに」


 全100階層からなる大罪ダンジョン。とにかく不人気だからか、ここだけ『暴食』のダンジョンだけ最高到達層が低い。


 「その分宝箱もたくさん残されてると思えば、良いのではないですか?」


 「それもそうなんだけどね。お約束では低階層には、ロクなもんは入ってないからなぁ」


 低階層に意味の分からん隠し扉とか隠し通路があって、伝説の武器があるのもお約束だけど。だから、期待してない訳じゃないんだけどさ。


 「例の勇者に探りを入れてもらいますか? 口の軽い勇者の事です。ダンとカイルに頼めば、恐らく情報は仕入れられると思いますが」


 「辛辣ぅ」


 言ってる事は辛辣だけど、確かにそれもそうか。後で転送箱で手紙を送っておこう。


 帝都はもう少し人材を増やすかな。帝都にいる恩恵持ちの事も調べてもらってるし、勇者のお守りもしないといけないとだし、やる事が多そうだ。


 あっちの恩恵持ちのスカウトにも早く行きたいんだけどな。こっちもこっちで手が回らん。


 さっさと『スティグマ』が来てくれたら良いんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る