第213話 オーダーメイド


 ☆★☆★☆★



 「そろそろ野営しよっか。良い感じの場所を見つけたら、今日は休もう」


 「りょーかーい」


 『ルルイエ商会』の商人達と、冒険者集団『ヨグ=ソトース』。本来はパーティ名として使われていた『ヨグ=ソトース』だが、今では人数が20人程に増えて、クランのような形になっている。


 元から『クトゥルフ』所属だった者や、冒険者として活動していく中で、仲良くなった人達を勧誘して、契約を済ませてから行動するようになった者もいる。


 今ではほとんどの人間がCランク冒険者であり、少しずつ冒険者達の中では噂になってきている。


 そして16歳ながら、リーダーを押し付けられているサラは、なんだかんだ良い感じにやれていた。勿論、周りのサポートもあってだが、リーダーとして着実に経験を積み上げていて、仲間内でも評価が高い。


 「それにしてもここまで長かったな。二ヶ月以上も旅を続けてるぞ」


 「フレリア王国から三つも国が離れてるんだもん。仕方ないよ」


 野営準備をしていたサラとサッキが話し合う。レイモンドからの指示で『暴食』のダンジョンに向かってくれと言われてから二ヶ月。道中でちょこちょこ依頼は受けてるものの、かなり長い旅路である。


 「まあ、色々な魔道具のお陰で野営が楽なのが救いだな。毎日風呂に入れるなんて、貴族でもしねぇぞ」


 「ご飯も毎日美味しいのが食べれてるしね」


 空間拡張されたテント、その中に設置されてる風呂やトイレ、キッチン。改良されてお尻が痛くならない馬車。どれか一つを取っても、贅沢極まりない。


 他の冒険者達にバレないようにする面倒はあるが、それを差し引いても使わずにはいられない代物だ。


 「まあ、この旅路も後1.2週間で終わりだしね。『暴食』ダンジョン。楽しみだなぁ」



 ☆★☆★☆★



 『海蛇』組との顔合わせと情報の擦り合わせが終わり、各々が職場に戻って行った。


 『海蛇』はこれから『クトゥルフ』の教育を受けてもらうが、ゼロからやるよりは早く終わるんじゃないかと思う。ポルカは顔に似合わず優秀で、積極的に溶け込もうと努力してるし、その下に付いてた人間も、情報収集系の仕事を主にしていた事もあって、文字は書けるし、計算も一応出来る。


 無傷でゲット出来て良かったぜ。カタリーナと、『海蛇』に繋ぎを取ってくれたクロエに感謝だな。


 そのカタリーナはスラムに戻って『久遠』攻略の準備、クロエは買収されてるであろう港の警備員達の調査に向かった。『久遠』に密輸されたい放題だったからな。


 で、俺は新しく『クトゥルフ』に加入した面々の、職業を考えて仕事を割り振る下準備だ。一応本人の希望も聞くけど、最初はこっちで職業で判断して割り振らせてもらう。


 どうしても無理なら配置換えって感じだな。今まで戦闘員として働いてたのに、いきなり料理人になれって言われて、納得する人は少ないだろう。


 俺が珍しくテキパキと書類仕事をしてると、執務室がノックされた。


 「どーぞー」


 「お邪魔するわよ」


 「失礼する」


 執務室に入ってきたのは、アンジーとサエジマだった。サエジマはポルカの用心棒をやってた人間で、名前から分かる通り、東の島国であるジャパングという国からやって来た武芸者だ。職業は上侍。恐らく侍が一つ上位になった職業だと思われる。


 腰には刀っぽいのを携えてるし、典型的な和風な国なんだろうと思われる。着てる服は、この大陸仕様の服になってて、着物とかじゃないのがちょっと残念だけど。


 「どうしたの?」


 「サエジマが私の刀を見て自分のも作って欲しくなったみたいなの」


 「ふむ?」


 「拙者の刀も名工に作ってもらった業物なのですが、アンジェリカ殿の刀とは比べ物になりませぬ。まさか、こちらの大陸でこれほどの刀に出会うとは思ってもいませんでした」


 どうやらアンジーの刀を見て欲しくなっちゃったらしい。まあ、エリザベスとか他の生産組が、気合いを入れて作った刀らしいし? ミスリルと何かの合金って言ってました。


 俺もその合金で出来た棒を使ってるから、凄いんだろうなぁってのは分かるよ。


 「お金なら今までほとんど使ってこなかったので、それなりの額を用意出来ます。お願い出来ませんでしょうか?」


 俺は頭を下げてお願いしてくるサエジマのステータスを改めて確認する。レベルは191。カンスト間近。恩恵はないものの、武芸者を名乗ってるくらいだから、技術もそれなりにあるだろう。


 ただねぇ。うちには自分専用の武器を持つにはルールがありまして。サエジマだけ特別扱いする訳にはいかないのである。


 「アンジー、ルールの事は言った?」


 「あら? 技量は問題ないわよ? さっき手合わせしたけど、チャールズやマーヴィンと同等の実力はあるわ」


 「そうじゃなくて…レベルの方なんだけど」


 「もしかしてレベル上限に達してないの? あれだけ出来るものだから、達してると思ってたわ」


 うちの戦闘員には武器は支給している。レベルカンストしてない奴らは、数打ち…それでも質は高い武器を使ってもらってて、レベルがカンストして、技量が一定に達したと判断するされたら、ご褒美として自分に合った武器をオーダーメイド出来るようにしている。


 勿論、作成費等はとらない。ご褒美だからね。


 なんでこんな面倒な事をしてるのかと言うと、レベルや技量が低い内に、武器に頼らないようにする為だ。頼りすぎは成長を鈍化させる。何かの漫画で読みました。


 「って事だから、後もう少しレベルを上げたら、生産部の方にお願い出来るように手配しておくよ。まあ、レベルを上げる前に『クトゥルフ』の事について、しっかり学んでもらうけど」


 「分かりました。精一杯励ましてもらいます」


 「ほどほどにねー」

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