第212話 材料
☆★☆★☆★
「まあ、こんなところか。駆け足で説明したけど、俺達の現状について理解したか?」
「え、ええ。まあ…」
会議室に到着してから、1時間ほどは顔合わせや雑談等をして交流を深めた。今の『クトゥルフ』の幹部陣とも言える人達を紹介してもらったのだが…。
ディエルの領主は出てくるわ、ディエルで1.2を争う造船所の親方が出てくるわ、スパンダ帝国の領主も出てくるわ。予想はしていた事だが、ディエルの要所の領主と親方を押さえているし、他国にもその触手は伸びていたらしい。
そして『狂姫』とその弟子なのであろう、獣人の少女が入ってきたところで、全員集合となり、情報の擦り合わせが行われた。
冒険者組にも幹部と呼べる人間がいるらしいがどうやら現在移動中で呼ばなかったらしい。ここは後日顔合わせとなるだろう。
それにしても…。
「教会と敵対ですか…」
「クソだからな、あそこは。裏組織やってる俺達が言えた事じゃないけど。あっちの方がよっぽど悪どい事をやってるぜ」
確かに。レイモンド様が言ってる事が本当なら、教会という組織は相当腐ってるのであろう。我々『海蛇』もそういう噂は聞いている。
しかし深入り出来なかったのは、神罰を恐れていたからだ。だから『海蛇』は代々教会とは関わらないように、なるべく距離を置いてきた。
「しかしそれなら『久遠』とレイモンド様…ボスは相容れないでしょうね」
「やっぱりそうか」
「ご存知でしたか」
「まあ、次に攻めるのは『久遠』だからな。情報収集は既に始めてる。でもここで長く暮らしてたお前達が言うなら、俺達が集めた情報も間違いじゃないんだろう」
『久遠』は別大陸の人間達で組織されている。いつの間にかディエルに入り込み、いつの間にかスラムの四大組織の一つに成り上がっていた。
しかし、その背景には教会がいる。『久遠』は別大陸で攫った人間を、こっちの大陸に運び教会に売り払っているのだ。
他にもこの大陸では手に入らない、別大陸の禁制品なども、教会に売って、多大な利益を上げている。
「『聖域』は実験組織で『久遠』は調達組織って感じか。クロエ、入り込まれすぎじゃない?」
「言い返す言葉もないわね…。港は密輸も警戒して、厳重に監視や警戒はしてるはずなんだけど…」
「警備員が抱き込まれてる可能性があるな。ボスは騎士までしか契約してないから、警備員までは、まだ目が届き切ってないんだ」
「まあ、買収されてたとして、そいつらが見つからないなら言ってくれ。うちには拷問のスペシャリストがいるからな。見せしめに惨たらしくやって『久遠』の縄張りに放り込んでやる」
「ボスが契約で炙り出した方が早いんじゃないのかい?」
「非正規の人身売買に関わってる奴なんていらないし。『クトゥルフ』に馬鹿はいてもいいけど、クズはいらないんだ。それに俺も忙しいから、そっちまで手が回らないし」
領主のクロエ様と騎士団長のエスピノーザ様に当たり前のように指示するボス。この光景は未だに慣れない。
なんだかんだ貴族は偉いのだ。取引相手としては喋れても、上の立場であれこれ言うのは、分かっていても難しい。
「とりあえず裏のみんなは『スティグマ』到着までに『久遠』を仕留めてくれ。今回は生け捕りじゃなくても良い。鏖殺だ」
「マーヴィン、チャールズ、アハムに準備を急がせます」
「よろしく」
会議室で皆が揃うまで雑談していた時は、自分はお飾りのトップだからなんて、笑いながら言っていたボスだが、こうして指示をしてる姿を見ると、しっかりボスとして振る舞えているように見える。
いくら契約で縛ってるとはいえ、心まではどうしようもない。領主のクロエ様とエスピノーザ様は、若干恐れているように見えるが、それ以外は心底ボスを慕って働いてるように見える。
「んじゃ、そんな感じで。誰か他に何かある?」
「じゃあ、俺から良いかい?」
「親方か。どうした?」
「船の事なんだけどよ。鉄製の船を造るには、鉄が足りねぇぜ。ここの倉庫も見せてもらったが、全部使い切って一隻作れるかどうかって量だ。実験する事も考えると、やっぱり全然足りねぇ。何かアテはあるのか? 図面だけあっても、材料が無ければ生殺しなんだよな」
「ああ、言うの忘れてたな。それに関してはアテは一応ある。まだ一応だから確実とは言えないけど」
「それは聞いても大丈夫か?」
タントス親方も凄いな…。物怖じせずに意見をしている。聞いた話では『クトゥルフ』に入ってからまだ日が浅いみたいだが…。領主夫妻よりも堂々としてるように見える。
「冒険者組がここに居ない事も関係してるんだけど…」
「冒険者? ……おいおい、まさか『暴食』のダンジョンか?」
「あ、知ってた?」
「そりゃなぁ。しかし『暴食』か…。確かにあそこなら、金属は取りたい放題だろうが…。進めるのか?」
「ほら、うちには魔法鞄が大量にあるからさ。七つのダンジョンで一番攻略しやすいと思ってるよ」
「なるほどな…。それなら期待して待ってるとしよう」
なんと…。ここに居ない冒険者組は『暴食』ダンジョンに向かっていたのか。考えてみれば盲点だった。確かに『クトゥルフ』ならあのダンジョンの特性も、クリア出来る可能性はある。
やはり、抵抗せずに降っておいて良かった。武力、技術力、財力、権力。ディエル領内に関しては、ほとんど持っていると言っていい。
無駄な抵抗をしていたら、すぐに潰されて終わっていたはず。後は私が、この組織でどれだけ成り上がれるか。
自分を試す良い機会だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます