第211話 衝撃


 ☆★☆★☆★



 「縄張り維持に必要な人間を置いて、とりあえず俺達の本拠地にいくぞ」


 新たに私達のボスになった『クトゥルフ』のボスであるレイモンド様。鑑定という不思議な力…恩恵というらしいが、それを使って、あっという間に『海蛇』の名簿を作って、闇魔法の契約をしていってしまった。


 光魔法と闇魔法は御伽話だけの存在と思っていたのだが、レイモンド様は両方使えるらしい。何か特別な存在なのであろうか?


 奴隷の首輪もつけずに、了承する必要があるとはいえ、裏切らない味方を作れる。なんと便利な魔法か。『ネイビー』達もこれがあるから、情報を溢さなかったのだろう。


 「転移が初めての奴は結構酔うから気を付けろよ」


 そう言ってレイモンド様は『海蛇』の人員、約200名を転移で『クトゥルフ』本拠地に連れて来た。残りの約100名はとりあえず縄張り維持だ。


 この縄張りも時期を見て稼げるように変えていくらしいが、今は時期が悪いみたいだ。その辺の説明もしてくれるらしいが…。


 「なんという場所だ…」


 恐らく連れて来られたのは、どこかの森の中。しかし、周りにはとても大きい壁に囲まれていて、色々な施設がある。


 そして岩山をくり抜いた中にあるのが『クトゥルフ』の本拠地らしい。一体どれほどの労力を使って、これほどのモノを作り上げたのか。


 「ポルカと他何人かは、とりあえず情報の共有とかしたいから、会議室に。他の面々は案内の奴を用意するから、この場所を案内してもらって。一応お前達は即戦力として期待してるけど、それでも最低限は『クトゥルフ』の教育を受けてもらわないといけないし」


 「かしこまりました」


 私はレイモンド様にそう言われて、人員の選抜をする。情報を共有する話なら、いつも護衛としてついてくれているサエジマは自由に動いてもらって構わないだろう。


 サエジマもこの施設を見て回りたそうにウズウズしてるように見える。正直私も見て回りたいが、流石にそういう訳にはいかない。


 とりあえず頭脳労働が得意な何人かを連れて行こうとすると、少し離れた場所で歓声とどよめきの声が聞こえた。


 レイモンド様も気になったようで、首を傾げながらそちらへ向かう。私達も付いて行った。


 「こ、これは…」


 「勝ったー! 初めて師匠に勝った!!」


 「はぁ…。とうとう負けたわ…」


 そこでは身の丈に合わない大剣を二本抱えて喜んでる成人したばかりぐらいの獣人の女と、サエジマが持っている剣と同じようなモノを持ってる女性が一喜一憂していた。


 あの女性はもしやと思うものの、それ以上に目を引くのは、二人の女性の近くに大量に積み上げられている巨大な魔物の死体。


 大きさは小さいので3m、大きいので10mぐらいはあるんじゃないだろうか。死体なのに逃げ出したくなるような威圧感のある魔物が、大量に積んであるのだ。


 「どうしたんだ?」


 「あ! レイモンド聞いてよー! 初めて魔物狩り対決で師匠に勝ったんだよ!!」


 「アンジーに? そりゃすげぇや!」


 「ふっふっふーい!」


 「いつかこんな日が来るとは思ってたけど、いざ負けると悔しいわねぇ」


 レイモンド様が、獣人の女を抱き抱えてくるくると回る。負けたであろう女性は、その光景を微笑ましく見ながらも、どこか悔しそうにしていた。


 「オヤジ。あれはやばいですよ。拙者と格が違いすぎます。恐らくあれが…」


 「ああ。『狂姫』であろう。しかし、その『狂姫』に勝ったのであろう、あの獣人の女も…。『クトゥルフ』は想像以上に層が厚いらしいな」


 サエジマが私の後ろでコソッと告げてくる。一瞬『狂姫』と目が合ったような気がしたが、こちらに見て笑っただけで、特に何もなかった。笑みを見た瞬間、心臓を握り潰されたような錯覚を覚えたが。


 「ボス? 何かたくさん人を連れてるようだけど?」


 「ああ。そうだった。アンジーとローザが山に篭ってる間に、色々あったんだ。後で会議室に来てくれる?」


 「分かった。汗を流してから向かわせてもらうわ。ほら、ローザ、行くわよ。私に勝ったご褒美として、今日は背中を流してあげる」


 「わーい!!」


 「あなた達。いつもの様に解体お願いね」


 「了解でさぁ! 野郎ども仕事の時間だ!」


 「おおっ!」


 『狂姫』は獣人の女性を連れて、どこかへ行ってしまった。そして残された『クトゥルフ』の面々は大量の魔物を魔法鞄に入れてどこかに運んで行く。恐らくこれから解体するのであろう。


 「当たり前のように魔法鞄を使っておるな。そう易々と手に入る代物ではないのだが」


 魔法鞄はダンジョンから稀にドロップする魔道具だ。容量は色々あるが、一番小さい容量のモノでも十年豪遊出来るぐらいの額は手に入る。


 「俺達は魔法鞄を作れるからな。容量はまだ大きいって言えないけど」


 「そ、そうでしたか…」


 レイモンド様が何の気も無しに言った言葉に、思わず顔が引き攣ってしまった。魔法鞄を作れるなど…。金を生み出し放題ではないか。


 「まあ、まだ売る気はないな。敵に使われると面倒だし」


 「確かにそうですな」


 確かに短期間でお金を稼ぐなら、これ以上ない商材ではあるが、長期的な目で見ると、レイモンド様の考えも分かる。


 「じゃあ会議室行くか」


 もう既に驚き通しで、正直会議どころではないのだが…。これ以上驚くような事はないだろうな? 心構えだけはしておいた方が良いか。

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