第2話二人目

「俺の息子は無事だった……」


真斗まさとは心底安心したように息を吐いた。

今は真斗を風呂に入れ終わり、俺の部屋で話し合っているところだ。

あの後真斗の声を聞いて駆け付けた家族への対応で忙しかった。方や男子高校生、方や裸の幼女。パッと見では完全に事案だ。

あの時の咲良のゴミ見るような目は一生忘れることはない。

事情をちゃんと一から話してようやく納得してもらえた。真斗の下半身に生えているブツの説明がマジで大変だった。父さんに確認してもらうことで解決はしたが、もう疲れた。

明日は学校もないしよく眠れるだろう。

はぁ、それにしてもこいつ、なんでふたなり幼女なんかになってんだ?

俺はのほほんとしている真斗を見る。自分が幼女になったっていうのに随分余裕そうだ。こいつの面倒を見るのは別になんとも思っていないが、もう少し危機感を持ってほしいな。

そう思っていると、真斗がこちらを向きこいつにしては割と真面目な顔で話し掛けてきた。


「なあ日向ひなた、俺ちょっと気になることがあるんだ」

「なんだ?」

「なんか、お前を見てると無性に抱き付きたくなる」

「は?」

「だから、お前を見てるとなぜか抱き付きたくなるんだ」

「………………」


俺は、今目の前にいる奴の言ってることがよくわからなかった。……いや、分かりたくなかった。

俺だって別に幼女に抱き付かれるのが嫌なわけではない。むしろどちらかといえば嬉しい方だ。

だがその中身が長年付き添ってきた親友で、幼馴染と考えればどうだろう。元が女だったらよかったが生憎こいつは元が男だ。

中身がわかってしまうと、幼女に抱きつかれる嬉しさとか、そう言ったものが全て消え、虚しさだけが残る。

そして真斗は今、俺に抱きつきたいと思っている。

俺が微妙な顔をするのも当たり前だろう。


「おい日向、顔が引き攣ってるぞ」

「そりゃ引き攣りもするだろ」

「確かにそうだな。俺もお前に抱き付きたいと自分が思ってると自覚すると吐きそうだもん」

「んだとてめぇ……じゃあ勝負するか?どっちが先にギブアップするか」

「へ、上等だ。負けたらジュース一本奢りな?」


そして俺たちは我慢勝負をすることになった。ベッドの上で抱き合い、先に根を上げた方の負けだ。もう夜も遅いので、このような形になったが側から見たら本当に事案だな。

まぁそんなもん知ったこっちゃない。男の勝負だ。他者からの印象なんて二の次である。

さて、まぁそんな感じで我慢勝負してたんだが………真斗め、早々に寝やがった。こっちはドキドキして全然眠れないってのに……。

なんでこんな勝負しちまったんだ?

はぁ、昔からこうだ。二人でしょうもない事でぶつかり合って、後のことはなにも考えていない。だからいつも大変なことになる。

つくづく学ばないなぁ……俺達は。でも、それが楽しくもあり、面白いんだよなぁ。

ふと、俺は抱き付いている幼馴染兼親友を見る。こんなに小さくなったとしても、全然変わらない。うざいほど明るくて、気持ち悪いほど趣味が合う。


「大丈夫だ、俺が、お前を支えてやるから」


気が付いたら俺はそんな事を呟き、自分の発言に気が付かぬまま、眠りに落ちていた。



ん、朝か。今日は真斗を連れて病院に行く日だ。さっさと顔洗って、真斗を起こすか。

そう思い、ベッドから起きようとする。だが、そこで違和感に気がついた。毛布を持った手が小さいのだ。

いつもの男子高校生然とした大きくごつい手ではなく、まるで幼児のような小ささの、柔らかい手だった。

冷や汗が背中に流れるのを感じる。

いや、そんなはずはない。まさかな、まさか。一縷の不安が胸を支配する。

確認のため、小走りで洗面所に向かう。そして洗面台の鏡を見て、俺は絶句した。

鏡に写っていたのは、幼女だった。ぷっくらとした唇、神秘的な黄金の目、絹のように白い長い髪。恐ろしく整った顔面を持つ幼女が、そこにいた。


「な、なな、なんじゃこりゃああああああ!!!!」


え?え?え?

本当に俺、幼女になったのか?嘘だろ?

体をペタペタと触り確認する。上半身を確認し終え、下半身を確認しようとした所で硬直する。

先程から男の時はあった感覚がなくなっている。いや、そんなはずはない。だってあいつにはんだから。

俺はそこに、手を乗せてみる。


「どうしたのって、え、だれ!?」


咲良が来た。おそらく見知らぬ幼女がいたから驚いているのだろう。

だが、今俺に反応する余裕はなかった。


「………ぃ」

「え?」

「俺の、息子が……ない」


そう、そうなのだ。昨日まではあった俺の息子が、綺麗さっぱりなくなっているのだ。まだ、未使用だったのに……。

思わず泣きそうになってしまうほど、俺はショックを受けていた。


「息子って……まさか、お兄ちゃん?」

「ざぐらぁ……」


俺はあまりのショックに我を忘れて咲良に抱き付いた。

だって、仕方ないじゃないか。長年連れ添ってきた盟友がいなくなったんだぞ!

こんなのあんまりだぁ……!!!


「お、お兄ちゃん落ち着いて……やべぇ、可愛すぎる……」


妹が落ち着かせてくる。最後の方は聞こえなかったが……。でも、それでも俺の耳には届かない。これが、これが、落ち着いてなんていられるかーー!!


「すまん咲良、取り乱した」


数分後、そこには向かい合った俺と咲良がいた。

……はぁ、やっちまった。兄として全然威厳のない事をしちまった。もう一生モンの黒歴史だよ。誰かに見られてなかったのが唯一の救いだな。


「いや、別にいいよ。………もっと抱き付いてても良かったんだけどなぁ」

「なんか言ったか?」

「ううん、なにも」


先程から俺をガン見してくる咲良を訝しみながら、これからのことについて考える。

真斗だけでなく俺までも幼女化するとは思わなかった。しかも俺には生えてない……。

ま、まぁそこは置いていて、これからどうしようかなぁ……。

TS物はよく見てたけど、自分がするとなると流石に焦るわ。とりあえず病院に行くのは決定として、問題は学校だよな。

この体で行ったら流石に駄目だわ。幼女化なんて完全にフィクションでしかあり得ないしな、常識的に考えて。

そこは親に任せるか。とりあえず朝ご飯作ろう。

俺は咲良を連れて台所に向かう。この家で料理できるのは実は俺しかいない。母さんもできはするけど全部微妙な味だから、俺が作った方が美味しいしみんな喜ぶんだ。

そんな感じで台所に向かったのだが、一つ問題があった。それは、背が小さすぎて料理できないのだ。くそ、洗面台には踏み台があったけどここにはないから食材も切れない。

仕方ない、ここは咲良を頼るか。


「咲良ー、踏み台取ってきてくれ」

「わかったー」


やっぱり咲良はできる妹だ。普段もいい子だし、真面目で努力家な自慢の妹である。


「はい、取ってきたよ」

「ありがとう」


俺は咲良が持ってきた踏み台に乗り、料理を開始した。なぜか咲良から見られていたが、おそらく俺が失敗しないか心配なのだろう。

やっぱりできる妹だ。


咲良(ふへへ、頑張って料理してる幼女最高!)

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幼女ハザード 呂色黒羽 @scarlet910

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