第22話 終章 『戦の跡の静寂 そして次の目的地へ』
「うっわぁ~、何がどうなったらこうなんの?」
妙に明るい声が空洞内に響いた。
今朝方、強い振動と激しい戦闘が行われたであろう王国地下にある『愚者の迷宮』で起こった為こうして調査に来たのだが調べても何も無さそうだった。
いや、何も無いというのは少し語弊がある。
全てが異常なほどなにもないのだ。
ここには召喚用の魔法陣があった。
しかし何もない。
少し手前には第四師団団長エスカトーレの研究室があった。
しかし何もない。
ここにはその
しかし何もない。
結論として、何もないのだ。
自分が最後にこの場所に来た時と違うのは『愚者の迷宮』に大きな亀裂が生じそこから地下に封じられていた魔物が今にも飛び出してきそうな事だった。
「めんどくさいなぁ。あの
他人に聞かれたら即死罪になりそうな事を平然と言ってのける。
「マレウス副団長―――――何をやっているのですか!?」
「ん?」
七人ほど兵士が駆け寄ってくる。
全員の鎧の色は
「あぁ――――これはこれは第一師団の方々じゃないですかぁ」
どこか間延びした、それでいて少し冷たさを含んでいた。
第一師団兵士の一人が前へ出る。
「ここは我等の管轄のはずです。どうかお引き取りを」
「えーっ、そんな事言われてもぉ~」
マレウスと呼ばれた少女はどこか惚けたようにその細い指先を口元に当て首をかしげる。
黒いショートの髪をふわりと靡かせ覗かせた耳は少し尖っていた。
それを見た兵士の一人が忌々しい口調で呟く。
「穢らわしい種族が」
その言葉にマレウスは少女らしい表情がその顔から消えた。
「―――――――――――」
静寂。
そして、
ザシュッ! と軽い音が聞こえ、
マレウスに暴言を吐いた兵士の腕が切り離され噴水のように鮮血が流れ出る。
「ぐ、ぎぃゃああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!?」
突然の出来事に思考が停止する。
「全くもう、今のは差別発言だよっ」
無邪気な物言いは残酷さを物語る。
マレウスの表情は優しく、そして残酷に微笑む。
「そもそも、キミ達は第一師団といえ誰に向かって声をかけてるのかな? 普通は不敬罪で首と胴体がバイバイだよ?」
マレウスは優しく諭すように、
「まぁでもボクは優しいからね。キミの腕一本で許してあげるっ」
つまり、
これ以上何かを言えば命の保証はない。
そう語っているのだ。
「―――――部下が大変失礼致しました。ですがこれは我々第一師団の管轄。どうかお引き取りを」
「えーっ、どうしようっかなぁ」
殺気が充満する。
第一師団の兵士が七人。
対して副団長のマレウスが一人。
特にマレウスは年端もいかない少女だ。
屈強な男が一人の少女を囲むという異様な光景だが、一番緊張しているのが黄色の鎧を着ている兵士達だ。
殺気が膨れ上がれ、今まさに暴発しようとしていた時。
「全く、お前は何をしているんだ? マレウス」
第一師団の兵士達の背後で声がした。
誰も全く気付かなかった。
そこにいたのは―――――。
「あ、しっしょー」
マレウスが大きく手を振った。
先ほどまでの凶悪な笑みはどこかへ行き、年相応の少女の笑顔を浮かべていた。
「第二―――――師団長、殿」
銀髪―――いや、元は真っ黒であっただろう白髪で長髪の男が立っていた。
片目には眼帯を付け隻眼の男の眼光は全てを睨み殺すほどの力を秘めていた。
体格としては永城万里よりも少し小さい。
だが、それでも体格は決して小さくはないその男は不敵に笑う。
「ウチの副団長が迷惑を掛けたようだ。すまんね」
そう言って『ある薬品』を手渡す。
「エスカトーレ団長殿の遺品だよ。確か『エリクシール』だったかな? 良ければ使ってくれ」
「何の―――――つもりで?」
その傷薬、『エリクシール』はかなり上等な薬品だ。
損壊した腕がそこまで時間が経っていないのならばくっつくほどの回復力がある。
兵士が驚いていたのは一団につきこの『エリクシール』を配られる数は限りがある。
そんな物をすんなりと渡す事は普通ならあり得ない。
しかし、
「何か問題でもあるかね? 我々はそんな物は必要ないからお裾分けしたのだが? まぁそもそも、
何も言えなかった。
この第二師団という軍団はそう言う者達の集まりなのだ。
そのイカれた思考だからこそ、成り上がりで第二師団と言う立場を与えられたのだ。
「まぁウチの
不気味なほど落ち着いている第二師団団長はそれだけ言うとマレウスを引き連れ城の中へと歩みを進める。
「あ、第一師団団長サンによろしく~」
そう言って二人はそのまま闇へと消えた。
その後ろ姿を見た黄色の兵士達は震えが止まらなかった。
「バケモノめ」
「やめろ。聞こえたら本当に首が飛ぶぞ」
口々に二人を貶す言葉を紡ぐ。
そして、兵士の一人が忌々しく二人が消えた方を向き舌打ちをする。
「黒騎士――――あれが成り上がりの第二師団長と穢れた種族の副団長、か」
その囁きは誰の耳にも届かなかった。
「
マレウスの楽しげな声が弾む。
その様子は悪戯が成功した後の達成感のようなモノを感じていた。
実際、マレウスは先ほどの出来事はその程度の事しか思っていなかった。
「全く、あれほど他の騎士団と揉めるなと言っていたのにお前と言うヤツは」
嗜めているように聞こえるが、その声音は父親が娘を注意しているような言い方にも聞こえた。
「ごめんなさいししょー。でもボクどうしてもししょーに伝えたくて焦ってたんだよねーっ」
そう言ってマレウスが取り出したのは水晶のような鏡だった。
軽く念じるとボンヤリと映像が映し出される。
「『ヴィジョンスフィア』に偶然写ってる映像があるんですけど、見ます?」
「全く本当にお前と言うヤツは」
呆れながらもその映像を見てみる事にした。
映像は所々途切れていたが、鮮明に写されている場面もあった。
「これは、三人が今回の事件の首謀者と言ったところか。容姿からするに異世界から来たのか?」
その辺りは空洞と同じフロアには『召喚用魔法陣』があったはずなので呼び出した直後に反乱を受けたのかも知れない。
第二師団団長の男は片目しか見えないが一挙一動を見逃さないように見ている。
「んー多分なんですけど、この人達って異世界人って言っても『迷い人』なんじゃないですか? だって三人いますもん」
「ほぅ、なるほどな――――――」
男はその三人の戦いを見ている。
ゴーレムの亜種を次々不思議な力で撃破する大男とあり得ないほどのスピードで翻弄する年端もいかない少女。
その二人をじっくり見ていた団長は、エスカトーレの戦闘に差し掛かった時に顔をしかめた。
「何だ? これは」
『ヴィジョンスフィア』に映されていたのは確かにエスカトーレの戦闘だった。
持っていた武器が特徴的だから分かる。
しかし、肝心の敵の姿を映し出そうとした時に映像がかなり乱れて砂嵐が映るのだ。
「でしょう? この場面だけいつも乱れるんです」
マレウスの言う通り、ある特定の人物が映った時だけ砂嵐で見えないのだ。
「まるでチューナーが合っていない時のテレビだな」
ぼそりと呟く。
何の話をしているのか分からなかったマレウスは、もう一つ気付いた事があった。
「あと~、この『迷い人』の戦い方って、なんかししょーに似てません?」
「何?」
そう言う団長の男は片目を凝らす。
そして、
「―――――――――――」
「ししょ」
マレウスは全身が総毛立った。
昔から知っているが、こんなに菩薩のような表情をした鬼を見るのは何年ぶりだろうか?
「(映像は乱れていたが、あれは間違いなく『鬼火』による黒炎―――――と言うことは、この『迷い人』がアイツなら映像が乱れていたのは〝霊障〟と言うヤツなんだろうな)」
少し懐かしい感じを抑えつつ、マレウスに向き直る。
「マレウス。この映像は?」
「えっ、あ、まだ誰にも見せてないし未報告です」
不意を突かれ思わず挙動不審になってしまった。
しかし、男は特に気にしたワケでもなく。
「まぁこちらの情報を渡すわけもないしな。何か言われるまで無視でいい」
騒がしい城内と王都を見下ろし、隻眼の男は微笑む。
どうやら退屈と思っていた異世界生活も少しは改善されそうだと、そう呟きその場所を後にしたのだった。
『異世界召喚』編 END
無法者《アウトロー》達の異世界救済記《グランセフィーロ》。 がじろー @you0812
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。無法者《アウトロー》達の異世界救済記《グランセフィーロ》。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます