能力世界のはじまり

尾長律季

第1話

 桜並木や菜の花畑を観ようと、全国からたくさんの観光客で賑わうこの公園は、春が終わると静けさを取り戻す。紫陽花が咲くまでは、この寂しさも続きそうである。ぼくは、坂になっている緑の絨毯の上で寝転んでみた。大の字になって、目を閉じた。風が、全身の毛を逆立てていく。鳥の響き渡る声にそっと微笑んだ。しばらくして、桜の木の状態を観に、公園の管理人さんが近くまで来た。やはり、人が来ると寝転んでいられない。恥ずかしくなり、身体を起こした。もうそろそろ良い時間かもしれない。ぼくはスマホを取り出し、友人A君を呼んだ。


 目的地には、車で1時間かかる。A君が車で公園に来てしまったので、そのまま乗らせてもらうことにした。ぼくは車が苦手だが、致し方ない。電車代も浮くし、何より車の方が電車で行くよりも近いのである。


「お前、人のことなんだと思ってんだ。公園まで、家から遠いんだぞ。まったく、遅れても文句言うなよな」


「別にいいじゃん。遅れたって気づかれないだろ。A君の能力使えば」


「使うとしてもお前には使わねえよ」


「ひどっ。誘ったのA君なのに」


「誘ったんじゃなくて、お前も呼ばれてんだよマスターに」


「マスター?ぼく面識ないけど」


「マスターには俺も面識ない。多分あれだ。健康診断の結果。俺も引っかかったんだ」


 A君はダッシュボードから封筒を取り出して、ぼくに渡した。


「A君のにも再検査あるね。ぼくと同じとこ」


「そりゃそうだろ。4人仲良くニートになったんだから。あいつらには現地集合って言ってある」


「じゃあ、久しぶりに飲みに」


「行かねえよ」


 ノリが良いA君は、ぼくにツッコミを入れながら目的地まで車を走らせた。


 ぼくたちがこれから行く場所は『能力者会議室』。能力を持って生まれた者たちが集まる場所。最近は人間界のアルバイトばかりやっていて、そこで月に1度行われる集会には顔を出さなかった。その後ニートになり、ぐだぐだした生活を送っていたら、3ヶ月に1度の健康診断で引っかかってしまった。まさか、本当にそのことなのだろうか。噂では、健康診断に引っかかっても再検査のみだと聞いている。A君はマスター直々に呼ばれたと言っていた。ニート4人を呼び出すなんて、嫌な予感しかしない。


「ついたぞ」

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能力世界のはじまり 尾長律季 @ritsukinosubako

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