当たり前のように、手を差し出してくれたことが何よりも嬉しかった。威圧感のない、肯定も否定もしないその手は、とても冷たかったが、居心地が良かった。
そうだ。私は、居心地の良さを求めていた。
安心できる居場所が欲しかった。
別に、特定の建物でなくてもいい。人、もの、なんでもいい。いや。……やはり、人、がいい。人から出る、その感情の恩恵を受けたかった。心臓を乱さない、平穏な雰囲気に包まれたかった。
もう数年前の出来事だが、あの手は忘れられない。誰かを頼っていいのだと、そう思わせるような手。
いつか私も、誰かの居場所になれるだろうか。
居場所を見つけられるだろうか……いやそうではない。
もう1度、あの居場所に帰れるだろうか。