エピローグ

 翌日。


 朝日が登った頃に、私は身支度を済ませ、宿を出た。


「行こうか」


 わしゃわしゃとフェイの首元を触る。


フェイはそれに嫌がることなく、「クゥ~ン……」と気持ちよさそうに鳴いた。


 それに私は少し微笑みながら、フェイとともにファレッティアを経とうとした。


「行くのかい?」


 聞き覚えのある声。


 振り向くと、マーリンが腕を組み壁に体を預けた状態で立っていた。


「はい。お世話になりました」


「リーリア君がまだ来てないようだけど?」


「あの子はもういいんです」


 私は昨日聞いてしまった。


 クレアが「また一緒に暮らそう」と言っていたのを。


 私はその答えを聞く前に離れてしまったけれど、答えはもう決まっているはずだ。


「リーリアは生き別れた姉を見つけて、仲直りができました。なら、私でなく、クレアさんについて行くはずです」


「はぁ……」


 マーリンはため息をついた。


「まったく、君は弟子の心を何一つ理解してないみたいだね」


 マーリンの言葉に、少しムッ、としてしまう。


「どういうことですか?」


「それは、自分の目で確かめるんだ」


 マーリンは指である一点を指し示した。


 そこには、息を切らす赤髪の少女がいた。


「リーリア……」


「じゃ、僕はこれで行くよ」


 マーリンは手を振って離れる。


「ちょ、師匠――」


「テティアさん!」


 リーリアの叫ぶ声が、マーリンに向いていた意識を呼び戻す。


「テティアさん……ひどいです……私を……追いて……いく、なんて……」


 追いてく?追いてくとはどういう意味だ?


「まさか……私とまた旅に行きたいってこと?」


「そうです!当たり前じゃないですか!」


「で、でも……あなたはお姉さんと一緒に行くんじゃ……」


「たしかに、少し迷いました……。お姉ちゃんとまた暮らせることを。でも、私はテティアさんと旅をしたいんです!それに、まだまだ教えてもらいたいことがたくさんあるんです!」


「…………!」


 マーリンの言う通りだ。


 リーリアのことを理解した気になっていた。


 彼女は私よりも姉を選ぶのだと。


 でも、彼女は私に学ぶことが多くあり、私とともに生きることを選んだ。


 そんなこと、今まで過ごしていればすぐに分かったことなのに……。


「……後悔は、ないんだね?」


「はい!これっぽっちも!」


 迷いなく、リーリアは断言した。


 私はそれを聞いて、思わず口元が緩んでしまう。


「それじゃ、宿に一回戻ろうか。まだ荷物置いたままでしょ?」


「……!はい!」


▲▽▲


 時を同じくして、マーリンは


「おや?」


 人の気配を感じ、上を見上げる。


 屋根の上に、クレアが立っていた。


 そこからの位置ではリーリアたちがよく見える。


「君は別れの言葉はいいのかい?」


 クレアは寂しげに微笑む。


「決断が鈍ってしまうかもしれないから」


「寂しくはないのかい?」


 首を振る。


「これが今生の別れじゃない。また会うことを約束したから」


「そうか……。それじゃあ、それまではまだ死ねないね」


 マーリンの言葉に、クレアは苦笑する。


「だれに言ってるのよ」


「……ああ。たしかに」


 そう言って、共に死線を潜り抜けて来た二人の勇者は笑い合うのだった。


△▼△


 王都を出た後、木陰で休みながら地図を広げた。


「テティアさん、次はどこに行きましょうか?」


 私の肩に頭を乗せ、リーリアは地図をみつめる。


「ん?そうだね」


 地図を目で追いながら、どこに行き、そこでなにをするのか頭の中で計画していく。


 この瞬間が、一番楽しい。


「それじゃあ、次はここにしようか」


 そう言って、私はとある国を指し示す。


「いいですね!ここにしましょう!」


「アォン!」


 リーリアとフェイが同意する。

 

 ならば、中断する理由もないだろう。


「それじゃあ、行こうか」


 そうして私たちは、次なる目的地へと足を進めるのだった――。


――――――――――――――――――――


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世界を救った勇者の弟子は、人類の敵である魔族でした 中村優作 @otqsk

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