第3話 行動的
次の日、よく眠れないまま朝を迎えてしまった。ボサボサの寝癖を直すために洗面所に向かって顔を洗う。その際に昨日の女性の顔を思い出してみようとするがそれが願わないまま家を出る時間になってしまう。最寄りの駅まで出ているバスがもう到着する時間になっていた。焦ってリュックを背負った俺はスニーカーに足を通し、トントンと軽く整えて家を出た。
大学に向かう道中、乗り降りする人たちの顔の中に昨日の女性に似た顔は居ないか探してしまう。たまに変な人。という顔をされることもあって、少し罪悪感が残ってしまっていた。
大学に着くなり、タクヤが手を振って俺を待ってくれていた。遠くから俺を探している姿はなんと言っても小学生のような無邪気さがあった。バスから降りるなり、タクヤは早歩きで俺の方に寄ってくる。その顔は嬉しそうでもあり、どこか
「マサキが会った女性ってあそこの喫煙所だよな。 駐輪場の横にあるちっちぇとこ」
「そうだけど」
「昨日行ったけど、誰もいなかったんだよな。」
昨日のタクヤの会うと言った言葉が本当だったことがわかった。けれどもタクヤの顔はそんなに嬉しそうな顔ではなかったので少し驚いた。
夢に出てきた彼女が数日前に喫煙所であった女性だとはわかっても、名前も知らなければどこに住んでいるのかすら知らない。いつ喫煙所に訪れるかもわからないまま夢の中では待っていた。と言われても俺にはちっとも再開することが想像できなかった。
ふと昨日の出来事を振り返ってみる。待っていた。その言葉が
「タクヤ、昨日何時ごろに喫煙所に行った?」
「えっ? 昨日…。何時ごろだったかな、昨日というか日付が変わっていた気もするから、実質今日の2時頃じゃなかったかな。」
昨日、というより今日の2時と聞いてから起きた時間を思い出した。何か思い出してはいけない気がしてしまい背中に氷を入れられたような冷たさがした。
「そっか。 俺も初めて会った時間がそんくらいだった気がするから。 まぁ、毎日はいないって事だったんじゃないか?」
タクヤをそう諭したが、胸の中のざわめきは消えることがなかった。仮に夢であったことが本当だとするならば、彼女は昨日もまたどこかで俺を待っていたはず。共通の公園なんて知りもしなかったから、おそらくまた喫煙所で待っていたはず。
しかし、タクヤは出会っていない。とすれば彼女はどこにいて、どこで俺を待っていたのだろうか。
真夏の空の下のはずなのに、お化け屋敷の中のようにヒヤヒヤとした空気が俺の身を包んでいた。
「タクヤ、今日また喫煙所にその時間に行ってみよう。」
事の結末を辿るために、俺は暑いとダレながらトボトボと歩くタクヤに行った。
「いいけど、そうなったら今日の講義は睡眠時間だからな。 ノート取っておけよ。」
あくびをしながらタクヤは呟いて、二人で教室に入って行った。
講義の中、眠たい目を擦りながらタクヤの為に必死にノートを取ったけれど、結局俺も眠ってしまって、ノートにはミミズが這ったような文字や図式が散らばっていた。
講義が無事に終わると時間が空いたから学生食堂で昼飯を済ませ、研究室にこもって課題をやった。肝心な時に限って時間は一向に経っている気がせず、課題が終わって羽根を伸ばしていてもまだ日付すら変わっていなかった。
白煙 田土マア @TadutiMaa
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