第4話 それから

 後日。

 夕暮れ時の喫茶 GUKU。表にはイタリアンスクーターが停めてあり、持ち主が店内にいるだろうことが知れる。

「……で、どうなったんだい?」

 グラスを磨きながら、お天気の話でもするようにマスターがカウンターに座る黒ずくめに尋ねると、

「一応、解決はしました。うん」

 黒ずくめの男こと私立探偵のくろーが、どうでもよさそうに答える。

「それ以上は守秘義務ということで」

 含みを持った笑顔で告げると、マスターも察したような笑みで返した。

 冷めて味も落ち香りもとんだコーヒーを一口すすり、くろーはことの顛末を思い返す。


 浮気調査、依頼主は奥方ではなく娘。

 娘が父親の浮気を疑い調べようとする。珍しいが前例がないわけでもないので引き受けた。

 学生に払えるかどうかわからんが、提示したギャラも受け入れてもらえたし。

 調査そのものは割と簡単だった。調査対象である父親の職場からの足取りを追えばこと足りたから。

 もっとも、浮気相手が顔見知り向日葵ちゃんだったのは誤算だったけども。

 内密に収めしようとしたけど、上手くいかなかったのは……承知の通り。

 向日葵ひまわりちゃん本人の希望もあって、包み隠さず調査報告することに。

 報告の席で娘は父の浮気相手に会いたいと言い、伝えると向日葵ちゃんも了承した。

 事務所での対面となり、どんな修羅場が?と思ったが、ビンタ一発と「泥棒ネコ!」の罵倒、そして調査費用の肩代わりで決着。

 もちろん父親と別れることは必須条件で、向日葵ちゃんも承知した。

 さらに彼女は年内いっぱいで役所を辞めることを決めた。せっかくの安定職、棄てるなんてもったいないと言ってみたが決意は固かった。

 ……それにしても、なぜ娘はビンタと罵倒だけで許したのか?

 自分にはわからなかったが向日葵ちゃんはわかってたようなので、試しに尋ねてみたが「にしかわからないことだよ」とわかるようなわからんような言葉でけむに撒かれた。

 ――謎だわ、うん。


「……マスター」

「ン?」

「女ってわからんもんですねぇ」

 くろーの言葉にマスターはただ笑うだけ。

 穏やかな空気の流れる店内にドアベルが鳴る。

 軽やかに扉を開けた客は自身の名のような明るさでオーダーを告げる。

「マスター、いつもの!」 


    ――完――

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