自由と旅立ち
どうもノワールです。
カカシさんとの生活も三ヶ月が過ぎました。傷の方はほぼ完治して、背中の翼で空を飛ぶことも出来るようになった。
これなら半月もすれば旅立つことが出来そう。
けれど、カカシさんと別れるのは名残惜しく、もっとここに居たいという気持ちもある。せめてカカシさんがあの場所から移動することが出来れば、二人で旅をすることが出来るのかな?・・・なんてこれは私の我儘だね。
ある日、木の実やキノコを探しに森を探索していた時のこと、私はとある声に呼び止められた。
「おい、半端者の裏切り者。」
その呼ばれ方には聞き覚えがあり、私は恐る恐る後ろを振り向くと、そこには一人の黒いくちばし、背中に黒い羽、人間寄りの私と比べて明らかにカラス寄りのカラスの獣人がおり、ギョロっとした目で私のことを睨め付けていた。
そこには明らかな殺意がこもっており、私は逃げることも出来ずにヘナヘナとその場に座り込んだ。
「・・・ど、どうしてココに?」
私は蚊の鳴くような声でカラスの獣人に問うと、カラスの獣人はあざ笑うかのようにこう言いました。
「いつまでも言い伝えなんかに怯えてられないからな。俺の様な勇敢な若者はこの森での探索を始めていたんだよ。ジジババは怯えていたが、森には何も居ないじゃないか。全く笑えるぜ。」
それを聞いて私は泣きたい気持ちになった。終わった、何もかも、私の人生はココで終わるんだ。せめて最後にカカシさんに会って死にたかったな。
「カーッカカ♪良い顔だ。この世の終わりみたいな面してるな。だが、ただでは殺さん。今から村の皆をココに呼んで全員でお前をジワジワと嬲り殺しにしてやる。言っておくが逃げ切れると思うなよ。さっきお前の体にこっそり探知魔法をかけておいた。これで何処に逃げようがお前の場所は丸分かりだ。じゃあせいぜい残り少ない余生を楽しむんだな♪カーッカカ♪」
カラスの獣人はそう言ってバサバサと飛んで行ってしまった。
暫く私は茫然としていたけど、あまり呆けている時間も無い。早くここを離れないとカカシさんにも迷惑が掛かるかもしれない。
なのでいち早くカカシさんから離れる必要があったのだけど、せめて最後に一目だけでもカカシさんに会って別れを言いたくなったのは、あまりに身勝手な私の我儘だった。
「どうしたんですか?そんなに青い顔をして?何かありましたか?」
小屋のある広場に戻ると、カカシさんはいつもの淡々とした口調で私にそう話し掛けてきた。この声も聞こえなくなると思うと寂しいな。
「カカシさん、長い間お世話になりました。突然ですが私はココを離れないと行けなくなりました。もう会うことは無いですがご達者で。」
ペコリと頭を下げる私。この顔を上げてしまえば、あとはカカシさんを背にして走り去らないといけない。それは何とも悲しくて、きっと私は泣いてしまうだろう。泣きながら走るのだろう。でもそれしか道はない。
「ノワールさん、顔を上げて下さい。大方、追手の村の住人に見つかってしまったのでしょう。」
「えっ?なんでそれを?」
ビックリして私が顔を上げると、カカシさんは真っ直ぐに私を見つめて何か観察している様だ。
「アナタの表情を分析したところ、そうではないかと予想しました。しかし、その程度のことで悩む必要は全くありません。私にお任せください。カラス相手の対策は一番得意とするところです。」
「そんな相手は獣人なんですよ?きっと今度は大勢で来ますし、個々の戦闘力も高いですし、統率も取れていて集団で掛かれば、あのドラゴンだって倒すこともあるんです。」
「ほぉ、それは思ったより強そうですね。」
私が何を言っても慌てる様子もないカカシさん。そんな彼に少しだけ腹が立ったけど、こうしている間にも私が離れれば良いだけの話。本当にこんな別れ方はしたくなかったけど、生きていると思い通りにいかないことなんていっぱいあるもんね。
「さよなら、カカシさん。私はもうここを離れます。アナタと過ごせて楽しかっ・・・。」
「別れの言葉の最中に申し訳ありませんが、私のレーダーが東の方角の空から獣人の集団の存在を感知しました。どうやら逃げるには遅かったようですよ。」
「えっ?」
私が東の空を見ると、確かに多くの黒いポツポツとした点が見え、それが段々と近づいて来るのが嫌でも分かり、ある程度近づいてくると自分の村のカラスの獣人達だと確認することが出来た。
早い、あまりにも早い。私はあまりのショックでその場から逃げることも出来ずに、ただ呆然と近づいて来るカラスの獣人達を見つめていた。
「ごめんなさいカカシさん、ごめんなさいカカシさん。ごめんなさいカカシさん・・・。」
壊れたお喋り人形の様に何度も何度もカカシさんに謝る私。私一人が殺されるのはもう覚悟の上だけど、カカシさんが壊されるところなんて見たくはなかった。カカシさんを巻き込んでしまった事は謝っても謝り切れるものじゃない。それは分かっていて、許されようとも思わないけど、私にはもう謝ることしか出来ることが無かった。
「謝らないで下さいノワールさん。むしろ私にとっては好都合なのですよ。アナタを迫害したカラスたちには多少苛立ちを感じていましたし、アナタの追手を一掃できるチャンスですからね。」
・・・強がりなのだろうか?文字通りカカシさんは手も足も出ないと思うのだけど、もしかして、この絶望的な状況で私を笑わせようとしてジョークを言ってくれているのだろうか?だとしたら本当に申し訳ない。結局最後の最後まで私はお世話になりっぱなしなんだ。
カラスの獣人達は私達の近くまで来るとコチラを見下ろし、カーッカカ♪といつもの下卑た笑いの合唱を始めた。ザッと見ても50人は居るので、やたらと響いて耳障りな事この上ない。人を殺すのがそんなに面白いのだろうか?私には理解出来ない。優しい父さんはコイツ等から異常者扱いされたけど、私から見たら血も涙もないコイツ等の方がよっぽど異常だ。
「ノワール、これからお前を痛ぶりながら殺してやる。泣き叫ぶ準備は出来たか?」
獣人達のリーダー格の男がそう私に告げる。泣き叫ぶ準備なんてどうでも良い。ただ私は万に一つの望みをかけて、恩人であるカカシさんだけは助けたい。
なんて出来もしないことを私が考えていると、カカシさんは上を向いてカラス達にこう言い放った。
「貴様らの方こそ、泣き叫ぶ準備は出来たか?ノワールさんの涙の分だけ地獄を見てもらうぞ。」
いつもの淡々だけど、何処か力強く、何処か殺意のこもった話し方。
そうして次の瞬間、カカシさんがガシャンガシャンと音を立てて、その体を変化させていき、両手と両足が付いた見た目は人間と変わらない姿になったので、私は腰が抜けそうになるぐらい驚いた。
「ふむ、人間形態に移行問題無し。」
自分の右手をグーパーするカカシさん。こんな姿になれるなんて聞いてない。聞いてないよ私は。
「あ、あのカカシさん、人型に成れたんですか?」
「えぇ、知りませんでした?ということは私のことは固定砲台ぐらいに思っていたんですね?少し心外です。」
「あっ、ごめんなさい、ただ驚いちゃって。」
「ちなみに、アナタと初めて会った日、この姿で傷ついたアナタを小屋まで運んだんですよ。大したことじゃ無いので言いませんでしたが。」
そうか、これで謎が解けた。カカシさんが人型に成れるなら私を運ぶことは容易。改めてカカシさんには感謝の言葉しかない。
「カーッカカ‼人型に成れるからどうしたというのだ‼空の敵に、詩かもこんな大勢に貴様の様な鉄屑が何か出来るのか⁉」
獣人のリーダーがそう囃し立てるが、カカシさんはこんな状況にもかかわらずクールな人だった。
「可能だ。今からその証拠をお見せしよう。ウェポン展開、アクセスコード”デストロイ”。」
ガシャンガシャンと再びカカシさんの体が変化していく、ありとあらゆる武器が体中に展開されて、質量保存の法則とか完全に無視した感じにゴテゴテの姿に変化した・・・もう開いた口が塞がらないよ。
「右肩ガトリング、左肩六連ミサイルランチャー、右手左手指先ホーミングレーザー、ブレストバーニング、左右腰部電動レールガン、両足スプレーミサイル、背部広範囲ギガントミサイル、全武装展開完了。ターゲットマルチロック。」
ブツブツと呪文のような言葉を呟くカカシさん。おそらく展開した兵器の数々でカラスの獣人達を皆殺しにするつもりだと思う。
カラスの獣人達はカカシさんの変貌に恐れをなし、本当に泣き叫びながら逃げ出そうとしている。
この時私は言い伝えの『森には近づくな』の意味がようやく理解出来た気がした。
だってこの場所には300年もカカシさんが居るから、そりゃ恐れをなして近づかないって。
「マルチロック完了。発射までカウントダウン、3,2,1」
「ちょっとカカシさん‼命までは取らないであげてもらって良いですか‼流石に同胞の死体の山を見るのは・・・。」
「0。ファイヤー。」
私の声が聞こえていなかったのか、カカシさんから放たれる雨あられの銃弾や化学兵器の数々、その全てはドドドドドドッ‼とかドヒュン‼とか音を立てながら獣人達の方に向かって行った。
これは完全に殺戮コース間違い無しかと思ったけど、その全ては逃げる獣人達を掠めて行くだけで一つも当たりはしなかった。
「ふむっ、やはり使わないとダメですね。全部外れてしまいました。」
このカカシさんの言葉を聞いて私はすぐ嘘だと思いました。それは別に私が嘘を見抜けるとかそういうことじゃなく、あれだけ撃ち込んで一つも獣人達に当たらないなんて、それこそ狙って撃たないと不可能な神業だもんね。
カカシさんは多分私の願いをちゃんと聞いていて、それを叶えてくれたんだと思う。
そういうところ凄いイケメン、もといイケカカシだよね。
~一ヶ月後~
『カラス共を追い払うにはこれぐらいの武装は必要じゃろ♪』
マスターが私にそう言いながらウキウキ気分で武装を取り付けていたことを、この間の戦闘で武装を展開させた時に思い出しました。
ハッキリ言ってカラスを追い払うには武装過多と言わざるを得ません。
「カカシさん、本当に私に付いて来てくれるんですか?」
今日は旅立ちの日、すっかり元気になったノワールさんがそんなことを言いますが、その質問は愚問だと思います。
「はい、私はアナタのことを守りたいと思いました。ゆえに旅に同行させて頂きます。」
「そ、そうですか・・・ありがとうございます。」
まただ、また彼女は頬を紅潮させます。最近よくある現象ですが、それがどういう人体のメカニズムなのか私には分かりません。体をスキャンしても彼女の体には異常は見られないので大丈夫とは思いますが、気を付けておきましょう。
かくして私は300年立ち過ごした場所を離れて、二本の足で地面を踏みしめ、ノワールさんと一緒に旅に出ることにしました。
まだよく分かりませんが、こういう心のままに行動するのを自由と呼ぶのでしょうね。
それでは皆さん、ごきげんよう。
KAKASI~彼が自由に生きるまでの話~ タヌキング @kibamusi
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