第33話 エピローグ

「しかし、今回の事件はヤクザの組織に捕まったり大変だったね」

 あかねは真に言った。

「まあ、そうですね」真は答える。

 笹井探偵事務所で二人は話をしていた。あの事件から一週間後が経った。菅からの成功報酬の金銭も受け取り、あかねは大層喜んでいた。

「これで、危なっかしい事件もいけるんじゃない?」

「いや、僕はあんな危険な場所に監禁されたくないですよ。実際に緊張して手も震えてたし……」

「まあ、あたしだったら、その場所に堪えられなかったな。そう考えると、真君って凄いね」

「凄いというか、監禁された以上、助けを呼ぶしかないですから……」

 真はあかねが作ってくれたインスタントコーヒーを飲んでいた。お湯との配分が悪く、あんまり味がしない。

「でも、残念だったね」あかねはぽつりと言った。

「何がですか?」

「つむぎとの送り迎えのデート。真君楽しみにしてたからさ」あかねもインスタントコーヒーを飲む。

 真は口に含んでいたコーヒーを思わず吐き出しそうになった。

「何を言っているんですか」

「だって楽しみにしてたんでしょ」

 あかねは真を見ながら言った。しばしの沈黙があった。

 もう、自分はつむぎのことが気になっていると言ってしまおうか。ここまで分かってしまっているのなら……。

 真は口を開いたときに、あかねは真の背中を思い切り叩いた。

「何て、冗談だよ、冗談」

「いててて」

 真は背中をさすって痛そうにするが、内心ホッとした。

「お、二人とも仲良くやってるじゃないか」

 そう言って、菅が事務所のドアを開けて中へ入った。

「やってるって、たわいのない話をしてるだけだよ」

「何だ、探偵調査じゃないのか?」

「そんなこと、ないない」と、あかねは右手を横に振った。「依頼はすっからかんだよ」

「真君はあの後、出版社から雑誌を出したんじゃないのかい?」

「はい。でも、その文面を書いていいこととダメなところがあるんで。監禁されたところは発表しましたけどね」

「それで、結構人気があるよね」

「そうですね。この前と同じくらい売れ行きがいいです。社長も凄く喜んでました」

「それは良かったね」

「ねえ、菅さん。新しい事件とかないの?」あかねは腕組みをした。

「あるよ。でも、君たちを巻き込む必要はない。事件何ていつどこででも起こってるものさ」

「えー、頂戴よお。菅さん」

「もう、仕方ないな。じゃあ、一つ君たちに事件を解いてほしいものがあるな」

「何?」あかねは目を輝かせた。

「俺の息子が十八なんだが、どこの大学に行ったらいいか教えてくれ」

 そう照れ笑いしながら頭を掻く菅に、あかねはインスタントコーヒーを一気に飲み干し、大きなため息をついた。

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真、旅の記録 つよし @tora0328TORA

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