最強最悪の傭兵

@azuma-higashi-sei

最強最悪の傭兵、その名は狂帝

 この大陸には狂帝と呼ばれる、金を払えば何でもする傭兵の男がいた。

 そう、傭兵だ。

 その名は狂帝。彼の本名を知るものはごくわずかである。

 そんな彼の家に、一人の貴族がやってきた。


「おお、お前が狂帝か!」

「ああ、私が狂帝だ。何か依頼でもあるのかね、貴族殿」

「私に歯向かう愚かな冒険者がいるのだ。1千万やる。あのSランク冒険者の女…レイ=ミルデッドを殺してほしいのだ。私が奴隷売買しているからと言って、どなって私を殺そうとしてきているのだ!あの女だけは許さん、殺してやる!」

「…そうか。しかしまあ、1千万とはな。それは非常に美味い金額だな。いいだろう、その依頼、引き受けてやる。ただし、金は先払いだぞ」

「わかっているさ。頼んだぞ、狂帝殿」


 狂帝のもとにやってきた依頼は、大陸最強と言われており、【氷剣】の異名を持つSランク冒険者、レイ=ミルデッドの殺害だった。

 数々の魔獣を倒し、【勇者】の生まれ変わりともいわれているレイ。そんな大層な人物の殺害。どうしたものかと狂帝は少し考える。おそらく一筋縄ではいかない。レイの強さは。何か策が必要かもしれない。

 いや。自分の力は自分が一番知っている。なら。


「…少し、面倒な依頼を引き受けてしまったか。ただ…」











「ありがとうございます、レイさん!あなたのおかげで、この村を悩ませていたドラゴンがいなくなりました!」

「いえいえ。村の皆さんが無事で何よりです。これからも、なにかあれば私を頼ってください!」


 レイ=ミルデッドはパーティーメンバーとドラゴン討伐の依頼をこなしたところだった。村人から感謝され、祝賀会をやるので参加しないかと誘われたが、明日も予定が詰まっている。参加したい気持ちはあるのだが、申し訳ないと断った。


「いやー、ドラゴン討伐も簡単だったねー。祝賀会参加したかったなぁ」


 そう話すのはレイのパーティーメンバーであるハルス=バレイラ。きれいな金色の髪を持ち、魔法を愛する女性だ。


「しかし、俺たちにも予定が詰まっている。ここで止まってしまうと、迷惑をかけてしまう」


 こちらはパーティーメンバーの一人であるガンズ=グライ。青い髪をしており、かなり高価そうな剣を帯刀している男だ。


「わかっているけどさー」

「まあまあ、仕方ないですよハルスさん。私たちは皆さんに頼られる存在。ここで頑張らないと!」

「はは、レイの言うとおりだな!俺たちはこの国最強なんだ、みんなを助けて目指すはこの国の英雄だ!」


 談笑しながら深い森の中を歩くレイたち。

 そんなレイたちを木の陰から凝視する影がいた。そう、狂帝だ。


「…仲間もいるか。まだ出るタイミングではない。もっと、深くに行くまで待つか」






 レイたちはさらに森の深いところに入っていく。


「…ねえ、レイ。なんか視線感じない?」

「俺も思っていたところだ。なにか、嫌な視線を感じる…」

「そうですね。かなり、私たちの力を見定めるような視線とでも言いますか…」


 レイたちは周りを見渡す。その途端、ガンズの心臓にが突き刺さる。


「ガッ…う、不覚ッ…!」

「ガンズ!〈ヒール〉!」


 ハルスの回復魔法によって、ガンズの傷口と心臓は完璧に回復する。

 ハルスの回復魔法はとても精度が高い。普通のヒールなら間違いなく治せずにガンズは瀕死の状態になっていただろう。


「何者ですか!」


 レイは慌ててガンズの方を見る。が、そこにいるのは


「な!いない!」


 レイはさらに慌てる。確かに、ガンズが刺されたときは気配を感じた。だが、今はもう気配を感じない。


「なに!?くそ、見失ったか!」


 レイ、ガンズ、ハルスは何度も周りを見渡す。しかし、何度見ても誰もいないし気配を感じない。


「…ここで放っておくと、危ないかもしれません。少し時間がかかってしまうかもしれませんが、今ここで探し出して必ず倒しますよ、皆さん」

「わかった!」

「了解!」


 レイたちはさらに警戒を強め、あたりを見渡す。しかしどこにもいない。気配すら感じない。


「どこにいるのよ!」


 ハルスは探知魔法を放とうとした。その瞬間


「…え?」


 


「…は?ハ、ハルス…?」

「ハルス…さん…?」


「回復魔法を持つ奴は殺すうえで厄介だからな。一番最初に殺させてもらった」


 その声はハルスとは真逆の方向から聞こえてきた。二人がそちらの方を向くと。


「後ろががら空きだな」


「…ガァ…!くそがぁ…!」


 今度はガンズが殺される。


「…!ガンズ!」


 レイの人生の中で、こんなことは初めてだ。自分たちはどこに行っても最強だった。今まで多少の怪我はあれど、殺されるなんてことはなかった。しかも、相手は自分の目で全く追えない。

 レイは仲間を殺されたことによって、動揺してしまう。


「その動揺が命取りだぞ、【氷剣】さん」

「…な!?ガハッ…ゥ…」


 レイは狂帝に腹を殴られ、数メートル飛ばされてしまう。


「う…あ…」


 腹を強く殴られてしまったことにより、呼吸もかなり辛く声も出しづらくなってしまう。それでも、力を振り絞り、声を出す。


「あなたは…う…、何者…ですか…!」

「私はただの傭兵。金を払えば何でもする傭兵だ」


 狂帝が喋り終わったその瞬間、レイは狂帝に切りかかる。


「はああぁ!」


 ガキィン!!!


「…その程度か」


 しかしその攻撃は簡単に防がれてしまう。


「な…」

 

 レイの今の攻撃は今までの中で最も早いといっても過言ではない攻撃だった。それを狂帝は簡単に防いだのだ。


「…【勇者】の生まれ変わりともてはやされたものでもこの程度か」

「あなた…思い出しました…この…裏切り者が…」


 レイがはすべての言葉を発する前に、狂帝によって首を切り落とされてしまう。


「人を殺すだけの簡単な仕事だな。…しかし、裏切り者だと思われるのは心外だな。あの時は依頼だからお前に協力してやっただけだ」


 そう言い残し、狂帝は自分の家に帰った。







「狂帝殿!どうやらレイを殺してくれたようじゃないか!」


 狂帝がレイを殺した数日後、依頼をした貴族が狂帝のもとに再び来た。


「ああ。…そうだ、少し貴族殿に話したいことがある。茶でも出すから少し待っていてくれ」

「?ああ、わかったぞ」

「なに、簡単なお話だ。…なぁ、貴族殿」


 狂帝はそういうと立ち上がり、


「…ガぁ!?」


 貴族の心臓を刀で刺した。


「狂帝…どういうことだ貴様ぁ!!!」


 貴族は怒りに身を任せ、忍ばせていたナイフで狂帝に切りかかる。

 が、その手は届かず狂帝に両腕を切り落とされる。


「馬鹿な貴族だ。自分にも殺害依頼が来ているとも思わずに」


 狂帝はそう言うと、その貴族を殺した。

 

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