第11話



 久しぶりに死ぬ以外の夢を見た。


 それはとても懐かしく…俺がまだ小さかった時のこと。

 今世を合わせれば20年も前の、大災害が起きた日だ。



 俺が当時10歳の頃、それは突然起きた。


 感じたことのない大きな地震と突風。

 さらに海岸部では津波も起きて街を襲った。


『速報です!突如オーストラリアに未確認のダンジョンが出現!そ…そして!モンパレが起こりましたッ!こ…この自然災害はその発生の余波だと思われますッ!』


 全世界の人々がそんな話は信じなかった。

 ダンジョンが新しく出現するなど過去に一度もなく、さらに出現の余波で街を壊す大災害が起こるなど、常識的に考えてありえないことだったからだ。

 しかし日本の各所でも甚大な被害が確認され、ネットのトレンドは災害となった。


 そしてさらに驚くことに、続いたニュースは人々を呆然とさせた。

 それは、ダンジョン研究家が緊急で回していた動画だった。


『ありえない…!こんな数値は…!故障か!?測定器を変えろ!』


『変えても変わりません!』


 慌ただしいその研究所は世界で唯一、ダンジョンのレベルを判別する魔道具を作った優秀な研究家が集まる場所だった。

 他にもモンスターの特性や魔道具、アイテムなどの開発も進め、未知に対抗する組織だった。


『数値レベル10!!ぜ…絶級ダンジョンの2倍の数値ですッ!』


『故障に決まってる!絶級よりも上など…地球に破滅しろとでもいってるのか!?』


『原因不明!新しく出現したダンジョンを破滅級と仮定…!直ちに避難を…!これは…!人では対抗できない…』



 ーーー神の怒りだッ



 そして破滅級の出現後1時間で…オーストラリアは地図から姿を消した。


 どうしてそんなものがいきなり現れたのかはわからないし滅ぼした元凶のモンスターすら謎に包まれている。

 さらにもっと不可解なことは国を一つ滅ぼしたダンジョンとモンスターは忽然と姿を消したのだ。

 他の大陸に侵攻することもそこに定着することもなく…霧が現れたかと思うと次の瞬間には何もなかったという。


 そしてその当時、俺は…自然災害の渦中にいた。


 大地震で倒壊した建物の下敷きとなり、幸い小さな体だったため瓦礫の間にうまく収まって大怪我を免れた。

 しかし…俺は絶望したんだ。

 外はサイレンの音が鳴り響き、どれだけ大声で助けを求めてもそれはかき消されていた。


 ちょっとでも動いたら死ぬかもしれない。

 その恐怖と闘いながら、指先一つ動かさないでただ待った。


 救助してくれ


 はやく


 ここにいる


 何時間、何日が経ったのか。

 サイレンの音は止まない。

 いつ助けが来るのかもわからない。

 もしかしたら先に天国への迎えが来るかもしれない。

 そう思った時、瓦礫の間から水がポタポタと垂れるのを見た。


 雨が降っていたのだ。

 2日か3日か。何も食べていない俺は一心不乱に垂れてくる汚い水を飲んで生きながらえた。


 そして…強い光を浴びた。


『いたぞー!息をしてる!周囲の瓦礫を完全に除去しろ!』


 そこにいたのは自衛隊や消防隊ではなくダンジョンに潜る探索者たち。



 ーーーーもう大丈夫よ



 そう言ったのはどんな人だったか。

 顔も名前も覚えていないけれど、その声と言葉だけはしっかりと脳裏に焼きついていた。



 どれほど救われたか


 その優しい声にどれほど安心したか


 この感情は…感じた心は今でも俺の胸の中にある。


 そして、俺が強くなろうと思ったきっかけだった。


 助けられる側にいたくない。


 強くなりたい。


 あんな鳴り止まないサイレンをもう聞きたくない。

 あんな恐怖を体験させたくない。


 俺はモンスターを殺せるぐらい強くなって、


 それで救われる人たちがいっぱいいるようにする。


 もう大丈夫なんて言葉を俺は言えないから



 ーーー実力で平和を守る





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……なんて思ってたなぁ…まじでなっつ…」


 久しぶりに小さい時の夢を見て動機を思い出した。



 今も一応、根幹はそれではあるのだが、だいぶ汚染されている。



 ・・・ダンジョン超楽しいという感情と最速になりたいという意志に




 まぁ全部繋がるだろうからいいか。

 平和であるようにするためには強くなる必要がある。

 強くなるにはダンジョンに行かなければならない。ダンジョンにいけば最速に近づくしスリリングで生きている実感もある。


 結果オーライだな。



「っていうかあの人の顔がまじで思い出せねぇんだよな」


 もともと意識が混濁状態だったせいもあるだろうがなぜか全く思い出せない。


「うーん、絶対超級以上じゃねぇから生きてればそのうち会うかな?」


 会ったらお礼を言いたい。

 まぁ体は全然違うけども。



「っぅし!今日もダンジョン行くかー!」



 死ぬ夢を見なかった体のコンディションは抜群。

 絶好のレベル上げ日和だ。



 ガチャ


 支度をして寮のドアを開けると、そこには探索者が一人いた。

 その顔は引き攣り、こめかみをピクピクとさせている。


「白銀さん…ダンジョンに行くみたいな掛け声聞こえたけれど、気のせいよね?」


(っち!叫ばなきゃよかった)


 この人は俺の監視役を任された上級探索者だ。

 ダンジョンに初めて行った日からこうしてずっとお目付け役として俺の部屋の前で待機してる暇人だ。


「逃がさないからね?今日は絶対、大人しくしててください」


 本気で行かせないつもりなのかさすがの雪も顔を引き攣らせた。


 俺はまだ上級上位ほど闘気を練れないしスキルだって一つも覚えていない。

 逃げるのは骨が折れるしたぶん相当時間がかかる。


(はぁ…今日はどうすっかなぁ…ダンジョンに行けないなら魂の鍛錬は無理だ。体力作りもこの年じゃこれ以上は伸びないだろうし…闘気の鍛錬もなぁ…俺、纏う以外できないみたいだし…)


 あと半年は続けるつもりだった闘気の形状変化だが…当主から『お前そっちの才能ないから無理』と言われたばっかだ。


 魂から溢れる闘気は魂に起因する。

 あくまでたとえの話だが、腕がない状態で生まれた人に腕を生やしてみろと言っても無理だろう。

 魂も一緒で柔軟性のようなものがない人に形状変化をやらせても一生できないというわけだ。


 だから俺が生涯で使える闘気は身体強化と硬化のみだ。

 そしてこの二つは子供の成長速度補正でもう身についているから、本当にあとは体の成長を待つのとダンジョンに行って魂を強くしていくしかないのだ。

 スキルがあればそれの修練ができるのだが…あいにくとあと三年は待たないといけない。



(やっぱダンジョンしかないから行くか)


「どこ行くんです?」


「しょくどー」


「………」


 少し後ろをついてくるこの人をどうにかして撒かないといけない。

 さらに撒いた後もダンジョン内で見つかっては意味がないため浅層での狩りはできない。


 どうすっかなぁ……………と?


 悩んでいた矢先、神が強くなれと言っているかのようにそいつは少し先に現れた。


 なすりつけれる絶好のカモである。



「おっ!ちふゆー!朝飯か?一緒に食おうぜー!」


「ちーちゃんやっほー」



「おう、千紗。ちょっとこいつ借りていいか?」


「…え?優を?ちーちゃんが?」


「おう!」


 そう返事をすると千紗はぱーっと顔が明るくなった。

 おそらくようやく仲良くする気になったんだとか思ってそうだけど、すまねぇ。

 そんな気は毛頭ない。


 闘気開放


「「「「!?!?」」」」


「死ぬなよ?」


「な…なにを…」


 黒鉄の血が流れているからなのか普段の訓練のおかげか、優という人間は驚くほど頑丈だ。

 それこそ8歳とは思えないほどに。



『瞬歩』


 速く動くイメージと言葉のトリガーによる脚力強化『瞬歩』を発動し、一気に優の背後へと回る。


 そしていつも通りの掌底。


「ふっとべぇ!」


「ぃぃぃ!?」



 それは生存本能か。

 はたまた何度も受けたことがあるからなのか。

 優は驚きながらも無意識に体を少し逸らしていた。

 そして、雪の掌底は空を押しただけ。



「……じゃぁな!」


 闘気のスピードに反応したことに驚きはあるが、俺だっていつまでも同じではない。

 足に闘気を纏わせ、それで思い切り優を蹴り飛ばした。


 そして吹き飛ぶ先は探索者のいる方向。


「ははは!そこで大人しくしてろー!『瞬歩』」



 瞬く間に離れていく身勝手すぎる雪に、千紗はキレた。


「……帰ったらとっちめてやるからなぁ…!!」


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転生した白い魔剣士の冒険譚〜前世はノロマで今世は最速〜 鷹鞘 @naohari25

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