全てが終わった、その後に
久しく訪れていなかった来客に、目を丸くする。
その姿は、最後に顔を合わせた時と変わらないもの。
十代半ばの、まだ少年と言ってもいい姿。
とはいえ……依り代になっていた
何せこいつは――ヒトでは、ないのだから。
『――よう、久しぶりだな』
その声は低くしゃがれており、地の底から響くようなもの。
『あれから……ざっと一年くらいか。
思ったよりは元気そうで何よりだよ』
「……あんたは」
もう二度と、出会う事のないだろうと思っていた相手。
――■■■、■■■■■■■■。
本当の名前は別にあるらしいが、確か人間には聞き取る事も、発音する事も出来ないとの事なので、あまり意味はない。
■■■■■■■■という名は即興で考えたそうだが、随分で気に入っていた様で。
敵からも味方からも、滅多に呼ばれることが無いことに不満を覚えていたのを記憶している。
この再会には……正直な心境を言えば、複雑な気分だ。
結果だけを見れば……俺
けれど……あの時、心から力を欲したのは自分自身の意思であり、あの選択を少なくとも俺は後悔していない。
―――幸せになる事が一番の復讐?
糞喰らえだ。
訳知り顔で偽善者共が宣う、
あの
この手で直に叩き潰し、その魂の一片までを燃やし尽くして薪として使い潰し――ようやく、プラスでもマイナスでもない、ゼロに戻れたのだ。
「生きてた……のか?」
『正確には少し違うが……ま、ぎりぎりでね。
ここまで力を取り戻すのにも大分苦労したんだが……
何とかこうして戻って来れたよ』
へえ、と相槌を打ってから、改めて尋ねる。
「……で、今更何で俺の所へ?」
『それに答える前に、だ。
念のため、一応聞いておくがねえ――俺ともう一花、咲かせてみる気はあるか?』
「いや……俺は」
もういい、とだけ相手の問いに答えた。
俺は……いや、あの時あそこにいた連中の大体は、やるだけのことはやったのだ。
『だろうな。ここに来るまで何人か回っては見たが、似たようなもんだった。
どいつもこいつもまるで抜け殻、正直がっくりきたよ』
空っぽになるまで、俺達は何もかもを燃やし尽くし走り抜けた。
その結果、ものの見事に
……というよりは、実の所、勝とうが負けようがどうでもよかった、と言ったほうが正確だろうか。
目の前のこいつの意図はどうあれ……結局の所、俺達にとって
『まあ駄目で元々くらいのつもりだったし……別にそれはいいんだがね』
「いいのかよ。
……本当に、何しに来たんだアンタ」
てっきり、用済みとばかりに始末されるものかと思っていたのだが。
まあそれならそれでも構わないと思ってしまうあたり、我ながらすっかり枯れてしまっているようだ。
文字通りの――燃え尽き症候群、という奴だろうか。
特に、ここ最近はただぼーっと呆けているばかりだったしな。
『
に、してもねえ。
人生長いんだ、何か新しく趣味でも見つけてみたらどうだ』
「……趣味か」
贅沢は出来ないが、金に困っているわけではない。
捨扶持のようなものだろうが、死ぬまで食っていくのに困らない程度の額は渡されている。
やろうとおもえば、人並に何かはできるのかもしれない。
とはいえ、どうしたものだろうか。
思い返せば、常に傍にいた
――全く不愉快だ。
社会に出て
子供が生まれたのだとがむしゃらに働き続けて、あれから何年経ったのだろうか。
――反吐が出る。
一度は人間を辞めて、またこうして戻ってくる羽目になって改めてつくづく思い知る。
俺の過去には、価値あるものが……使えるものが、何も残っていないのだと。
うんざりするだけの思索を打ち切って、浅く息を吐く。
まあ、それならそれで別にいい。
「じゃあ何か、適当な奴でも探してみるさ。
お迎えが来るまでの……
『そうか。色々と先は長そうだが……精々気張ってくれ』
ったくどいつもこいつも、とどこか呆れた様な声音でぼやき、立ち上がる■■■へ……行くのか、と声をかけると、
『その為に力を蓄えてわざわざ戻ってきたんでね。
ま、以前程に派手に暴れるわけじゃないからな。
今度はお前らを巻き込むことも……まあ、ないだろうよ。
精々じっくり余生ってやつを楽しむといい』
「……ああ」
嫌味のつもりだったのか、こちらの受け答えに、やれやれだねえ、とかぶりを振って、
『じゃあな』
その言葉を最後に、
また、別の
いや……気にしても仕方がないか。
少なくとも、
ならば残りカスなりに、何か出来る事を、これからやりたいことを探してみることにしよう。
……そんなものが、本当に見つかるかは、わからないが。
時間ならばいくらでもあるのだから。
幼馴染は■■■■ 金平糖二式 @konpeitou2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます